第7話 時計とカセットレコーダ

 小学4、5年生の頃は、時計やラジオといった機械の構造に興味があった。


 時計を見たら、まずは裏返して観察する。ドライバーを工具箱から持ってきてありったけのネジを緩める。時刻合わせのつまみを外すと、裏蓋が開く。中ではカチカチと動いている仕掛けがある。秒針を、短針を、そして長針を動かしているのだ。ワクワクする。


 全部分解できないか、しばし考えて、表側のプラスチック製のカバーを外そうとする。これが難儀だ。爪で固定されてるから、その爪をマイナスドライバーで緩めて・・・バキッと力を入れて外す。


 これで、時計の針が丸見えだ。針を外して、どうやって別々に動かしているのか、観察をしてみる。なんだかよくわからない。秒針だけ付けてみる。


 ああ、なるほど

 つぶやきながら満足した。


 さて、ぼちぼち元に戻そうか・・・、としたけれども、プラスチックカバーの爪がきっちりと嵌まり込まないため、すぐに外れそうなままだった。


 これくらい壊れてても、テレビで出てくる時限爆弾の様に時計を使って仕掛けができるかも・・・。言い訳を考えてから仕舞い込んだ。


 ある日、カセットレコーダに目をつけた。

 長らく使っていたもので、スイッチが幾つか反応しなくなっていた。しっかりした作りだ。昔から家にあったものだ。


 ネジ穴を探して、プラスドライバーでネジを丁寧に外していく。なかなか裏蓋が開かない。ネジが各所にあって探すのが大変だからだ。ようやく、すべて外したら電池を入れる箇所と内部の配線が邪魔だ。蓋と本体がうまく分離できないのだ。しかたないので、コードを切って分離した。一つ一つ部品を外すと構造が見えてくる。


 百科事典や雑誌で大体の構造は知っている。


 これがモータ。そして、これがカウンタウェイト。安定した巻取りスピードを維持するためのものだ。さらに分解を進める。磁気ヘッドは取れそうにない。緑色の基板も線が絡んでてうまく取れない。


 ひとしきり分解して構造を理解したと一人満足した。

 気がつくと、弟が面白がって眺めていた。


 終いにしようと、元通りに一度組み上げた。干渉して蓋が閉まらない部分は無理やり押し込めた。


 母が兄と一緒に帰ってきてカセットレコーダを見つけた。これを分解したのか、と、私を問うた。私は、肯定すると、「どうせ壊れてたんだよ」と言った。


 母は悲しい顔をして涙を浮かべていた。


「これはね、

 うちになかなか帰らないお父さんの声をあなた達に聞かせるために買ったの」

 と。


 母はしばらくそのカセットレコーダの前から動かなった。


 そのカセットレコーダで父の声を聞いた記憶が私にはない。赤ん坊の頃の話なのか、定かではない。


 それからも、私は時計を分解し続けた。色々な機械を分解した。コンセントにピンセットを差し込んで、ブレーカーを落としたりもした。だけども、母が悲しい顔をしたのは、その時だけだった。

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