第13話 貯金箱とお地蔵さん

 小学校の工作の宿題で木細工を作った。

 材料をどこから入手したのかは、覚えてない。


 作ったのは貯金箱。

 小さな釘は家に沢山あったし、金槌も工具箱にあった。百科事典くらいの大きさで、コインを入れると賽銭箱みたいに滑って入っていくように、投入口には斜めに角度をつけた板を設置することにした。一旦、コインを入れても、貯金箱をひっくり返してもコインはなかなか出てこない。つまり、お金を取り出すには貯金箱を破壊するしかない・・・はず。


 まずは、木材を切る作業だ。竹定規で長さを測って、鉛筆で印をして、のこぎりで切断する。下手くそな手付きだから真っ直ぐになんて切れないし、かんなで端面を仕上げするなんて思い付きもしなかった。


 切った木材を釘で固定する。

 箱の形にして釘を打つのは意外と難しい。板を立てて側面に釘を打つと、板が倒れたり、ぐらついたり、せっかく釘を打っても位置がズレていたりするからだ。


 釘打ちで失敗したところは、木工用ボンドで接着する。たっぷり白い木工用ボンドを隙間に入れ込む。はみ出したボンドは指で均す。手にもボンドがたっぷり付けながら、なんとか形は完成した。


 放置してボンドが乾燥したら完成だ。


 でも、手についたボンドを洗い流したが、なかなか取れない。ガビガビになった手でご飯を食べたが、工作していたのを知っていた母は何も言わなかった。


 お風呂に入ったときに、お湯で手についたボンドを取ってすっきりした。お風呂から出た後に、貯金箱を眺めに行ったが、ボンドは乾燥してなかった。


 そのまま数日たった。


 ボンドが乾燥して完成品となった貯金箱に弟と10円玉を入れる。投入口に置かれた10円玉は、入り口を滑って行き軽い音を立てて箱の中に落ちた。箱を逆さまにして降ってみても出てこない。10円玉がカラカラする音が聞こえるだけだ。

 成功だ。


 「もうちょっとお金入れてみたいね。」

 と、弟が言うので、近所のお地蔵さんの前に賽銭箱として置くこと思い付いた。

 祠にも入っていない小さなお地蔵さんだった。その前に貯金箱を二人で置きにいった。そっと置いて立ち去る。


 気になって物陰から見る。


 おばあさんが通りかかったときに、その貯金箱に気がついたが、しばし立ち止まっただけだった。


 ドキドキしながらしばらく眺めていたが、回収した。成果はゼロ。

 その後、その下手くそな貯金箱は家にあったが、いつの間にか処分されていた。


 ありえないことだろうけれども、もし、貯金箱にお金がざくざく入っていたら、人生変わったかもしれないと思う。人を騙すことに鈍感になってたかもしれないという意味で。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る