第6話 スキルの使い道
「ラディナさん。ラビィさんのことより、囚われていたみんなは無事でしたか?」
「ええ、大丈夫だったわ。そこの茂みの奥にみんな待ってる」
ラディナさんが指差した先の茂みに目を凝らす。
そこには助け出された女性たちが、こちらを見て元気そうに手を振っていた。
みんな、酷いことされてなさそうで良かった……。
助け出された人の無事を確認し、ホッと安堵の息を漏らす。
「村は全滅だったけど、君に出会ったことであの子たちだけでも助けられて本当に良かったわ……逃げようと誘ったとはいえ、あたし一人だけ逃げ出しことに罪悪感は感じてたし」
ラディナさんが目を潤ませてお礼を述べていた。
やっぱり、誘いを断られて自分一人で逃げ出す形になったことに引け目を感じていたんだな。
でも、良かった……村の女の子たちが助けられて……。
「これは、あたしからフィナンシェ君へのお礼ね」
ラディナさんのやわらかい唇が、俺の頬に触れた。
唇が触れた途端、自分の顔が火照っていく。
「ラ、ラディナさん!? 何を!?」
「こ、こんなことしかできないけど、あたしからのお礼の気持ち受け取ってくれてありがとう。あ、あの、もう一回しとく?」
ラディナさんも照れているようで、顔が赤かった。
「ブハッ! おう! いたいけなワイの前で二人していちゃつきやがって!」
「ち、違いますよ!」
「んーもう! いいとこなのに邪魔しないで」
「って、そっちはまぁええわ。それよりもお前ら村を焼け出されたら金に困ってへんか?」
俺の手を払いのけ、腕から這い出したラビィさんが、どこからか取り出したソロバンを弾き出していた。
「ひい、ふう、みい、よ、いつ、むー……ワイの膨大な経験から算出した結果、助けた子たちが街で暮らせるようになるのに必要な金はこれくらいやな!」
「「二五〇万ガルド!?」」
「やな。これくらいはないと街で普通の生活はできんと思うでー」
ラディナさんを始め助けられた子たちは、助かったものの村を焼け出されていた。
そのため、ゼロから生活の再建をしなければならない子たちである。
二五〇万ガルドか……。
俺の稼ぎが一日、六〇〇ガルドだから四一〇〇日のただ働きをすれば……って一〇年以上か。
そんなの無理だよな……その間も色々とお金かかるだろうし。
最悪、この伝説級の剣を手放して金を準備するしか……。
「そ、そんな大金があたしたちにあるわけ……」
「ほなら姉ちゃんたちが身体売ったら、ええんちゃうか? 若いしそれなり見てくれはいいんやし、高く売れると思うで。ワイがミノーツの街の娼館に話をつけたろか? 何度か利用したこともあるんで伝手はあるでぇ」
ラビィさんがズレた左目の眼帯を直しながら、ラディナさんたちを値踏みするような視線を浴びせていた。
生活再建のため、どうやって資金を捻出するかラディナさんが困ったように考え込んでいた。
そんな様子を見て、俺の脳裏に一つの考えが浮かぶ。
俺のスキルで色々な廃品を新品にして、街で売り捌いてみたら何とかお金が工面できるんじゃないだろうか。
そうすれば、ラディナさんたちも娼館に身を売らないで生活できるかもしれないし。
ラディナさんにも少しは協力できて、いいところを見せられるかもしれない。
Sランク冒険者のラビィさんの伝手を使えば……もしかしたらいけるかも。
「ラビィさん、武器屋さんとかに伝手とかあります? こっちの剣なら二〇〇〇ガルドくらいにはなると思うんですがどうでしょう?」
俺は先ほど試しに作った普通品質の鉄の剣の方を差し出した。
「ん? さっきのとちゃうやつか。こっちはさっきのに比べるといい武器じゃないな。とはいえ、使ってない新品だし、知り合いの武器屋に流せばお前の言い値の二〇〇〇ガルドで買い取ってはくれそうやな。フィナンシェは目利きもあるんやな? 鍛冶以外に鑑定持ちでもあるんかいな?」
「いえ、俺の持ってるスキルが『鑑定』スキルも兼ねてるみたいでして……」
「複合スキルか……えらい、珍しいスキル持ちの癖に貧乏ったらしい服装しとるのぅ」
さっきラディナさんに出会うまでは一度も発動したことがない、ゴミスキルと言われてたスキル持ちなんで、服装が貧乏ったらしいのは見逃して欲しい。
でも、ラディナさんと俺が居れば、ゴミから新品……いや、元より品質のいい物まで作り出せるようになると発見している。
この『リサイクル』スキルを使えば、みんなの生活資金二五〇万ガルドを作り出すのは不可能ではないはずだ。
