第28話 白いご飯にふりかけ
小学校のころまで味噌汁は全部飲めなかった。
「お味噌汁も全部飲みなさいね」
母から注意される。
最後の手段も封じられていた。残った味噌汁をご飯にかけてたべる「猫まんま」だ。品がないと母はよい顔をしなかった。ご飯に汁をかけるのは、食事がきれいに見えないだからだろう。
同じ様にふりかけは特別だった。
いつもは食卓にはないが、お店でおねだりすると買ってくれる。三つの味のふりかけが筒状の入れ物に入っている製品が定番だった。のりたまとごま塩とたらこ味の三種類だったと記憶している。
私達に人気なのは、のりたま味だ。ふりかけたのりたま部分のご飯を箸ですくって食べる。一杯目では足りず、自分で炊飯器からご飯を一口だけよそってお代わりする。
ごま塩味のふりかけは、子どものころはおいしいと感じられなかった。いつも減らない。もう一つのたらこ味は、いつの間にか減っていた。結果としてごま塩だけが残っていた。
ほかのご飯のおともは納豆だった。納豆は御飯の上にのせて、箸で十分にかき混ぜて食べる。
「納豆は体に良いから食べなきゃね」
と、おいしそうに食べる私達を見ながら父は食事の時に何度も話してくれた。
ところが、父は納豆を食べなかった。子どもの時は疑問を抱かなかったが、それから二十年以上経って、父が納豆を嫌いだということが分かった。
当時の納豆は匂いがそれなりにする。子どもに好き嫌いをさせたくないという思いで父は納豆の匂いがしてきても平気な顔をしていた。加えて、母は父の尊厳を守り好き嫌いのない大人の演技を助けた。納豆は父の前に出ることはなかったし、強がる父を笑わなかった。
母は母で好きなものはあった。
赤い辛子明太子が冷蔵庫に時々あった。私達はとても辛い明太子は口には入れない。しかも、朝食と夕食では、けっして見かけない。母親が一人で食べているのだ。中学生になったころには、辛子明太子は母の好物の一つで父が好まない食べ物だと知れた。
実は、嫌いな食べ物が多い父。私は父よりは好き嫌いがない。母のおかげだ。
たらこ味は昼食にでも消えたに違いない。
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