第13話 女性だけの華やかな世界を見物してみた噺

 転移された先は、これまた思いも寄らぬ景色が拡がる、夢物語のような世界だった。


「空がピンク色をしてるんだな。雲も赤みがかってやがる」


 大地もオレンジや朱色と言った暖色系が目立つ、間違いなくウイック達は元いた世界ではない場所に立っていた。


「ここから太陽が沈む方へ向かって進むと、大きな都市に出ます。そこにある王城で、メルティアンの女王陛下に謁見願います」


 案内役のイシュリーはこの世界に明るく、様々なことを教えてくれた。


 メルティアンの郷と言うのは、ウイック達の世界での俗称で、本来はラムーシュと言う名で呼ばれる精霊が生まれ育つ世界、精霊界と呼称される世界だとか。


 そこに住まう人種ひとしゅの女性達をメルティアンと呼ぶのだ。


 飛ばされたのは山の麓、少し離れた場所に石積みの外壁が見える。


「あそこが王都です。名をラクシュと言います」


 ビーストマスターは獣王の位を受け継いだとき、精霊の女王から門番となる承認を得るために、この地に訪れる。


 イシュリーはその後も何度となく訪問している。女王に気に入られて、時折話し相手になりに来ているのだ。


「女王ティーファ=ベルビアンカ=ラクシュバーム陛下は気さくな方で、神殿に来る挑戦者の話を聞くのがお好きで、私はその度にご馳走で迎えられているんです」


 程なくして足を踏み入れた街は、王都と言うだけあって結構な賑わいで、当然の事ながらここには女性の姿しかない。


「若い人が多いのね。あまりご年配の方は見掛けないわね」


 王宮は街のずっと奥に見えているが、少しだけ道を逸れて、バザーを眺めながら街並みを観察してみる。


 食材も色とりどりで、見た目ではどんな食感、どんな味わいなのか想像も付かない。


 衣類などは向こうの世界とあまり大差はない。建物の様式も帝国や王国の物にかなり似ている。


 ミルが気になったのは、子供の数も思いのほか多いように感じた事。


 楽しそうにはしゃいでいる子よりも、落ち着いて買い物を、大人相手に交渉を楽しむ子の方が多いだろうか? 見事な値切り交渉が聞こえてくる。


「ちゃんと翻訳機も使えるのね」


 冒険者の必須アイテム。理力を用いて、脳領域で意識を統合して、言葉を通じ合わせる道具は異世界であるここでも、ちゃんと機能を果たしてくれた。


「そろそろお城に向かいましょうか」


 これ以上女王を待たせるのもよくない。


 見た事のない風景をもう少し楽しみたいところだが、イシュリーに背中を押され、少し足を早めて王宮に向かう。


 これも当然の事ながら、フルプレートアーマーの甲冑姿の門番や、訓練中の兵士もみんな女性。その動きもどことなくしなやかさを感じる。


 宮殿内に入ると、清楚な衣装のメイドや、フォーマルなスーツを身に纏う高官らしき人物とすれ違う。


「そう言えばウイック、こんなに女性がいっぱいなのに、あんた全く騒いだりしないわね」

「うん? そうだな。なんかそんな気分にならないな」


 ミルの言いたいことを察して、ウイックは改めて考えてみる。


 普段なら所構わず声を掛け、公共の場でも平気で悪戯の一つでもしているところだが、環境が変わったからか、変な衝動は全く起こる気配もなかった。


「それは文様の効果ですね。今のウイックさんは身も心も乙女ですから」


 女が女をと言う構図は、どこの都市でも当たり前にある事なのだが、ウイックにはそちらの気はなく、いかがわしい感情は沸き上がらないでいた。


 イシュリーはこの世界の門を守る者として、こちらでは位の高い扱いを受けている。


 突然訪問したように見えて、話は既に通っているかのように、セキュリティーチェックの一つも受けぬまま、謁見の間まで素通りすることが出来た。


 高官と思われる女性の中には足を止め、会釈する者もいたくらいだ。

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