第10話 クリスマスブーツ

 クリスマスになると、ブーツを模した入れ物にお菓子を詰めたセットが売られ始める。


 母は駄菓子が嫌いだった。砂糖をまぶしながら食べる棒キャンディの駄菓子も欲しいと言うと良い顔をしない。だから、お菓子の入ったクリスマスブーツも買って欲しいと母に私も弟も言えずにいた。


 そんな母もクリスマスは盛大に祝う。


 ケーキにシャンメリーを買ってきて、鶏肉の骨付きモモ肉を焼く。父も母も一家揃うイベントだった。ケーキは、立派なケーキを買ってくるのだが、小学校高学年の頃は、当時、物珍しかったアイスクリームのケーキが定番になった。


 骨付きモモ肉は、アルミホイルで足の先を包んでおいて持ち手にする。フォークとナイフなんて使ってもうまく食べられない。だから、直接齧り付く。私達は、口の周りを汚しながら、お肉を頬張る。私はカリッとなった皮の部分が好きだった。


 父は父で電飾のクリスマスツリーを買ってきた。プラスチック製の大きなもので、私達は父が組み立てるのを手伝った。キラキラとした星や玉飾りを飾り付けるのは、私達の担当だ。


 子供は、シャンメリーを堂々と飲む。

 父は、堂々とビールを飲む。


 クリスマスは我が家にとって特別だった。


 仕上げは、サンタからのプレゼントだ。


 私は、流行っていたアニメ「宇宙戦艦ヤマト」のプラモデルが欲しかった。サンタは、迫力のあるデフォルメを効かせたモデリングのバージョンの大っきなプラモデルを選んでくれた。


 早速、開封する。

 当時のプラモデルに入っている接着剤は小さな袋に入った僅かな量だった。デカールはお湯に入れて剥がして貼り付ける。作るには道具がいる。最低でもプラモデル用接着剤とピンセットだ。一先ずお預けにしてパッケージの絵を眺めて過ごした。


 母と一緒に模型屋に行って、プラモデル用の接着剤を購入した。蓋の裏にブラシが付いていている瓶詰めの接着剤だ。ピンセットは、夏に買った昆虫採集セットの付属品があったので買わなかったが、先端の精度もないし、強度もなくて掴みにくかった。


 夢中で作った。


 完成して誇らしげに眺めていると、弟は、こっそり私に教えてくれた。

「夜中に、こっそり、お父さんがプラモを置きに来たのを見たとよ」

 と。


 私は、その反省を活かした。プレゼントは11月中に聞き出す。アマゾンだと中身が想像できないくらいの大きな梱包だから気が付かれない。単身赴任や出張で決行日に私が不在でも妻がそっと枕元に置いておく。


 こうして、長女は中学生になるまで、サンタの存在を信じていた。

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