第2話

「あ、アルクトスさん。おいしそうなお魚がありますよ。買って行って今日のお夕飯にしてもらいましょうよ。」

「いや、もう決まってるかもしれないので確認してからのほうがいいですよ。」

 アルクトスさんは外では敬語で話す。一応私はこの国で唯一の巫女だから皆の前では敬語のほうがいいという事だった。

「そうですか…。では次は確認してから来ましょう。」

「そうですね。」

「アステール様ー!」

 そんなことを話していると元気な男の子が走って来た。

「どうしました?」

 目線を合わせて聞くと息も整わないまま言った。

「アステール様にご用があるそうです。」

「私に?」

 こんな子供ですら私と話すために敬語を覚えているのが少し寂しい。そんなことを思いながらその子の後ろを見ると、見覚えのない男性がいた。見た目から異国のお客様だと分かった。

「町の中で迷子になってて、声を掛けたら『星神の使いに用がある』って言われまして…。使いってアステール様のことですよね。」

「はい、そうですよ。ここまで連れてきてくれてありがとうございました。」

 私がそう言うと男の子は母親のもとに帰って行った。それと入れ替わりで男性が近付いてくる。

「あなたが星神の使いだったか!俺は太司と言う。あなたにお願いがあって来た!」

 そう言ってお客様が話し始める。勢いに圧倒されてどうしようと思ってるとアルクトスさんが私たちの間に入った。

「とりあえずこんなところでは話しにくいですし、屋敷に行きませんか?話はそこで…。」

「いいや、俺はここですぐに話したい。」

「いや、ここだと人目もありますから…。」

「いや俺は気にしないから、とりあえず話を、どうか!!」

「しかしここでは星神様には…。」

 そう、ここだと星神様には聞いてもらえない。聞いていただくためにはお屋敷の『神の間』に行かないといけないのに…。

 そうこうしているうちに周りが暗くなってきた。そろそろ帰らないと…。そう思って声を掛けようとしたら、目の前が真っ暗になった。

「っと、あぶねぇ。」

 支えられた衝撃で目を開けるとさっきまで話していたアルクトスさんが目も前にいた。倒れそうになったのを支えてくれたんだ。

「大丈夫か?」

「はい、ごめんなさい。少し、ふらついただけですので…。」

 そう言って体制を戻そうとしたけど、足元がふらつく。その様子を見てアルクトスさんが私のことを抱き寄せた。

「少しは頼れ。」

「…はい。」

 そう言って私は少し体重を預けた。すると、今度は皆に聞こえる声で話し始めた。

「まあ、儀式の後で疲れていましたしね。今日はもう帰りましょう。」

「はい…。」

 少し寂しいけど、これ以上無理してアルクトスさんに迷惑をかけるわけにはいかないから、頷く。

「と言うわけで太司様。屋敷に行きましょう。アステール様も休まなければ。」

「分かったよ。」

 太司様も納得してくださったみたい。その言葉にアルクトスさんは「ありがとうございます。」と丁寧に答えた。私もお礼を言わなきゃいけないのに立ってるのがやっとで言えなかった。

「アステール様、お体をおあずけください。抱えて帰りますので。」

「いいえ…歩いて、帰ります。」

「…いいから、こういう時は頼ってくれ。」

 小声でそう言われると、有無を言わさず抱きかかえられた。

「すみません…。」

「気にするな。」

 そう言ってアルクトスさんは太司様のほうを向いた。

 そこで、私の意識は途切れた。

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