第8話 石人形相手にちょっとだけ本気を出した噺

 ウイックに襲いかかるゴーレムの右豪腕を、秘術で強化した右腕で受け流し、後ろに飛ぶと炎の矢を打ち放つ。


「そりゃあ効かないわな」


 無数の矢が命中しても、ゴーレムは全く意にも介さず、ウイックを追って真っ直ぐ飛んでくる。


 体中に埋め込まれた精霊石が理力を吸収しているのだろう。大技を封じたのはこの効果を最大限に使うためだ。


 強襲を右側に回避した所にゴーレムの放つ光弾が飛来する。


「そんなもん、こっちだって屁でもないぜ」


 戦闘前に既に発動している“鏡反きょうはんの秘術”によって、光弾は打った当人に戻っていく。これも当然無効化される。


「なんだこいつ、魔力を打つのか?」


 鏡の結界に受けた波動は、理力とはほんの少し違っていた。


 理力とはこの世の全ての理を紡いだマナの結晶。その中には聖光気、魔力と妖力、それに精霊力が含まれている。


 このゴーレムは精霊石で周辺から魔力だけを抽出して、攻撃に利用している。


「かなり高度な魔術で生み出されたみたいだな」


 生命のないゴーレムに理力を制御させるのは難しいからかもしれないが、今の光弾は十分な殺傷力を持っていた。


 ミルの方はどうなっているのか? ウイックは戦闘を継続しながら視線を向ける。


 無数の光弾を全て剣で払いのけ、隙を見つけては果敢に殴りかかっている。


「ちょっとウイック、これ全然切れないじゃない」


 そう、大きな剣を振り回して殴りかかっているのだ。


「しょうがないだろ。刀身を守るのが精一杯だ。そんなので斬りつけるなんて、大剣豪でないと無理な話さ」


 殴りかかった箇所が陥没するほどのダメージを与えても、時間と共に回復してしまう敵に、イライラが募り始めていたミルに、ウイックの一言で変なスイッチが入ってしまう。


「やってやろうじゃない。殴って倒せないなら切り刻んでやるわ」


 “堅硬けんこの秘術”で固めることで、棍棒状態になっているグレートソードで切るなんて事は、伝説級の大剣豪でもないとできるはずがない。


 しかし本気を出したミルは、人智を越えた集中力を見せた。

 一刀のもとに切り落としたゴーレムの腕は、重く大きな音を立てて地面に落ちた。


「マジかよ……」


 並の剣士ではないとは思っていたが、まさかの一閃をいとも簡単に生み出そうとは。


「嘘でしょ!?」


 驚きはミルの一振りに終わらず、ゴーレムの落とされた腕は瞬く間に塵となり、元ある場所で復元される。


「半端じゃない回復力だな。試練と呼ぶにはあまりに難易度高すぎないか?」


 ウイックは剛拳を目一杯に振るい、相手の表面をボコボコに変形させるが、それもまた直ぐに復活してしまう。


「おい、聞こえているか?」

「なんだ?」


 ウイックは奥の壁に向かって大声で語りかけ、向こうも待っていたかのように直ぐに返してくる。


「試練というなら、打開のヒントくらいはもらっていいと思うんだがな」


 自惚れではなく、自分達二人がこれだけ能力を発揮して突破できない物が、並の冒険者にどうにかできるとは思えない。


 最初から攻略させる気はないのだろう事は分かっていたが、こうしてこちらの問いかけに答える気を見せているのだから、少なくともこちらを気にしていることは間違いないはずだ。


「そいつらは二つで一つだ。片方だけをどうにかしても、もう片方が欠落を補うように出来ている」


 つまりは二体同時に片づけなくてはならないと言うことだ。


 だったらいくらでも打つ手はあるが、一度手を組んだ以上、相棒にも見せ場は残さないとならない。


 実のところウイックには鑑査かんさを使ったときから、このゴーレムの弱点は見えていた。


 ただその二つを同時にと言う発想がなかっただけに、なぜそんなに分かり易いところにウイークポイントが見えているのかが理解できなかった。


「ウイック、どうするの? 何か分かったんでしょ?」


 まだまだ余裕は残しているようだが、精神的には結構堪えてきているミルは答えを急いた。コツを掴んだのか、今はゴーレムの装甲をスパスパと、切り刻んでは回復を繰り返していた。


「そうだな。俺はお前みたいに、一撃でこいつのコアをぶっ壊すことはできないから、先ずは俺から攻撃を始める。お前は俺の合図に合わせてそいつを縦に一刀両断してくれ」


 ウイックは剛拳ごうけんに雷の属性を持たせ、ゴーレムの回復力を遅らせて、少しずつだが装甲を剥ぎ取り、露出するコアをあと少しで打ち抜けるところまで砕いたところでミルに合図を送った。


「……動きが止まった?」

「あぁ、勝負あったな」


 もしかしたら出来るかもと言う想像の通り、ミルは一太刀でゴーレムを真っ二つにしてみせた。ウイックも最後の一撃でコアを破壊し、これでは流石の魔力人形も復活は不可能。


「ちょ、ちょっと待ってください。そ、そんな……」


 明らかに動揺した声が奥から聞こえてくる。


「これで試練は突破でいいんだな。奥に進んでいいのか?」


「えっ? あっ、はい。じゃなかった! ……しょ、しょうがない。その部屋の結界を解くから進んでくるがいい」


 乱れた口調を元に戻し、声は二人を神殿奥に招き入れた。

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