第1話 Jアラート

 暗い部屋の中、突然スマートフォンがけたたましく鳴り響いた。それも聞き慣れないアラーム音を発している。

 スマホの画面を見ると、画面には「Jアラート」の文字があった。

 ベッドから体を起き上がらせ、もう一度スマホの画面を確認する。

 画面には「Jアラート 某国から日本に向けてミサイルが発射されました。予測落下時間は四分後。予想落下地点は、北海道もしくは東北地方。付近の住民は十分に注意してください」と表示されていた。

 幸いなことに、ここは関東地方。おそらくミサイルの影響はないだろう。しかし、落下地点の地方の人たちに、あと四分でミサイルからどう逃げろと言うのだろう。主人公はそう思いながら、リモコンでテレビをつけた。

 テレビ画面の上部にスマホに来た情報よりもかなり簡素化された内容が表示されていた。「Jアラート発令 某国から北海道もしくは東北地方に向けてミサイルが発射された模様」と。

 すると、テレビ番組は特別番組へと切り替わった。

 男性アナウンサーが強ばった顔で、原稿を読み始めた。

「先ほど、Jアラートが発令されました。某国から日本に向けてミサイルが発射された模様です。落下予測地点は北海道、もしくは東北地方周辺と見られています。落下予測時間は、九時三十三分。後、三分後です。北海道、東北地方にお住まいの方は、十分にお気をつけください。もう外は暗いですので、パニックになって外に飛び出すと怪我をする恐れがあります。十分に気をつけて避難してください。繰り返します……」

 テレビ画面の光しかない部屋の中で、ボーッとテレビ画面を見つめながらちょっとすごいことが起きたもんだと遠峰豊とおみね ゆたかは思った。まさか、日本をミサイル攻撃する国が現れるとは……。

 同じ情報を繰り返していたアナウンサーが新たな情報を読み上げ始めた。

「某国から日本に向けてミサイルが発射されました。発射されたミサイルは三発とみられます。繰り返します、発射されたミサイルは三発。落下予測地点は北海道もしくは、東北地方周辺です。後、二分ほどでミサイルが落下すると思われます」

 遠峰豊は再びベッドに寝ころんだ。後、二分で北海道か東北にミサイルが落ちるとしても、東京からではどうすることもできない。つまり、自分にできることはこのニュースを見守ることしかできないのだ。

 もし、仮に東京にミサイルが落下するとしても、あと二分で何が出来る?

 それに自分は鬱病うつびょうで引きこもりだ。部屋から出ることさえ精一杯なのだ。とても他人のために何か出来るとは思えない。

 いやいや、いっそのこと、この部屋にミサイルが落ちてくれたら……楽になれるのに。

 豊は再び、テレビ画面に視線を戻した。

 まだ、ミサイルは落下していないようだ。アナウンサーが先ほどと同じ情報を繰り返している。

 さすがに豊もミサイルで誰かに被害が出ることに関しては、関心がある。自分に落ちてくるなら喜ばしいが、他人に被害が出るのは本意ではない。できれば、ミサイルは海に落ちてくれないだろうか。

 アナウンサーが繰り返しでない、新しい言葉を発した。

「落下予想時間が過ぎました。まだ、こちらには被害状況は入ってきておりません。繰り返します、落下予想時間が過ぎました」

 しばらく、新しい情報が入らないやきもきした時間が流れた。

 テレビ画面のアナウンサーに新しい原稿が渡される。

「ただいま、新しい情報が入ってきました。ミサイルの落下地点の情報です。一発目のミサイルは日本海に落下した模様です。二発目のミサイルは、東北地方の山間部に落下。恐らく民家がない地域だということですが、被害は調査中です。三発目のミサイルは太平洋に落下したということです。繰り返します……」

 どうやら、被害は最小限に押さえられたようだ。……そういえば、ミサイルを迎撃するPAC—3パックスリーは対応しなかったのだろうか。明日、明るくなれば詳しい被害状況も分かってくるだろう。どうせ、日本は遺憾の意を表明するぐらいしかしないのだろうが。

 とりあえず、あまり被害がなくてよかった。

 四発目のミサイルが発射されていたとしたら、この部屋に落ちてきてくれないだろうか。豊はそう祈りながら、いつの間にか眠りについていた。

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