第10話 獣王の試練、その先についての噺

 仮面を取ってもらってハッキリとした。


 獣王はまだ年若い。あと三回満月になって直ぐに16歳になるウイックよりも年下の、まだ14歳の少女だった。


 とは言っても、ビーストマスターの名を継いでいるのは本当らしく、この神殿も12歳の頃から守っていて、もう既に10人以上の挑戦者を退けていると言うことだ。


「イシュリー=ビーストマスターって言うのか?」


「はい、そうです。……あの、そ、そろそろ!」


 ウイックの“回癒かいゆの秘術”のお陰で完全に回復するイシュリーは、胸を揉むのもそろそろ止めて欲しいと訴えた。


「あ、ありがとうございました。えーっと、そう言えば、まだお名前を聞いていませんでしたね」


 改めて自己紹介を済ませ、ウイックとミルは神殿の最深部。移動ポータルのある部屋に通された。


「またどこかに飛ばされるのか?」

「えっ、お二人の目的って、これじゃあないんですか?」


 獣王の神殿を知らないミルは、そもそもここは一体どこなのかと訪ねると。


「ここは列島大陸の極東、タングアン諸島の中でも最も東にある島です」

「そんなところまで飛ばされてきたの? あの観光地から」


 移動ポータルの存在は知っていたけど、まさかそんな距離を一瞬で飛べるなんて、思いもしていなかった。ミルは世界地図を広げて、この神殿の位置を書き記した。


 二人が使った転移門は、世界中に設置されている十カ所の石碑と繋がっている。


「なので結構いるんですよ挑戦者。私が全員と戦ってもいいんですけど、実力もないのに挑んでくる人って、面倒なんですよ。小柄な私に負けたのを認めない、いさぎの悪いのって、弱い人がほとんどなんですよね」


 そこで試練を二段階にして、篩いに掛けるようにしたのは、八代ほど前の獣王だと伝え聞いている。


「ほとんどはゴーレムすら突破できずに引き下がります」


 あのゴーレムには停止スイッチが頭部に付いているので、今回のように途中でヒントをもらい、突破する者もいるそうだ。


「私を負かす挑戦者はウイックさんが初めてです」


「イシュリーって、仮面付けているときと印象とか喋り方、全然違うのね」

「獣王としての威厳? を持てと先代から言われてまして……、それに私気が小さいから」


 素顔で対戦者に向き合うと萎縮して、思うように体を動かせなくなり、自分の体なのに自由を失うことがあり、手加減が出来なくて、相手を危うく再起不能にしてしまうことがあるそうだ。


「それであの仮面を先代の王、母が用意してくれたんです」


 仮面を付けると、意識を戦闘に集中させることができるようになった。喋り方は獣王としての威厳をこの子なりに表現しての事だった。


「それよりウイックさん非道いです」


 イシュリーはゴーレムを完全に破壊されてしまったことに抗議した。


「いくらなんでも、あそこまでやらなくてもいいじゃないですか」


 あれはイシュリーが獣王の座を受け継いだときに、先代である母親が、仮面と一緒に用意してくれた物。


「本気で襲ってきておいて、壊すなって言われても困るでしょ?」


 危ない場面はなかったが、ゴーレムの攻撃力は冗談で済むレベルではなかった。ミルの言うとおり、本気で反撃されても文句を言われる筋合いではない。


 ここでは黙っていたが、もちろんウイックはゴーレムの停止スイッチには気付いていた。しかしそんな物を使って楽をしたら、失格になるのかもと思い、破壊する事を選んだのだ。


「あれは相手の能力に合わせて、レベル設定を自己判断で行うように出来てます。あれが設定を限界値まで上げたのは、私との修行の時以外では初めてでしたけど」


 今までの挑戦者は、ゴーレムの外郭を破壊できる力を持ってなかった。

 今回は相手の力量を見極める前に、あっさりと壊されたと言ったところだ。


「安心していいぞ。そろそろ自己修復も終わっている頃だろう。あの二体はそんな簡単に、完全破壊されるようなもんじゃあないさ」

「ほ、本当ですか?」


 ウイックはゴーレムが機動停止したときに、自己修復モードに入った事にすぐ気付いた。


 イシュリーが知らないところを見ると、今までゴーレムが瞬間再生の能力以上に、大きなダメージを受けた事はなかったのだろう。


「そうか、知らなかったのか。核の再生には時間が掛かることと、ゴーレムの核は、物理攻撃では完全に停止されないってこと」


 ウイックはゴーレムの核を完全停止させる方法も知っているし、実行する能力も持っている。

 ただあれだけ良くできた作品を、無下に破壊してしまうのは勿体ないと感じていた。


「もう何から何まで、私があなた達を試す事自体、過ぎた考えだったんですね」


 慌ててゴーレムの様子を見に走り出したイシュリーが戻ってきたので、話を先に進めることに。


「こっちのポータルは、ここに来るのに使った石碑まで戻るための物です」


 これと同じ物が神殿の外、正面口から左に回り込んだところにもあって、不合格者はそれで帰って行く。


 二人が使ったポータルが神殿に繋がらなかったのは、何らかの理由で出口がズレていた為に起こったアクシデントであったようだ。


「それでこちらがお二人が臨むポータルです」


 帰還用のポータルとは別に、少しだけ大きく、豪華な装飾を施され、書き込まれた術式も複雑な石碑があった。


「私、ビーストマスターが“メルティアンの郷”への転移を承認します」

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