第18話 ポテトサラダ

 先生に絵本を読んでもらえるので幼稚園に通うのは楽しみだった。園児たちは、小さな椅子が並んだ黄色のマイクロバスに乗って通っていた。バスは地区ごとに往復し、順番に園児を幼稚園まで連れて行ったり帰ったりしていた。

 私は、帰りのバスは最後まで待たされる地区だったので、最後まで幼稚園に残っていた。


 幼稚園での一日が終わり、帰りの会からバスに乗るまでの間は子供だけで遊んで待つ。

 その日は、お天気だったので、園庭にあるすべり台の頂上まで友達と二人で登った。頂上は見晴らしがいい。得意気に二人で周りを見渡した。滑り台の周りは、タイヤがところどころに土に埋めてあって丘のようになっていた。


 帰り支度の私達は思い付いた。

「こっからバスケット落としてみらんみない?。早いほうがかち。」

「うん。じゃ、せーのーがーさん、はい!」


 手に持っていたバスケットを落とす。

 バスケットはタイヤにあたりながら、ジグザグに落ちていく。


「わぁーっ」

「まけたー」

 叫びながら下ってバスケットを拾う。

 そして登る。


 もう一度、放り投げようとしたら・・・

「コラーッ、誰ね、バスケット投げて遊んどる園児は!」

 と園庭に備え付けられたスピーカーから先生の声が大きく響いた。

 私達はあまりにも大きな音だったのでびっくりして飛び上がった。


「ごめんなさぁい」と言いながら、二人してバスまで走った。


 悪戯好きの園児だった頃、母が作ったポテトサラダが好きだった。


 今ではポテトサラダはコンビニですら入手できるが、当時はどこでも売ってあるものではなかった。母はどこで覚えてきたのか、作ってみた。すぐに、それは、私達の好物になった。


 ところが、手間がかかる。


 まず、ジャガイモを蒸し、皮を綺麗に取り、熱いうちにマッシュポテトクラッシャーで丁寧に潰して少し荒目のマッシュポテトとする。その後冷やしてからマヨネーズや野菜を混ぜてポテトサラダにする。ポテトの食感も残って美味しい。


 時間がかかるのは熱々のマッシュポテトを常温まで冷ます工程だ。


 潰したてのマッシュポテトをボールに入れたまま、扇風機の前に置いて冷ます。


「冷えるまで見ておいてね」

 と母は我々に命じ、台所に戻る。

 我々は、遊びながらマッシュポテトの監視任務を遂行した。


 母は、子供が楽しみにしてくれるのは嬉しかったが、料理を楽しんでいた様には見えなかった。母の「これって面倒なのよ」とのぼやきを聞いたからだ。それから、作って欲しいって、言うのに私は少し引け目を感じていた。


 バスケットを転がして怒られるようなやんちゃしてても、母の言葉には過敏だった。それでもやっぱり、ポテトサラダは幼き我々の大好物だった。母はそんな私達を優しく見ていたのだろうか。

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