第43話:帰ってきました
転移門に到着した途端、アヤの足から力が抜けてしまいその場に座り込んでしまった。
緊張から解放されたからだろう、その瞳からは大粒の涙が溢れ出している。
突然のことにヴィルもエルクも驚きのあまりどうしたらいいのか分からなくなっていたが、グロリアはすぐに屈みこみ抱きしめた。
「大丈夫よ。あなたは生きて帰ってきたの。分かるかしら?」
「……はい、分かります。すみません、安心したら、力が抜けちゃって」
「仕方ないわよ。怖い思いをここまでずーっとしてきたんだからね」
「……もう、大丈夫です。ありがとうございます」
グロリアの胸の中で落ち着きを取り戻したアヤは一度大きく深呼吸をすると、差し出してくれていたヴィルの手を掴んで起き上がった。
「ヴィル先輩もありがとうございます」
「いや……その、すまん」
「本当にあんたは! 女の子の扱いがなってないわよー? こんなんじゃあ顔は良くても彼女を作るのはまだまだねー」
「う、うるさいな!」
「どうかしら、アヤちゃん? うちの愚弟はこんなんだけど、悪い物件じゃないと思うわよ?」
「物件って……いやいやいやいや! わ、私なんてとんでもないですよ! ヴィル先輩は格好よくて頼りになる先輩ですし、とても人気があるんですから!」
「ほほう。ということはアヤちゃんも狙っていると、そういうことですかな?」
「グ、グロリアさん! からかわないでくださいよ!」
「あははー! まあまあ、そう怒らないのー。元気出たでしょー?」
最後の言葉に、グロリアがあえてからかってくれていたのだと気づいたアヤは顔を真っ赤にしながらもこれ以上は何も言えなくなってしまった。
それでもからかわれたことには変わりなく、せめてもの抵抗としてジト目を向けている。
「うふふー、可愛いわね、本当に! ねえねえ、ヴィルはどうなのよ? アヤちゃんのことー!」
「……ヴィル先輩は?」
仕事ができるようになるまではと秘かな想いに、アヤは少しだけ期待して視線をヴィルへと向ける。
「……どうもこうも、アヤは俺の後輩だよ」
「……そ、そうですよ! 後輩ですよ! グロリアさんはからかい過ぎですってば!」
しかし、ヴィルの答えはアヤの期待とは異なり、それでいて予想通りの答えだった。
もちろん寂しくはない。寂しくはないが、残念ではある。
「……全く。二人とも、素直じゃないんだからねー」
「わ、私はそんなんじゃあ――」
「さっさと戻るぞ」
「は、はい!」
このやり取りに飽きたのか、ヴィルは足早に転移門を出ようと歩き出したのでアヤもそれに続いた。
後ろではグロリアがニヤニヤしながらその背中を見ており、エルクは苦笑を浮かべるばかりである。
ヴィルが転移門と通路を遮る扉を開けると――そこには大勢の職員、冒険者が四人の帰還を待ってくれていた。
「「——アヤ!」」
「リューネさん! パーラさん!」
一番前にいたリューネとパーラがアヤに飛びついて強く、強く抱きしめた。
「アヤ、ごめんなさい! 私たちがちゃんと家まで送り届けていたら、こんなことには!」
「そうだよ、本当にごめんね!」
「そ、そんなことないよ! リューネさんもパーラさんも悪くない、悪いのは私なんだから!」
二人の涙に釣られてしまい、泣き止んでいたアヤは再び涙を流している。
それを見た他の職員や冒険者からも笑顔の中に涙が見え隠れしていた。
「ヴィル! それにグロリアさんにエルク君も、本当にありがとうございました!」
「エルか」
「全く、人使いが荒いんだからー。この借りは高くつくわよー?」
「師匠! エルフィンさんを脅さないでくださいよ!」
「いえ、いいんですよ、エルク君。次に飲む時は、私が奢らせていただきますね」
「やっほー! 美味しいお酒のお店に連れて行ってよねー!」
ガッツポーズをとっているグロリアに苦笑しながらも、エルフィンはヴィルへ声を掛けた。
「ダンジョンはどうでしたか?」
「姉貴にも確認したが、火炎竜のダンジョンと同じ異常が起きていたようだ」
「そうでしたか」
「それと、アヤを攫った奴はやはりフロリナ・ハッシュベルだ」
「……やはり」
「協力者がいるようだが、そこまでは顔を見れなかったらしい。もし冒険者なら冒険者証に大森林のダンジョンに入った記録が残されているはずだから、それを調べられないか?」
「やりましょう。絶対に許せませんからね」
「助かる」
簡単な報告を終えたヴィルとエルフィンはそのままアヤへ視線を向けた。
三人とも涙を見せているが、今流している涙は嬉し涙だ。
アヤにもしものことがあればこの場にアヤはおらず、リューネとパーラの涙は悲しみの涙になっていただろう。
「……ヴィル、本当にありがとうございました」
「いや、俺のせいでもあるからな。俺は俺のしりぬぐいをしたみたいなもんだ」
頭を掻きながらそう口にしたヴィルに苦笑しながら、エルフィンは決意を口にする。
「徹底的にやりますよ」
「おう、頼む」
この場をヴィルに任せたエルフィンはアヤの肩を軽く叩いてその場を後にした。
その背中に続いたのはアルバだ。
「……すぐに見つかりそうだな」
ここでようやく安堵の息を吐き出したヴィルは、笑顔で泣いている三人を見つめながら笑みを浮かべるのだった。
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