第9話:人界騎士団①
「シンヤ・カンザシ。お前には色々話を聞かなきゃならない。カラカルを通して連絡すらからその時は大人しく【
「…わかった。その際は応じよう」
「助かるぜ。じゃぁな」
選都に戻る道中、正導騎士第八位のナスフォルンから言われたことだ。彼からは根掘り葉掘り聞かれたが師匠に鍛えられたとだけ答えた。こちらの手札を自ら晒す理由も必要もない。サラティナのことは尚のこと話すつもりはない。彼の口から彼女に伝わったのでは意味がない。軽薄で口が風船並みに軽いのは見ればわかる。
夜明け前にカラカルとともに屋敷に戻った。案の定ランコーレが起こした巨大な爆発音のお陰でザイグとプルーマ夫人は寝間着姿が起きていた。あの音を聞いて飛び起きて、深夜の部屋を覗いたらもぬけの殻で、悟ったらしい。
「すまない、ザイグさん。ヘイトリッドは殺された。間違いなく口封じだが、犯人には逃げられちまった。俺やシンヤが駆けつけた時にはすにで…追おうとしたらあの爆発だ。さすがにあとは追えなかった」
ヘイトリッドの死はザイグに知らせたが、ダークエルフを捉えたことなど詳細は伏せた。尾行していたが見失い、見つけた時にはすでに死んでいた。
無理はあるがこれで押し通すことにした。これ以上ザイグ一家を巻き込むわけにはいかない上に、長年一緒に商会をやってきた仲間の裏切りに心を痛めてほしくなかった。そう思ったカラカルが提案し、シンヤもそれに応じて口裏を合わせた。
「結局、何故ヘイトリッドがあんたを狙ったのかはわからずじまいだ。生かして色々話を聞きたかったんだがな。これ以上はさすがに傭兵であるカラカルやただの居候の俺の領分を超えている。今後の警護には人界騎士団が担当するとのことだから安心するといい」
命を脅かす存在が消えたとは言え、選都に留まらず世界的に名の知れているザイグにいつまた何が起きてもおかしくはない。それ故にナスフォルンが上に話を通して、腕の立つ騎士を護衛につけてくれることになっていた。
「まぁその時までは俺とカラカル達で護衛にあたる。いずれ人界騎士団の連中が話を聞きにくると言っていた」
「あぁ…わかった。何から何まで本当にすまないね、シンヤくん。それにカラカルさんも、迷惑かけて申し訳ない」
「いいってことよ。気にしなさんな。それよりザイグさん、あんたの方こそ大丈夫か?」
「うん?私かい?私なら大丈夫さ!ヘイトリッドを失ったのは確かに痛いがこれから何とかしてみせるさ。こう言うピンチにこそ商人魂が燃えると言うものだよ!あぁ、支度をしないといけないから私は一旦失礼するよ!」
空元気、そうだと口にするまでもなくシンヤの目にはザイグは無理をして見えた。明るく振舞ってはいるが親友と言える友に裏切られた上に殺されたのだ。普通にしていろと言う方が無理な話だろう。シンヤはやれやれとため息をついた。
「カラカル、ザイグのケアは任せたぞ?俺にできることなどなさそうだ」
「その辺に関しては俺もお前とそう大して変わらないさ。プルーマさんにお願いするしかない。あと娘のリリちゃんかな。あの人達がいれば大丈夫だろう」
「……そうだな」
今は落ち込んでいる。無理して立ち上がっているかもしれないがいずれガタが来る。そんな時に立ち上がる力を与えてくれるのは他ならない大切な存在、ザイグにとってはそれが家族だ。二人が彼に立ち上がる力を与えてくれるだろう。
「人界騎士団の護衛が来るまでの間は申し訳ないがカラカル、お前にも付き合ってもらうぞ?」
「へいへい。わかってますよ。俺のところの若い衆も動員して警備にあたるさ。ただ【闇の軍勢】相手にどこまで役に立つかはわからんがな」
「大丈夫さ。奴等とて正導騎士がわんさかいるこの地に攻め込むのは今の段階ではありえない。仮に攻め込まれるような状況になればその時点で人類はお終いだよ」
シンヤは肩を竦めながら笑った。だがカラカルは笑えなかった。
「まぁ当分は大丈夫だろうよ。さて、悪いがカラカル、俺は一眠りさせてもらう。お前も一旦帰るといい。風呂、入ってないだろう?さすがに臭うぞ?」
「その隙さえ与えずにこき使ったのはお前だろうが。ったく、人使いが荒すぎじゃねぇか?これ、タダ働きなんだが?」
「みんな好きだろう、ボランティアは?」
ふざけろと鼻で笑いながらカラカルは屋敷を後にした。シンヤはその頼もしい背中を見送った。部屋に戻る途中、その途中ですれ違ったプルーマ夫人は物言いたげな表情をしていたが、朝食はいらないとだけ告げてベッドに入って眠りについた。野宿続きと久しぶりの真面目な戦闘で疲れていたのか思いの外すんなりと意識は微睡みに落ちていった。
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