第16話 木造校舎

 小学校3、4年頃だ。

 小学校の大半はコンクリート建物になりつつあったが、私の小学校は木造校舎が一棟残っていた。学年に5クラスもあったから、コンクリートの大きな建物だけでは間に合わなかったからだろう。


 私の学級は古い校舎があてがわれていた。

 平屋の木造校舎で、二つの教室と音楽教室からなる相当な年代物の建物であった。


 窓枠も木製。

 机も椅子も木製。

 床板も古い板張り。穴だらけだった。


 教室掃除は大変だった。いくら掃除してもどこからかゴミが出てくる。私達は、ほうきでチリトリに入れきれない小さなゴミを容赦なく、小さな穴に落とした。


 古い校舎だったから立地は良かった。教室の前には少しだけ広いスペースがあって、そこから町が一望できた。側には、大きな椎の木が生えていて、椎の実が沢山落ちていた。


 先生が、「椎の実は食べられるんだぞ。」なんて言うもんだから、私は友達と拾って食べてみる。虫に食われていないものを選びつつ、中身を割って取り出す。恐る恐るだから、ほんの僅かだけ口に入れた。美味しくはない。炒って食べるものだと、後で聞いた。


 遊びには事欠かなかった。


 その日は写生の授業だった。


 先生が

「描き終えた人から片付けていいぞ」

 と、号令をかけたので、描き終えていた私は早速片付け始めた。


 コンクリート製の流し場が外にあって、順番に筆やパレット、筆洗いバケツを洗っていた。黄色い筆洗いバケツは、ほどんとの児童が持っていた。色が混ざらないように区切られて共同購入で手に入れたものだ。


 道具を洗い終わった私はやることがなくなった。その時に、子供向け科学雑誌に掲載されていた「遠心力」の説明を思い出した。ぐるぐる回すと水は溢れない、という説だ。


 早速、水をバケツに入れた。取っ手を持ってゆっくり前後に揺らす。荒っぽく動かすと水が溢れる。


 何度か前後に動かしてみると、だんだん要領がわかってきた。

 まずは、ゆっくり水面の揺れに周期を合わせて前後に揺らし、徐々に振幅を大きくして、タイミングを見計らって一気に回す。その勢いで何周も回す。止めるときも水面の様子を見ながら回転をやめて、水面を観察しながら前後に揺らしながら終わる。ちょっと水が飛び散ったけど大成功。


「すげー!」

 それを見た友達が、さっそくやってみる。

 一人、また、一人、成功者が続く。


 そして、新たなテクニックに挑戦する勇者が現れた。

 筆洗いバケツをグルグルと勢いよく回し始めた。

「ほらぁ!」

 と回転の頂上でバケツをピタリと止めた・・・。水がたっぷり入ったバケツだった。


 木造校舎は、その後取り壊された。

 窓が開かないとか、何か出てきそうな床下を覗き見たりするとか、教室だけでイベントが沢山あったから、楽しかった。古い校舎で思い出すのはそんなことばかりだ。

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