第10話:人界騎士団②

 騒動から三日後。特にすることもなく鍛錬をしながらザイグの家で居候をしていたシンヤの元にようやくナスフォルンと子飼いの騎士達を連れてやって来た。随分と悠長なことだ。


「よぉ、兄ちゃん。待たせて悪かったな!っと、鍛錬の最中だったか?」


「大したことはしていない。ただ刀を振っていただけだからな。汗を流してくるから少し待っていてくれ。それくらいの時間はあるだろう?」


「事前に連絡すると言っておきながら突然来たのは俺達だからな。それくらいの時間は待ってやるさ」


 ナスフォルンの許可を得てシンヤは水を浴びて汗を流してプルーマ夫人が用意した真新しい服に袖を通した。【中央塔】に行くのならそれなりの格好をしないとね、と言うことで仕立ててくれた。


 身体に密着する作りだが伸縮性に優れているため不快感はないどころか快適だ。それだけでなく対刃性、対魔力の魔導が刻み込まれているため耐久性も抜群だ。それどころか正導騎士の装備にさえ匹敵しそうなものだが、これでもあくまで代替品とのことらしい。


「シンヤさんは命の恩人です。その方に私が持てる全てのツテを使って最高の、正装騎士の装備さえ凌ぐモノを用意してみせます」


丁重に断ったのだがザイグは頑なに譲ろうとしなかった。結局シンヤが折れる形で話すが進められている。


「っお、随分早かったな。そのコートもかなり質が良さそうだな。羨ましいなぁおい!」


 馴れ馴れしく肩をバンバンと叩くナスフォルンに若干うんざりしながらも無下に払うことはしなかった。騎士達が見ている手前下手なことをして不敬罪にでも問われたら面倒だ。


「俺はお前を【中央塔】に案内するのが今回の役目だ。異例なことだが話は団長が直接聞くことになった。言っておくが異例だぞ?いくら【闇の軍勢ケイオスオーダー】のダークエルフが糸を引いていたとは言え団長がサシで話すなんてな。おっかない人だからちびるなよ?」


 移動中の馬車の中、腹立つようなにやけ面でナスフォルンはこの後の予定を教えてくれた。何度かその顔を殴り付けたいと思ったがシンヤは何とかそれを理性で抑え込んだ。


「人界騎士団団長兼正導騎士序列一位オルデブラン・アウトリータ。いい歳したおっさんだが間違いなく人類最強の人だ。一対一で話したいなんて珍しいぜ、ホント」


その名は師匠と暮らしていた山の中にいても聞いたことがある。情報源は師匠だが、あの人が言うことには、


―――この世界で貴方と対等に戦えるのは私を除けばこのオルデブランっておっさんくらいね。心技体全てにおいて限界まで鍛え上げられている限界突破者。貴方の同類よ。思い人との再会を求めている以上、この男と会うことが必ずあるでしょう。その時は気をつけなさい。万が一戦うことがあったら―――


「まぁいくらあの人が強い人を見たら手当たり次第に喧嘩を吹っかける野蛮人でもいきなりお前に斬りかかったりはしないだろうから安心しろ」


「おい、そんな危険人物が人類トップでいいのか人界騎士団」


 思わず呆れてため息をついた。他愛もないナスフォルンの雑談を聞き流しながら馬車に揺られること半刻。相当ゆっくりなペースで馬を走らせていたようだ。シンヤとしては明らかに要人が同席していると一目でわかるこんな物にダラダラと乗っていたくはなかったのでようやく到着してくれて何よりだった。


「さて、俺の役目はここで終わりだ。この扉の向こうに団長がいる。まぁ気軽に話してくればいいさ」


中央塔エンブレマ】に入り、ナスフォルンと共に魔力駆動式の乗降機械に乗って案内されたのは世界の象徴の頂上。最強の男が座している部屋の前にシンヤは今立っている。


「ここまでありがとう。じゃぁ行ってくるよ」


「おう!まぁ気軽に行って来いや!終わったら飯でも奢ってやるよ!」


そしてシンヤは剛健の扉を開いた。そこに座していたのは壮健な男だった。


「人界騎士団団長として君を歓迎しよう。ようこそ、【中央塔エンブレマ】へ、シンヤ・カンザシ」

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