第2話 この世界について少しだけ整理してみた噺
この世界には六つの大陸が確認されている。
世界最大の大陸は中央大陸と呼ばれ、正確には北と南にある別々の大陸が、西部が陸地で繋がっているため、一つの大陸として纏められている。
まるで竜の顎を横から見たような形の大地の、北と南の間にある海には西に抜けるルートがなく、どうやら海底では西側に抜ける潮の流れがあるようなのだが、海を舟が突っ切る事はできない。
広大な大地であるが為に、真ん中に流れ込む海を西側に抜けられないのは非常に不便なものだった。そこで西の大地には、長い年月をかけて大きな運河が設けられ、今では立派に東西への交易路が拓けている。
ここは中央大陸と呼ばれ、多くの国家が今も領土争いを行っている。
他の大地は中央大陸より北の局地、南の局地に氷に覆われた二つの大陸がある。
さらに二カ所、中央大陸の北西部より、もっと西に海を渡ると二番目に大きな大陸にたどり着き、中央大陸の南東部から東に向かうと、少し小さめだが数多くの諸島や群島に囲まれた大陸が見えてくる。
世界中の大地を確認し、地図を作ることを国家事業としているのは、中央大陸の北部にあり、最も大きな領土を持つウルアイザ帝国。
十年を越える大事業で判明したのは、世界はループしており、中央大陸から西の大陸を通り抜けてずっと西へ向かえば、いつの間にか中央大陸の北東部に行き着いた。もちろん南東部から東に向かえば、諸島群島を抜けて、また中央大陸に帰ってくることができた。
こうして完成した世界地図は、帝国に多くの富をもたらした。
そうまでして作られた世界地図だが、残念なことに陸地の詳細は、まだまだ分かっていない。
国土領土がはっきり分かるので重宝がられているが、冒険者や秘宝ハンターには無用の長物でもあった。
秘宝ハンターの多くは、中央大陸でも遺跡の多い、開拓のより進んでいる北部ではなく、未だ未開の森林地帯が拡がる南部を拠点としている。
ウイックとミルがいる観光地はより開発の進んでいる北部。中央南エリアの沿岸部からほど近い平原地帯。
これより中央に向かい山間部に入ると多くの魔物が出没するため、冒険者の数はそれなりに集まっているが、二人のように業界では名の知れた秘宝ハンターがいるような場所では決してない。
ここに残されているのは、盗賊や山賊が置き忘れた宝物くらいのものだからだ。
「この先って、帝国群の詰め所の目と鼻の先じゃあないか?」
先ほど切り落とされた右手をさすりながら、ウイックは改めて地図を確認する。
「……なんで落としたはずの手が元に戻ってんの?」
二人の興味はお互い違う方向を向いていた。
ウイックからしてみれば何の問題でもないのだが、しっかりとした感触も覚えている。
「見くびるなよ。お前の動きは見えなくても、攻撃を逸らす方法なんていくらでもあるんだからよ」
その方法の一つ、“幻惑の秘術”はミルのような剣士に有効な防御術ではあるが、これは直前に術を行使しておく必要があるので、不意打ちの対処には向いていない。
しかし護符にして随時発動が可能な風結界と連動させれば、自動発動で相手に幻影を見せることができ、偽の感触も与え、見事ウイックの右手を切り落としたように思わせた。
「なるほど、最初から準備してから悪戯してきたわけね。私も何もされてないのにやり返すわけにもいかないしね」
それでも被害は最低限に抑えられたことでミルも納得し、兎にも角にも先を急ぐことに。
「なんだここ、遺跡でも何でもないぞ。てかもう少し行ったら、観光協会のある街に着いちゃうじゃあないか」
遺跡群の東側の入り口、街を出て直ぐに道を逸れ、獣道を森の奥へ進む。
観光地とあって魔物や大型の魔獣などは住み着いていない。
いるのは小型の獣のみ、当然獣道もあまり大きく見付けやすいものではない。
この先に何かあるとしても、そんな情報を信じようとする者はいなくて当然。
「何があるかも気になるが、なんでここのネタを買ったんだ?」
「ヒミツって言いたいところだけどね。あんたに隠してもあんまり意味ないでしょうし」
もったいつけるようにミルはウインクを一つして、急に昔話を始めた。
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