第17話 みかん畑と五右衛門風呂
遠い親戚だったのか、それとも父の友人だったのか、思い出せない。
小学校入る前から低学年の頃、山道を随分登った先にあるみかん農家を時折訪ねた。
斜面に並ぶみかん畑。少し離れたところに小さいとうもろこしの畑もあった。
モノレールのミニチュア版みたいな荷物を運ぶ運搬装置のレールが急斜面に沿ってぐるっと設置してあった。だが、一度も動いたところは見たことがなかった。壊れていたようにも思えないが、子供には危険だから触らせなかったのだろう。
みかんの収穫時期になると、みかん狩りを楽しんだ。
私達は、道具を持って、みかん畑の急斜面を登る。私達でも手が届く、低い位置にあるみかんから、よく色ついたものを探す。そして、みかんをそっと握って、枝にハサミを入れる。パチンという音とともにみかんの香りも感じられる。
みかんに枝を残すとみかん同士で傷をつけ合う。専用の先が少しそったハサミでみかんのヘタの上からきれいに枝を切るのだ。そうして、みかんをそっと一つ一つ箱に入れる。帰りには、採れたみかんを一箱分けてもらって、しばらく毎日のおやつになった。
それから季節が変わり。みかんもない時期。私達を、とうもろこし畑まで連れて行って、目の前で収穫してくれた。形は小ぶりだったけど、すぐに湯掻いたとうもろこしは美味しかった。
そこのお宅には大きいお兄ちゃんが3人居た。小学校高学年から中学生だったと思う。
夏は、お兄さんたちがカブトムシを捕まえる。カブトムシは見たいけれども、小さい私達は、早朝起きれない。夏休みには、私と弟は泊めてもらったのに、一緒にカブトムシ取りには行けなかった。
一番の思い出はお風呂だ。
その家のお風呂は五右衛門風呂だった。湯船は鉄の釜になっていて、下から直接薪を燃やした火をあてて、湯を沸かす。だから、鉄の釜はかなり熱い。そこで、丸い板を沈めて、その上に乗っかって湯船に浸かる。板はお湯に浮くから、コツがいる。どうやって入ったのか、いや、入れたのかすら、覚えがない。ただ、大変困った記憶だけはある。
酸っぱいのは苦手な方だが、みかんは今でも好きだ。小さい頃、果物は特別なものだった。みかんは、お菓子と違って食べ過ぎだと怒られることもなかった。
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