第4話 ハッピー・クローバー・エンジニアリング

 翌日。久しぶりに外に出て、あれだけ動いた反動だろうか。豊は大半の時間を寝て過ごした。

 その翌日。やっと動けるようになった豊にはある考えが浮かんでいた。

 豊たちは、中原泰裕なかはら やすひろのことを何も知らないも同然だ。AIエーアイを三つも作れるほどの凄腕プログラマであることは分かっている。それだけでも相当の高給取りのはずだが、AIエーアイの自作の一つアルヒーミアで資金運用までしている。相当稼ぎはいいだろう。しかし、中原泰裕なかはら やすひろがどんな人間かは、ほとんど知らない。交友関係などからアトカースを止める、もしくは、アトカースがインストールされたパソコンの隠し場所が分かるかも知れない。

 そう考えて、豊は沙羅にロージナ経由でメールを送った。「良かったら一緒に中原泰裕なかはら やすひろが働いていた会社に行ってくれないか?」と。

 沙羅からはすぐに返事が来た。簡単に言うと「一緒に行っても構わない」という内容だった。

 そのまた、翌日。豊と沙羅は中原泰裕なかはら やすひろの会社の最寄りの駅で待ち合わせした。中原泰裕なかはら やすひろの会社はロージナ経由で調べてあった。

 株式会社ハッピー・クローバー・エンジニアリングというシステム開発の会社だ。豊と沙羅は、その会社の出入り口で出て来る人を捕まえて中原泰裕なかはら やすひろのことを聞いてみようと待ち構えていた。

 しばらくすると、ビルの出入り口からバラバラと人が出て来る。

 豊と沙羅はその中から人当たりが良さそうな人を選んで、声を掛けた。

「すみません、ちょっとお聞きしたいんですけど」

「はい、何です?」

 その男性はビシッとスーツを着て、いかにも仕事ができそうな印象を受ける。豊の経験上、身だしなみがちゃんとしている人は仕事もできる。

中原泰裕なかはら やすひろって人について聞きたいんですけど」

中原泰裕なかはら やすひろ?あぁ、あの自殺したって人?」

「そうです。どんな人でした?」

 男性は怪訝な顔をして、豊と沙羅を見る。

「何?あんたら、新聞記者かなんか?」

「いえ、違います。最近知り合ったんですが……」

「ふーん」

 男性は怪訝な顔を崩さないが、一応答えてくれた。

中原泰裕なかはら やすひろは典型的なプログラマだったよ。プログラムを作らせると黙々と作るんだけど、コミュニケーションが取れないって感じのさ」

「あぁ、この業界によくいるタイプですね」

「おっ、君もこの業界?そう、よくいるでしょ。どっちかっていうと、もう古いタイプのプログラマだよ。今時、コミュニケーションぐらい取れないとねぇ」

「そうですね。あ、友人っていました?」

「中原に?まさか。僕が知る限りはいないね」

 男性はそう言って笑いながら、立ち去ってしまった。

 その後も、同じビルから出て来た何人かを捕まえて話を聞いたが、返って来るのは同じような内容ばかりだった。

「うーん、これ以上聞いても……って感じね」

 それには豊も同意見だった。

「そうだね。……無駄なことにつき合わせちゃってごめん」

 それに沙羅は首を振る。

「いいわ。少なくとも少しは中原泰裕なかはら やすひろがどんな人間かは分かったし」

 友人がいなく、仕事は黙々と作業するタイプ。それが、中原泰裕なかはら やすひろについて聞き込みをして分かった全てだった。

「じゃあ、また、何かあったら連絡して」

 そう言うと、沙羅は駅に向かって歩き出した。

 豊も大きなため息を吐いて、駅に向かって歩き出した。今、この瞬間にもアトカースはLOSERルーザーシステムをばらまいているかもしれないというのに。

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