第31話:大森林のダンジョン②

 ヴィルはモンスターを討伐しながらアヤがどこにいそうかを考えていた。

 ダンジョンについての知識はヴィルが認める程に豊富なアヤである。初心者のダンジョンでも怯えていたのだから一人で動き回るようなことはないだろう。

 ならばどこかフロアの一画で助けを待っている可能性が高いと考えた。


「やはり片っ端から行くしかないか!」


 モンスターが群れを成している状況がアヤの生存を否定しているように思えてならない。

 それでもヴィルは思考を止めることなく、大森林のダンジョンのマップを思い出しながら広いフロア目指してひた走る。


「どこだ……どこにいる、アヤ!」


 声が届くとは思っていない。

 それでも、声を張り上げていなければ不安を一蹴できないヴィルはモンスターを斬り捨てながらアヤの名前を飛び続けていた。


 ※※※※


 膝を抱えて顔を埋めていたアヤだったが、突然顔を上げて周囲を見渡した。


「……何か、聞こえる?」


 何の音なのかは分からなかったが、自然の音とは明らかに違う音が聞こえてきたと感じたアヤは耳を澄ませる。


「……誰かが、戦ってる? もしかして、冒険者が近くまで来ているの?」


 たまたま近くを通り掛かった冒険者がいたのだと思ったアヤは立ち上がろうとしたが、その動きは中腰で止まってしまう。


「……本当に、今動いてもいいの? もう少し、近くに来てからの方がいいんじゃないの?」


 丸腰である自分が歩き回り冒険者よりも先にモンスターと遭遇してしまったら一巻の終わりである。

 ならば、もう少し様子を見ていた方がモンスターと遭遇する確率を下げることができるのではないだろうか。

 アヤは考えた。考えて、考えて、考えた結果――


「動こう。冒険者が離れていく可能性だってあるんだし、じっとしていることが必ずしも安全なわけじゃないもんね」


 意を決したアヤは立ち上がると、ヴィルから貰ったお守りを握りしめたまま音のした方へと駆け出していった。


 ※※※※


 先に大森林のダンジョンに入っていた冒険者たちと合流したエルクはモンスターを魔法で一掃すると今後の探索について相談をしていた。


「モンスターの数が異常です。この数に対抗できると自信のある人だけがこれからの探索に参加してください」

「俺たちに逃げろって言いたいのか!」

「命を大事にしてほしいと言っているんです。先ほども孤立した二人が死にそうになっていたんですよ?」


 そう言われて、孤立していた二人は俯いてしまった。


「お二人もいつものダンジョンなら問題はないんでしょう。ですが、先ほども言いましたが今日はモンスターの数が異常なんです。原因が分からない以上、自信のある人だけで探索を続けるべきです」


 そこまではっきりと言われてしまうと誰も口を挟むことはしなかった。

 その代わりに孤立していた二人の冒険者が手を上げて撤退すると申し出てくれた。


「俺たちは戻ります」

「元々、大森林のダンジョンはギリギリ攻略できるって実力だったし、今の状況では足手まといになってしまいますから」

「では、お二人には管理組合へ状況を報告してもらってもいいですか?」

「状況を?」

「はい。モンスターが異常発生していると。そして、その原因が何なのか、過去に似たようなことがあったのかを調べてほしいと」

「「わ、分かりました!」」


 ただ撤退するだけではない。それも一つの仕事なのだとエルクは暗に伝えていた。

 そのことを理解できたのかは分からないが、二人の冒険者は準備を整えるとすぐに来た道を引き返していった。


「……残りの皆さんは大丈夫なんですね?」

「当然だ」


 残った冒険者は最初に合流した四人。その中にはアヤが最初に下位ダンジョン窓口で接客をしたベイルもいた。


「僕は一人で動きます。皆さんは先ほどのように群れが襲ってくる可能性もあるので固まって動いてください」

「一人で大丈夫なのか?」

「そっちの方が動きやすいんです」


 ベイルの質問にエルクははっきりと答える。

 その意図を酌んだベイルは溜息をつきながらも頷いた。


「危ないと思ったら絶対に引いてください。プレシアスさんを助けるのが目的ですが、それでも自分たちの命が一番大事だと理解してください」

「ふん! それくらい、子供のお前に言われなくても分かってるよ!」


 男性冒険者が強気にそう言い放つと大剣を背負い直して準備を整え始める。残る二人の女性冒険者も同様だ。


「……すまんな、ヴォーグスト」

「いえ、僕も言い過ぎましたから」

「いや、お前の言う通りだよ。……俺たちは危なくなったら引くが、お前は探し続けるんだろう?」


 ベイルは戦斧を肩に担いでそう問い掛ける。


「ランクEのダンジョンで死ぬつもりなんてありませんからね」

「だろうな。あの嬢ちゃんはめずらしくレイズ支部で仕事のできるやつだからよ、助けてやってくれ」

「……もちろんです。お互いに気をつけていきましょう」


 エルクはベイルと固い握手を交わすと先に駆け出していった。


「……さーて、俺たちも行くぞ!」


 ベイルの合図を受けて、四人の冒険者はエルクが向かった先とは別の通路へと進んでいった。

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