俺は思いついた考えを二人に伝えることにした。
「ラビィさん、ラディナさん、生活再建資金の二五〇万ガルドを集める手助けしてくれませんか」
「はぁ!? 何言うとるんや? ワイは儲け話には興味はあるけど、慈善事業なんぞに興味無いでー」
「フィナンシェ君、何か考えがあるの?」
「ありますよ。ラディナさんが持つ解体スキルでいろんな物を解体して、俺が持つリサイクルスキルで再構成して、それをラビィさんの伝手を使って売り捌く。そうすれば、元手なくてもお金が稼げると思うんだ」
俺の提案に、ラディナさんがハッとした顔をした。
彼女は俺のスキルの力を知っているので、言った意味が理解できたようだ。
反対にラビィさんは怪訝そうな顔で俺を見ていた。
「ラビィさんに納得してもらえるよう、ラディナさん手伝ってください」
俺は足元に落ちていたオークの大刀をラディナさんに手渡す。
「おっけー。あたしたちの運命の力を、この口の悪いお漏らし兎に見せてあげましょう」
そう言ったラディナさんが手袋を外すと、手にしたオークの大刀を解体し、廃品を俺に渡してくれた。
「なんやねん!? 狂暴女は物を壊す力があるんかい!? えらい物騒な力やな」
「でも、俺にはラディナさんの力が必要なんですよ」
俺は受け取った廃品に触れるとスキルを発動させる。
ー――――――――――
リサイクルスキル
LV:1
経験値:2/12
対象物:☆鉄の大刀(廃品)
>鉄の大刀(普通):90%
>鉄の大刀(中品質):70%
>鉄の大刀(高品質):50%
>鉄の大刀(最高品質):20%
>鉄の大刀(伝説品質):10%
―――――――――――
成功率の高い普通品質を選び、再構成を始めた。
周囲に一気に光が溢れる。
「わ、わ、わ! なんやねん! フィナンシェ! お前、何しとんねん! ま、眩しいやんけっ!」
やがて、光が収まると真っ二つにされていたはずの大刀が元通りに戻って刀身が鈍い光を発していた。
>鉄の大刀(普通品質)に再構成に成功しました。
>鉄の大刀(普通品質)
攻撃力:+6 強度:30 資産価値:二五〇〇ガルド
「って、いう風に新品同然に戻るんですよ。これなら元手はただ同然ですし、成功率は低いですけど最初に見せた品質の物もできる可能性があります。どうです、ラビィさん」
俺が差し出した大刀をラビィさんが品定めしていく。
年齢不詳のラビィさんだが、冒険者としての経験は長そうで、品定めの目は真剣そのものだ。
「普通の大刀やな。でも、新品同然だから二五〇〇ガルドで売れるやろ……。フィナンシェとそこの狂暴女がすごい力を持っとるのは認めたる。だが、ワイは慈善事業家じゃない冒険者やからタダじゃ動かへんでー」
「そう言うと思いました。ラビィさんは伝手の紹介料として三万ガルドとかでどうです?」
ラビィさんの大きな耳がピクピクと動き始めた。
「三万ガルドか……えろう安いな。武器屋の伝手を紹介するよりも、ワイが露店出して売ってやってもええで! こう見えても、そこらの商人よりは口に自信はあるさかいなっ! ただし、ワイの取り分は売り上げの五%ってところでどうや?」
さすがにSランク冒険者……。
謝礼金三万ガルドくらいじゃ動いてくれないか……。
ぼっちソロ冒険者の俺が、大量の武具を武器屋に持ち込んでも怪しがられて衛兵に突き出される可能性もあるし……。
取り分が減るけど、Sランク冒険者として実績と人脈がありそうなラビィさんの協力を得るしかないよな……。
「分かりました。でしたら、提案通り売り上げの五%をお渡ししますので、ラビィさんのお力を借りて、色々な品物を売り捌き彼女たちの生活資金二五〇万稼ぐ手伝いを頼みます」
俺はラビィさんに頭を下げて頼んでいた。
「ほほぅ。若いのに決断が早いなぁ。なら、ワイが販売窓口になったるわ! いっちょ、二五〇万稼ぐでー!」
ラビィさんが俺の足を叩くと、近くに落ちているゴブリンの武器を集め始めた。
「お嬢ちゃんたちもフィナンシェも金になりそうなもんを集めるんやっ!」
「は、はい。じゃあ、すぐに落ちてる武器を集めてきます」
「もしちょろまかしたら、解体して毛皮にするからね。口悪兎」
それから、俺たちは倒したゴブリンたちの魔結晶や武器を拾い、たむろっていた場所でいくつかの防具やアイテムを見つけた。
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