第4話

「アステール。」

 優しい声に目を覚ますと、アルクトスさんが私の髪を撫でていた。

「すまない、起こしたな。」

「いえ、大丈夫ですよ。おはようございます、アルクトスさん。」

「ああ、おはよう。」

 昨日、取り乱してしまったことは何も言わない。私たちはベッドから降りて支度を始めた。

「アルクトスさん。あの、一週間後の旅は…」

「もちろんついて行くぞ。」

 「来ないでください」と言おうとした。なのに、それを遮ってそう言われてしまった。

「多分危険な旅になります。だから、待っていてください。」

「恋人が危険な目に合ってるかもしれないのに、それを安全な所で待っていろと?」

 怒ってるのが分かる。でも、退けない。

「そうです。アルクトスさんに何かあったら、私…。」

 そこまで言うとアルクトスさんは私の口に指をあてた。

「そんなの俺も同じだ。待ってる間にお前に何かあったら俺は後を追うぞ。」

「そ、そんなの、脅しです。」

「ああ、脅しだ。」

 さらっと言われてしまった。

「だから、連れて行ってくれないか?」

 ふっと笑いながらアルクトスさんは言った。

「そんなの、ずるいです。」

 私がむくれながら言うとアルクトスさんは「そうかもな」と笑った。

「でも、真剣だ。」

 そう言った顔は、本当に真剣で、圧倒されてしまう。

「…分かりました。…本当は一緒に行きたいんです。だから、お願いします。」

 つい本音が出てしまうとアルクトスさんは頷いてくれた。楽しい旅にならないことは分かってる。それでも、アルクトスさんと一緒にいろんなところに行くのは初めてだから、楽しみでもあった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る