第11話 伝説級の隠れ里に行くための準備をする噺

「えっ? メルティアンの郷!?」


 ミルは大袈裟に思えるほど、大きな声を上げて驚いた。


 秘宝ハンターになってまだ半年、ウイックに比べてまだまだ知らないことが多いミルだが、その伝説級の隠れ里の名前くらいは流石に知っている。


「あれ? それも知らずに来たんですか? えっ? ええっ??」


 たまにいる、たまたま石碑を見つけて転移してくる冒険者や秘宝ハンターは珍しくない。

 けれどそう言ったイレギュラーな幸運の持ち主でも、この神殿の入り口の開け方まで勘で当てられる者はいない。


 つまり中に入れたと言うことは、ちゃんとした情報を手に入れてきた。と言うことのはずなのに。


「あの商人。肝心なところ抜かして、赤っ恥にもほどがあるわよ」

「それを大声で怒鳴り散らしてるのも、赤っ恥だけどな」


 眉間から血を吹き出すウイックを余所に、ミルは大きな問題に気付く。


「確かメルティアンって、女性だけの国だったわよね」


 男子禁制とされる郷には、男が踏み込むのを拒む結界だとか、精霊の審判があるという話を聞いたことがある。


「それってウイックは入れないって事?」


「いやいや大丈夫ですよ。ちゃんと行けますとも、ウイックさんも」


 これは門の番人であるビーストマスターしか知らないことだが、メルティアンは男性の出入りを許可はしていないが、ちゃんと抜け道も用意されていた。


 いつ誰が定めた法かは記録に残ってないが、獣王が認めれば隠れ里に降り立つ事はできるのだ。


「……もしかして私が最終試練で、指名されなかったのって?」

「女性の方は自由に使えますよ。それでも篩いには掛けますけどね」


 誰彼通すわけにはいかず、女性のみの挑戦者も、ゴーレムとは闘わせる。


「ただ男性は心の強い方でないと、ちょっとあれな儀式をこの後しますので。あっ、安心してください。心の強い方は何とも感じないそうです。その為の最終試練だったと考えてください」


 力と技を極めた者は、心も研かれていると言う理念で、獣王の試練は実施されている。言うなればこれからが本当の最終試験なのかもしれない。


「ウイックさんは“性換せいかんの秘術”を使えますか?」

「使えるよ」

「ではその術と同じ効果のある文様を背中に描きます。どうかくれぐれもご自身で性転換をされませんように」


 男だから入れない。だったら女になればいい。


 単純な話ではあるが、簡単には認めない。今のこのやり取りも言わば最終審査。ビーストマスターによる面談試験なのだ。


「この証印がメルティアンの郷への通行手形となります」


 ウイックを資格有りと認め、服を脱いでもらい、その背中に精霊力を込めた文様を描く。

 最後に念を込めると、見る見るうちに姿が変わっていく。


 ミルはなんとなく興味が沸いて、ウイックがどんなスタイルになるのか見てやろうとしたが、ちゃっかり服で胸元を隠していて、ちょっと拍子抜けしたが、無理矢理に覗くつもりはない。


「確かに痛みとかなんとか、別に何も感じなかったな」


「それはよかったです」


 伝え聞いていただけで、実際のところどんな拒絶反応が起こるのか、イシュリーも知らないので心配をしていたが、何の問題も起こらなかったようだ。


「あんたって、自分の女体にも興奮したりするわけ?」


 さっきのやり取りを聞いていて、どうやらウイックは、自分の秘術で今みたいに女体になれるのだろうと察したミルは、なんとはなしに質問した。


「最初はな。けど自分の胸触っても、気持ちいいって感覚にはならなかったな。触ってる手の感触も胸の刺激に負けて、思ったような快感に達しなかったから一度で止めた」


 やることはやっていた。その辺は予想通りだったが、その経験があるからこそ、より一層他人の胸に執着するようになったのだとしたら、ただただ頭の痛い話でしかない。ミルは質問をしたことに後悔した。


「さっきも言いましたが、私がこの文様を消すまで“性換せいかんの秘術”は決して使わないでください。もし術式が重複すれば印は体内に潜り込み消せなくなります」


「つまり本当にこのまま女の子になっちゃうってこと?」


 乱れた衣服を整えるウイックの代わりに確認するミル、想像するだけで何だか複雑な気分になる。


「これで準備は完了しました。それでは早速行きますか?」

「うん? なんだイシュリー、お前も来てくれるのか?」


 まさか獣王が水先案内を買って出てくれるとは思っていなかった。番人をしているくらいだからメルティアンとの面識はそれなりにあるのだろうから、こちらとしては願ったり叶ったりなのだが。


「それはだって……」


 なにか急にしどろもどろになり、モジモジし始めるイシュリー。


「ウイックさんには私に勝った責任を取ってもらわないといけませんから!」


 顔を真っ赤にして、一息で早口言葉のように、一方的な宣言をぶつけられてしまった。

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