こみち

ミュウ@ミウ

こみち

 その日、一人の少女は小路を歩いているのを目撃した。

 少女の前には誰も居らず。ただ、深々と生い茂る茨をかき分けながら、薄暗くて危険な凹凸している足場を進んでいる。時折、足がすくんでしまい、その場に立ちすくんで泣いてしまうことがあるが、少女はすぐに立ち上がり、また笑って歩き出した。

 なぜそんなに強いのだろうか? 

 僕はとても不思議で仕方なかった。

 少女はしばらく歩いていると疲れたのか、道のわきにあった小川にそれて、大きく角ばった石の上に腰を下ろし、空見上げて手に持った籐籠を開いた。

 中には美味しそうなBLTサンドイッチや卵焼きがこれでもかと敷き詰められており、一つ取り出して小さい口に運んでいた。

 それがまあ、美味しそうにもぐもぐと食べるものだから、僕もお腹が減ってしまった。なので、少女の動向が確認できる位置を維持しながら、木の実を探した。

 少女はそうしている間にももぐもぐとかわいく口を動かして、二つ目に手を伸ばしていた。僕は少しだけ安堵した。少女はマイペースなのかゆっくり食べてくれた。でも、木の枝をかき分けて探してはみるものの、身近に食べられそうな果実は見つからなかった。

 それもそのはずだ。何しろこの数年、飢饉や酷暑、大風等といった自然の恐怖が襲い掛かり、すっかり枯れてしまい、当然、残った果物は取り合いとなり、早くて強いものや強いもの、ずる賢いもの等といった強者がその果実周りを占領してしまった。僕みたいな何も持たないひよっこは、偶然見つけたものを食べて飢えをしのぐしかないのだ。

 中には強者の手となり足となり、食料を貰うものもいるが、その最後はすごくみじめで、使われるだけ使われ、捨てられる。もちろん、全員が全員そういうわけではないのだが、そういうのが多いという話。

 甘い蜜になれてしまった強者は、何も知らない弱者を甘い言葉で者を招き入れ、こき使いだす。逃げられないように最初はすごく甘い果実を与えるところがまたたちが悪い。そして、少しずつ糖度を落とし、少しずつ量を減らす。

 そんな光景を見たものは勿論、そいつの回りから逃げ出すのだが、それでも、少女みたいな浮浪者や行き場のない人はそれにすがるしかないのだ。

 少女はお腹がいっぱいなったのか、石の上で仰向けになり、青々とした晴天を見つめた。暖かく照り付ける太陽を浴びていると、まぶたが閉じられ、規則正しい呼吸を奏でた。

 夕刻まで少女は眠った。

 少女の瞳には茜色染まった空が一望できたことだろう。

 烏の鳴く声を聴いてなのか、少女は慌てた様子で立ち上がり、またしても小径を歩き出してしまった。

 これから暗くなるのになんでだろう?

 少女が眠っている間、僕がそこを動けたのかと言われるとそうではない。少女がいつ目覚めるかわからないし、血に飢えた強者が少女を襲うかもしれない。もしかしたら寝相が悪くて少女が石から落っこちてケガをするかもしれない。

 そんな不安が心に残り、僕は少女を観察した。

 その間、お腹が数回なったけど。

 辺りもすっかり暗くなり星が点灯して空を彩りだした。今夜は新月なようでよく見えた。あれがはくちょう座、あれがわし座、こと座、蛇つかい座……。藍色の空にちりばめられて点を指でなぞりながらつぶやいた。

 少女の頭上には大きな木々の枝が網目のように張り巡らされており、この景色を見えてはいないだろう。

 その証拠に、少女はわき目も降らず、道をかき分けている。誰だって一度は空を仰ぐものなのに。

 こんな景色が見られるのは数十年に一回か二回だ。少なくとも僕が生きてきてこれを見たことはない、

 僕は少女の後を追いかけるため、小径に入った。

 火をつけてあたりを照らすと、光が弱いのか、何も見えない真っ暗な世界が永遠と広がるばかりで、道など一つも見えなかった。辛うじて、目を凝らしてやっと、少女がかき分けた道と思われる道をだけが視認できた。それでも、歩く気にはなれず、僕はすぐに元の定位置に戻った。

 幸い、少女は灯をつけて歩いていたため、すぐに発見することにできたが、僕はなぜ少女がそんないばらの道を歩いているのか、ますます理解できなくなった。

 少女はまたしても休憩がてらなのか、脇にそれた。今度は広々とした草原ですぐに木にもたれかかり目を瞑ってしまった。

 僕はそれをチャンスと思い、先ほどの道に入った。

 少女が歩いたであろう、深々と生い茂る茨をかき分けながら、薄暗くて危険な凹凸している道を走った。時折、足がすくんでしまい、その場に立ちすくんで泣いてしまったこともあるが、僕はすぐに立ち上がり、笑って歩き出した。

 いつしか、僕は迷子になってしまった。右も左もわからなくなり、少女が歩いたであろう、かき分けられた茨道が果たして本当に少女が歩いた道なのか、それすら見当がつかなくなってしまった。そもそも、前に進んでいるのかどうかさえ怪しくなってしまい、またしても僕は泣いてしまった。

 くねくねと入り組んだ道を僕は歩く。時折、道のわきにそれて、休んではまた歩いた。少女が休んでいるのを見越して、僕は必死に歩き出した。

 ああ、なるほど。これか。

 と、僕は勝手に納得した。

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こみち ミュウ@ミウ @casio_miu

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