第11話 お家の湯♨
忙しい父もお風呂には、一緒によく入ってくれた。
お風呂に入るとなれば、裸の男の子3人の無法っぷりは想像に難くない。シャンプーさせるのも一苦労だっただろう。濡れた髪の毛をバスタオルで拭いている間に次の子供は濡れたままウロウロするから、床はびしょびしょになる。
母一人ではパニックだろう。
だから、父も小さい頃は努めて仕事の合間ですらお風呂に入れてくれたのだと思う。
親の都合がどうであっても、ちびっこにとってお風呂はイベントだ。
もちろん、頭や体を洗うより、お湯遊びとして。
ところが、湯船からあふれるくらい水を張ってお風呂を沸かしたとしても、父が湯に入ると湯船のお湯は溢れ出してしまう。音を立てて湯が溢れ出るのは、面白いけれども、父が湯船から上がると、すっかりお湯はなくなってしまう。
私達が、湯船の中で体を上下させて波立てても、お湯が溢れるような大波にはできないから、面白くない。ざばん、と溢れて欲しいのだ。
お湯が少ないお風呂ほど寂しいものはない。
遊んでると、すぐに冷めてしまう。その上、当時のお風呂は、お湯を足そうと、水を足してガスで沸かすと、熱いお湯がガス窯の出口から出てくるので、よく混ぜないと火傷しそうだった。
父は、思い付いて風呂場の流し場の排水溝をタオル塞いでから湯船に入った。湯が溢れ出すが、排水できないのだから、流し場に5cm程度の深さの湯溜まりとなる。お風呂の中も湯気だらけだ。
「温泉だ!」
兄弟で、はしゃぎ始める。
流し場に置いていた、洗面器も椅子もプカプカと浮かぶ。
ついでに、石鹸入れも浮かんでいた。
小さい頃の兄は、うまく歩けなかったから、浅い流し場の湯溜まりは楽しい遊び場になった。
洗面器をお湯に沈めてみたり、濡れタオルで空気を風船の要領で沈めて、お湯の中でブクブクと泡をたてて、「おならーっ」と叫んだりした。両手を使って水鉄砲ができる方法も習ったけど、前に飛ばず自分の顔に水をかけるという不器用さだった。
今ではお風呂は疲れを癒やす場だ。長風呂は苦手だ。だが、水鉄砲は今のほうが上手くなれるかもしれない。週末は、ゆっくり風呂に浸かろう。
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