第14話 精霊の国の城、謁見の間での噺

「イシュリー=ビーストマスター、参りました」


 謁見の間の入り口に立ち、大きな声で呼びかけると、重々しい音を立てて二枚扉は開き、レッドカーペットの先にある玉座が目に入った。


 玉座は二つ、座っている人物は一人、10歳(?)程度の少女が、こちらをジッと見ている。


 謁見の間にはわずか数名しか人はいない。玉座の少女とその傍らに立つ高官は、腰にレイピアを帯剣している。


「陛下がお待ちです。御前までお進みください」


 入室する三人は大広間を玉座の前まで歩み寄った。


 空席は女王を待っているのか?


 高官は陛下がお待ちだと言って招いたが、誰かが登場する気配はない。


 この少女はおそらくこの国の王女様なのだろうが、どうにも目付きが子供らしさに欠けている。


「よく参られたビーストマスター。そちらの二人が、試練を乗り越えた者達なのだな」


 少女は落ち着いていて、風格ある振る舞いをもって、三人を迎え入れてくれた。


 入り口を固める槍を持った兵士が二人。


「ここの警備はもうよい、下がっていいぞ」


 兵士達は幼女に命ぜられて、直ぐ退出してしまい、ここには五人だけが残された。


「して、どちらが獣王殿を屈服させたのだ? いや、ずっと宝玉で見ておったから分かるぞ。秘術士もう少し前へ、しっかりとその顔を見せるがよい」


「なんか不躾な王女さんだな。俺たちは女王陛下に呼ばれたんだろ? 女王が来るまでこの子の相手をしろって事か?」


 性別は変わってもウイックはウイック、こういった公の場が好きではないのは見てて分かるが、だったら少し黙っていて欲しい。


 ミルは肘鉄を打って合図をするが、ウイックはあえて無視をする。


「あとは私が話を進めるから、ちょっとあんたは黙ってなさい」


 玉座までは届かないように、気をつけて囁いてみても、不敵な笑みを浮かべ続けている。


「あの方が女王陛下ですよ。ウイックさん」


 イシュリーはウイックに耳打ちをした。


「……なんと?」


 流石に今の一言を、ウイックは聞き流す事はできなかった。


 一瞬何の事か分からなかったが、イシュリーはこんな場面で、つまらない冗談は言わないだろう。出会って間もないがそんな確信は持てた。


「ああ、もしかしてこの国は、王様は小さい頃から受け継ぐものなのか?」


 もう完全にミルの言う事は聞く気がない。ここは短剣で刺してでも黙らせる必要があるのか、ミルは本気で悩んだ。


「お前、さっきからちょっと失礼じゃないか? なぜ私が王ではないと疑ってかかっているのだ?」


 女王陛下は穏やかに問いかけてくれているが、怒らせてしまった事には違いない。ミルの恐れていた通りになってしまった。


「いやいや、ちゃんと理解してますよ。この国では10歳くらいで成人させられるってことだろ?」


「貴様、陛下が優しく接してくださるからと、そのような態度で」

「まぁ、待てエレノア!」

「しかし陛下……」


「いいからここは私に任せろ」


 敬語を使う習慣のないウイックの粗雑な物言いに、もとより女王の言葉を全く信用しようとしない男に、側に仕えている高官が、声を荒げようとするのを手で制止、玉座の幼女は意地の悪い表情を浮かべた。


「お主も人を見た目で判断するのは良くないぞ。それでは聞くが、お前は私がいったい何歳だと思ってるのだ? それを当てられれば褒美をやらんでもないぞ」


 やけに楽しげな幼女陛下に、ウイックもほんの少しだけテンションが上がる。


「いいだろう。それで俺が大幅に外した場合、罰則とかあるのか?」

「いや、これはゲームだが、あえてペナルティーは付けずにおいてやるぞ。私はお前の驚く顔が見たいだけだからな」


 その自信満々の態度。


 どうやら想像より、かなり年上に見ないといけないのようなのだが。


 しかし10歳くらいと言うのも、相手が女王様と言う事で、割りと高い目に見積もったのだ。いくらその上に見ようとしても限度がある。


 例えばエルフなどは長命で有名ではあるが、その成長速度は人間と、ほとんど変わりはない。成長しきってからの代謝が変わって、長生きできる体になるのだ。


 メルティアンと言うのが、一体どういう種族なのかは全く知らないが、流石に見た目年齢がビックリするほど違うことはないはずだ。


「よし決めた。15、15歳でどうだ」


 それは少し無謀が過ぎたかもしれない。本当なら自分の年の半分くらい、と言いたくなる相手に、自分と同い年だと答えるのは、かなりの無理を感じる。


「はははっ、ハズレだ。私は今年23歳になるのだからな」


 それはもうなんの冗談だろう。ウイックの思考がほんの一瞬だけ止まるのだった。

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