第5話
そして当日。私たちは国の人々に見送られて出発した。中には泣いている人もいて申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
太司様の国である『ソル』には港から船に乗っていかなければいけない。港までは馬車で送ってくれるという事で甘えることにした。それでも三日はかかるらしい。
「船に乗るの初めてなので楽しみです。」
「そうですね。アステール様は国から出ること自体初めてでは?」
「そう言えばそうでした!ますます楽しみです!」
私がそう言うとアルクトスさんは笑って頷いた。
「なあ、二人はいつもそんな感じなのか?」
太司様がそう言って首を傾げた。
「そんな感じ、とは?」
「だから、いつもそんな感じでお互い敬語で話してるのかって事。」
「ああ、それなら違いますよ。」
丁寧にアルクトスさんは答える。その後を私が引き継ぐ。
「二人きりの時は私は敬語ですが、アルクトスさんは普通にしゃべられます。」
「なぜ?普通逆だろう?」
そう言われて首を傾げる。普通、逆なの?
「少なくとも、二人ともため口なら分かるが、巫女が敬語なのが分からん。」
ああ、そう言う事かと思ってるとアルクトスさんは笑っていた。
「見ろ、普通はそう思うぞ。だから、そろそろため口で話してくれ。」
「そ、そんなこと言われても、急には無理です。」
「なら、少しでもいいから…」
そこまで言ってアルクトスさんはハッとした。太司様の前でいつもの調子で話してしまったから…。
「これは太司様、失礼しました。お見苦しいところを見せてしまい…。」
「ハハハ!別に気にしない。何ならいつもその調子で構わない。」
そう言われてアルクトスさんと顔を見合わせる。本当にいいのかな。
「いや、もしかして仲が悪いかと思ったから聞いたんだ。これから長い旅になる。だから恋人との会話くらい、気楽に、楽しくしてほしいと思ったんだ。」
「そうですか。ありがとうございます、太司様。」
「ありがとうございます。」
アルクトスさんと頭を下げる。まさか肯定されると思ってなかったから、とても嬉しい。
その後も、太司様と他愛のない話をしながら、馬車の旅は進んでいった。
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