第28話:再会は戦場で②
「敵の総数、編成は大方の予想通り。敵総大将は護衛の
「ですがサラティナ様!仮に彼らが全滅したとしても一人でも魔導士部隊の数を減らさなければこちらの主力に被害が出ます!それこそ戦線の維持ができない程にです!」
「ですが……なら彼らに死ねと言うのですか!?そんなこと……」
すでに奇襲部隊への指示書を出したがまだサラティナは迷っていた。だがコンセイユの話していることは至極最もであり、人類が勝つという最大戦果を挙げるためにはたった二十の犠牲は安いどころかおつりがくる。だからこそ彼らが全滅しそうになれば自分が駆け付けるから安心するようにと書いたのだが、それは気休めでしかない。総指揮官が簡単に前線に出ることは許されない。
「お、恐れながら失礼いたします。奇襲部隊部隊長より言付けを預かってまいりました。よろしいでしょうか?」
「構いません。お願いします」
「は、はい。奇襲部隊の隊長からは『我ら奇襲部隊、見事総大将の期待に応えて見せましょう』とのこと。それと、仮面を被った男からもあるのですが……」
「続けてください」
「は、はい。仮面の男からは『俺達に任せてお前は黙ってふんぞり返っておけばいいんだ』とのことです」
「……ハハハ。ふんぞり返っておけとは、あの男、言うではありませんか」
人が心配しているというのに意に求めず、仮面を被った男は腕組みしながら憮然としながら言い放っている様子が何故か目に浮かんだ。しかもその声音は昔なじみの男の声で再生された。なぜだろう。
「いいでしょう!ならばその通りしましょう!コンセイユ殿。作戦に変更はありません。主力部隊が激突したのち、敵魔導士部隊が攻撃に移る前に奇襲部隊は突撃。敵大将の山羊頭が出れば正導騎士で対応。宜しいですね?」
「もちろんでございます、サラティナ様。この戦い、必ず勝利いたしましょう!」
サラティナは一息ついた。まだ戦争は始まってすらいないのにこの疲労感。これが人の命を一身に背負うということか。この重圧に勝てないようではこの先【
*****
魔皇帝より直々にこの軍勢の指揮を任せられた山羊頭の魔人、サタナキアプートはひどく退屈していた。下級種族の小鬼族や狼人族、豚人族に突撃の命令を下して人族と激突が始まった。
その様子を大将陣地でどっしりと腰かけて遠目の水晶で眺めていた。姑息な
「フム。敵の士気は相応に高いか。さすがに己の存亡がかかっていれば決死の覚悟でくるか。しかし、付け上がらせるのは癪だな。魔導士兵団、敵前衛に向けて
水晶越しに指示を下した。これで調子に乗っている人族を虐殺できれば溜飲が下がるというものだ。サタナキアプートは獰猛な笑みを浮かべて間もなく描かれる地獄絵図を楽しみにした。しかし―――
「ヒャァハァ―――てめぇらの好きにはさせるかよ!!」
「ロックフォーゲル!少しは静かに出来ないのか!?奇襲なのに叫んでどうする!?」
「細かいことはいいんだよロジャーズ!そんなこと気にしている暇があったら一匹でも多くこいつらをぶっ殺せ!!」
サタナキアプートの目に飛び込んできたのは人族を蹂躙する火球の雨を降らせる魔導士兵団の姿ではなく、大太刀や騎士剣で逆に切り伏せられていく長耳族の姿だった。
「なるほど、奇襲カ。確かに魔導士団による絨毯爆撃は避けたいところか。人族側にも魔導士部隊はいるようダガ、攻撃より支援中心カ。如何に自軍の犠牲を出さないかを優先にしているナ?ナラば奇襲部隊は数少なイ犠牲というワけか。ならば望み通りにしてやろう。闇騎士達はいるか?」
「はっ、我ら四騎士、ここにおります」
その声に応えて陽炎のごとく現れたのは四人の騎士。漆黒をさらに黒で塗りつぶした甲冑を頭からつま先まで身に包んだ豪傑。皆サタナキアプートを前に片膝をついて王の命を待つ。
「我の護りからの任を解く。その代わり、魔導士兵団に奇襲を仕掛けタ愚か者どもを駆逐してコイ。二十の首を我の前に差し出すのダ」
「その任、承りました。我ら闇騎士が
四人の騎士たちは再び幽鬼のごとく消え去った。彼らは闇騎士たちの中でもその能力値は上位の四人、つまり最強格だ。それ故に本来中級程度の力しか持たない闇騎士の中で唯一名を与えられている。
「これで少シ大人しくなるといいのダがな。もし彼らが殺られるようならその時は―――」
自ら前線に出る。サタナキアプートは口角を釣り上げて獰猛に笑った。
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