第3話 1日目
「あのさ、咲絵? 富山くん、って言う人かっこよくない?」
中学校の入学式の、次の日。私は、もう咲絵を相手に恋バナをしています·····。
次の日なんて、まだ周りの人の名前と顔も覚えてないくらいなのに、出席番号の遠い(5番の)咲絵が覚えているはずもなく。
「富山? 誰?」
反応が鈍い咲絵に、少し苛立ちを感じ、
「私の隣の席で、遅刻してきたすっごくかっこいい人!」
勢いよく言ってしまう。
ふと周りを見ると、多くの視線が私に向かってきているのが分かり少し恥ずかしくなる。
咲絵は、それでよく分かったようだ。
「あ、遅刻してきた子ね。分かった分かった。なんだかあれはモテそうだよね」
「え! モテるかな??」
モテるのは、かっこいい人ならしょうがないことでもあるけど、やっぱりライバルは少ない方がいい。
そう思っていたけど。
「当たり前じゃん。一目惚れとかしたことない純粋な奈緒が一目惚れしたっていうんだから、同じことになってる人があと3人くらいいてもおかしくないよ?」
はっ··········たしかに。これはまずい。
納得してしまった私。でも、諦めるわけにはいかない。だって、私の好きな人だから。
「ねえ咲絵?どうしたら、付き合えるかな?」
本気で言ったこの言葉。でも、あっさり咲絵に笑われてしまった。
「まず、仲良くなるとこからでしょ、気が早すぎ!」
「あ、そっか。じゃあ話しかけてみる!」
「うん、それがいいんじゃない?」
咲絵からのオーケーを貰って、少し満足する。
今日は、絶対に名前と顔を覚えてもらうんだ!!
「おはよ〜」
私が教室に入ると、七海ちゃんが声をかけてくれた。
「おはよう!」
すかさず笑顔で反応する。
すると、
「おはよう。奈緒ちゃんだよね?これから、よろしくね」
後ろからも声がかけられた。
舞ちゃんだ。舞ちゃんはすごく制服が似合っていて、正直中3と言われても疑わないと思う。なんというか、落ち着きが見えた。
「うん、舞ちゃんだよね!よろしく!」
それだけ会話をすると、舞ちゃんは持っていた本を読み始めてしまった。
七海ちゃんは塾の友達と思しき子たちと仲良く話しているし、咲絵はと言えば隣の席の子ともう友達になって打ち解けている。
今日は教科書を配って、説明を受ける日だからたいした準備は必要ない。
とりあえず、席に着き、周りを見ていることにした。
富山くんと、美緒ちゃんはまだ来ていないようだ。
早く来てくれないかなとか、来たらなんて話しかけようとか考えていたら、時間はすぐ過ぎていった。
ガラガラガラッ
これで十何回目かのドアが開く音に、顔を上げて入ってきた人をみる。
あ!富山くんだ!!
富山くんは、まっすぐ私の隣の席に着く。
「お、おはよう!私、河本奈緒です。隣の席なんだね!よろしくね!」
思わず言葉が口をついて出てしまった。
恐る恐る反応を見ると、、
「僕は、富山春樹。よろしく」
ふっ、と綺麗に笑って答えてくれた。
か、かっこ良すぎる·····!!
正直、もう好きすぎてさっきからドキドキしっぱなしだ。
ここまで言ったら、もう少し会話をしたい。
「どこの塾行ってたの?」
「えっと、家庭教師には来てもらってたけど、特定の塾には行ってないかな。△塾のテストと講習は受けてたけど」
「そうなんだ!私、△塾だったんだ!っていうか家庭教師?!凄くない?!」
お金持ちだ。セレブとか、お金持ちとかいう印象のこの学校だから覚悟はしていたけど、とうとう本物のセレブに会ってしまった。
富山くんはクールに笑って首を傾げる。
「そうかな? まぁ、母親が結構勉強にはお金をかける人だからかな?」
「凄いね! じゃあ、得意教科は?」
つい、質問攻めにしてしまったことに気づき少し反応が怖くなる。でも、富山くんにそんな感じは見られなかった。
「えっと、強いて言うなら社会。苦手科目は·····うーん。時によるかも」
「だよねー。私は、得意科目は国語と算数かな。でも、社会苦手なんだよね。なんか、暗記の方法がわかんないの。だから、今度教えてくれる??」
「うん、良いよ。ここ図書館あるみたいだし、放課後にでも教えてあげるね」
富山くんは、どこまでも優しくて。
わがままな私を、許容してくれた気がした。
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