催眠使いエロ男子くん、SFな世界に追放される!

M.M.M

第1話女体水泳は男の夢


「森羅くーん!」

「準備できたよー!」

「早く来てー!」

「はーい!」


 才川森羅は素敵な光景にうっとりして鼻を伸ばした。

 学校のプールの隣で水泳部の女子たちが床に仰向けになり、女体ロードを作っているのだ。

 大小さまざまな胸のふくらみを持つ女子たちの上を彼は水着姿で滑り始める。


「それー!クロール!クロール!うはははは!」

「きゃああっ!」

「やーんっ!森羅くんってば変なとこ触ってるー!」

「もう!エッチすぎー!」

「うはははは!このプールなら世界記録を狙えるぞー!」


 天国はきっとこんな場所だろうと彼は思った。

 本来なら自分のことなど歯牙にもかけない女子たちが体を好きに触らせ、どんな命令でも聞いてくれる。そんなことが可能になったのは1ヶ月ほど前だ。突然、他人に強力な催眠術をかけられると気づいた彼はクラスメイトでいくつか実験し、有効となる命令の範囲、催眠をかけられる人数、期間などを調べた。

 そして……エロい目的のために能力をフル活用していた。


「ははは!今度は平泳ぎだー!」


 彼は女体を滑りながら彼女らの柔らかい凹凸を堪能する。

 ぽよん。ぽよん。ぷにょん。ぷにょん。

 体のあちこちに女子の柔らかい部分が当たり、彼はこう思った。

 もういつ死んでもいいかも。

 男にとって至福と堕落を極めた女体水泳に文字通り溺れ堕ち、だからこそ彼は周囲が真っ白な空間に切り替わり、彼が泳いでいた女体の川が消えたことにもすぐには気づかなかった。


「ははは……はは……え?」

 

 白い床の上で平泳ぎしている自分。

 それに気づいてフリーズとしていると真後ろから冷たい声がかかった。


「醜い」

「へ?」


 彼が振り向くと裁判所になるような巨大な机と金髪の美女が目に入った。

 美女はギリシャ神話のような白い布をまとい、その美貌には怒りと侮蔑が刻まれている。


「醜い。醜い。醜すぎます。事故とはいえ貴方のような輩に強大な力を授けてしまった自分が情けないです」


 森羅を見下ろす美女は呪いの言葉を唱えるように言った。


「えっと……ここはどこ?」

「説明してあげましょう。あなたに発言した能力は私の管理する世界に時々起こるバグのようなもの。偶然起こる事故です」

「は、はあ……。え?ひょっとしてあんたって神様みたいな存在?」

「そうです。理解が早くて助かります」

「おお……」


 神ならいかにもという姿に彼はあっさり納得してしまった。


「いきなりですが、あなたをあの世界に住まわせるのは危険なので追放することにします」

「は?」


 神の言っていることを彼は理解しようとした。

 追放。引越しや転移などという優しい言い方ではない。


「それってつまり……地球から追い出すってこと?」

「はい」

「そんなあああああああ!」


 彼は立ち上がって女神のいる机に迫ろうとしたが見えない壁に阻まれた。


「嫌だー!元の世界に返してくれー!」

「そう言うだろうと思いました。いいでしょう。選択肢をあげます。能力を消して元の世界に帰るか、能力を持ったまま追放されるか」

「ええー?いきなりそんな2択を迫るの!?」


 それを聞くと神は大きくため息をついた。


「選択肢をあげるだけでもありがたいと思いなさい。あなたの前に時間を止められる能力持ちの人間を追放させましたが、その時は問答無用でしたよ?」

「それはさすがに酷くない?」

「ええ、私もあれについては少し反省してます」


 少しかよ、と彼は内心でつっこんだ。

 もちろん声に出す勇気はない。


「ですから今回は選ばせてあげます。ほら、早く選んでください。能力を消して戻りますか?追放されますか?」

「し、質問!追放されるとしたらその世界ってどんな場所ですか?」

「それは教えてあげません」

「ぎぎぎぎ……」


 彼は目の前の神に軽く殺意を覚えながら考えた。

 元の世界で普通の人生を送るか、ワンチャンかけて能力を持ったまま異世界に行くか。人生でこれほど絞ったことはないというほど知恵を絞った。


「もう1つ質問!追放されるとしたら俺は元の世界でどういう扱いなんですか?死んだことになるとか?」

「いいえ。初めからいなかったものとして調整します」


 そこで彼はまた考える。


「まだですか?あと10秒で決めないと私が勝手に決めますよ」

「ぐおおおおおおおっ!」


 森羅は水着一枚で頭を抱え、そして一つの結論を出した。


「べ、別の世界に行く!」

「本気ですか?」


 神は呆れの感情を隠さなかった。


「あなたにも元の世界に家族や友人がいるでしょう?会いたくないのですか?」

「俺、もう高校生だし、親から自立していい歳でしょ?友人は、まあ、むこうでも作れるだろうし」


 彼はどきどきしながらの反応を観察した。

 逆鱗に触れて殺される可能性はゼロではない。


「わかりました。もはや何も言いません。では、これにてお別れです」


 神がそう言った瞬間、森羅の立つ白い床が黒くなり、彼の体がずぶずぶと空間に沈んでゆく。


「うおおおおっ!」

「今なら地球に戻ることもできますが、本当にいいんですね?」

「ああ!俺の異世界大冒険を見守っててくれ!」


 彼には一つの計算があった。

 これが「追放」でなく「処刑」なら考えるまでもなく元の世界に返っただろう。しかし、追放なら新しい世界はしばらく生存できる環境のはずだと。


(空気がなくていきなり窒息死ということはないはず!気温や重力も地球に近いはずだよな?あと「友達はむこうで作れる」という言葉を神は否定しなかった。つまり人間かそれに近い生命体がいる世界だってことだ。どうだ、この名推理!?)


 彼は自画自賛して神様に手を振る。

 すると高次元の存在は最後にこう言った。


「あ、そうだ。追放先で即死するかもしれません。その時は運が足りなかったと思ってください」

「ちょ」


 何かを叫ぶ前に黒い空間は彼をずぼっと飲み込んだ。

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