第41話 伝説は蘇る(一)
等々力は家具付きのウィークリー・マンションを他人名義で借りた。ウィークリー・マンションは、一時的な隠家だ。
等々力は仕事の用のスマート・フォンを使って、潜伏先から電話で左近に指示をした。
「左近さん。お願いがあります。郊外にある古い一軒屋を購入してください。登記は等々力の名義にはしないで欲しいんですが、犯罪のプロが探れば等々力の名前が浮かぶように、細工をお願いします」
左近は乗り気ではなかった。
「ダミーの隠家を確保して時間を稼ぐつもり? あまり意味がない気がするけど」
「家を買ったら、リーさんの組織に頼んで、爆発物を仕掛けてください。俺がいると思って軍曹が家に入ったら爆発するように、細工するんです。ただし、周りには被害が出ないように、お願いします。もちろん、後で消防や警察が入っても俺は捜査線上に浮かばないのも忘れないでください」
左近が冷静な口調で評価してきた。
「書類上の細工は問題ないわ。でも、ブービー・トラップで軍曹を消すの? 成功する確率は競馬の単勝一点買いより低いわよ」
「成功すれば儲けものですが、失敗してもいいんです。家を爆破するのが目的です。普通の大学生がブービー・トラップで人を爆死させようと画策しているとは、考えないはずです。ブービー・トラップは、軍曹に相手が単なる大学生ではない、つまり、等々力ではないと思わせる伏線です」
「なるほど、いいわよ。他にして欲しい策は」
「家を監視させて、軍曹が家の爆発から逃れたら、軍曹に『ファントムには近づくな。警告は一度だけだ』とメッセージを送ってください。できるだけ仰々しく、おどろおどろしい感じでお願いします」
左近がすかさず尋ねてきた。
「経費として追加の予算を貰うけど、どれくらい掛けるの」
正直、こういうときどれくらいお金が掛かるのかわからない。
被害のでないように土地の広い郊外のボロ家の購入が十万ドル。爆破トラップと公的書類の偽装工作、広告費宣伝費で、百万ドルもあれば足りるだろうか。
「家の爆破と警告を併せて、百十万ドルでお願いします。予算内で警告は、できるだけ派手にしてください」
左近から「わかったわ」と短く返事があった。
ガニーが命の危険を感じてくれれば、武器を調達するために組織に連絡するだろう。
組織に連絡が行けば、左近から手を引くように話が来ている事態を知る。そこで、裏で何か大きな力が動いていると思っていれば、もう等々力を追わないかもしれない。
あとは、左近が手際よくやってくれるのを祈るのみ。うまくいけば、『オレオレオレ作戦』は全容を明かさずに、終了する。
夕方には左近から、仕込みが完了したとの連絡があった。
翌々日の夕方、テレビを見ていると、テレビの生中継で火事の映像が入ってきた。
左近から購入した家がどの場所にあるか聞いていたので、生中継のある激しく燃える家が、細工をされた家だとわかった。
軍曹が死んでいないか、または巻き込まれていないか、注意深くニュースを見守った。だが、死傷者のニュースはなかった。
後は警告を聞いてくれれば、と思ったら、テレビが急に暗くなった。
テレビに赤字で『Keep away the Phantom. Warning the only once(ファントムには近づくな、警告は一度だけ)』の文字が映った。
等々力はなんで、テレビに文字が映ったのか恐怖した。チャンネルを変えると、NHK以外全てのテレビ画面に文字が映っていた。文字は十秒ほどで消えた。
生中継をしていたテレビ局に、チャンネルに戻した。
ニュース・キャスターがうろたえながら、画像の乱れを詫びた。おそらく、電波ジャックだ。いくらなんでも、やりすぎだ。
これは、ニュースになると思った。インターネットを開くと、有名検索エンジンのページがKeep away the Phantom. Warning the only onceの文字に書き換えられていた。
書き換えられたページは一つではなかった。他の三つの有名検索エンジンのページも書き換えられていた。
事情を知る等々力でも、怖くなった。絶対、日本中の話題になったと思い、SNSのページを開くと、有名なSNSのページもジャックされていた。
外で、花火の上がる音がした。花火大会の予定はない。まさかと思い、外を見ると花火で『Keep away the Phantom. Warning The only once』の黄色い文字が空に輝いていた。
鳥肌が立った。
「広告料百万ドルって、こんなに凄いの」
すぐに、左近に連絡を取ろうとすると、携帯電話の電源を入れるとメールが入った。件名はまたしても、『Keep away the Phantom. Warning the only once』で、内容は空。
おそらく、携帯会社が携帯全部に流すメールだ。携帯会社のメール・サーバーもジャックされた。他の携帯会社全ても、やられているはず。
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