第27話 王都編③〜逃亡の行方!〜

 「──なんで大声だすんだよ! オレ達が追われてるの忘れてんのか!」

 「し、仕方ないでしょ! ヒラガが変な性癖とか言うからよ!」

 「二人とも、大声で言い合うのは辞めてください! 兵士をまくにまけないじゃないですか!」

 


 ──一方その頃、とある平原にて。


 ──あぁ、水魔法凄かったな……氷魔法、凄かったな……。


 水魔法、氷魔法、水魔法、氷魔法……。


 水氷水氷水氷水氷水氷水氷!


 ふざけるな!

 なんでこの俺が毎日毎日、毎日毎日! 氷漬けにされたり炎であぶられたりしないといかんのだ!


 あぁ、もうやだ! 俺は平凡な日常を過ごしたいだけなのに!


 あぁ、寒い! 誰か俺をここから助けてくれよ……。


 先日ヒラガ達に氷漬けにされた魔王軍幹部、ロックゴーレムのガランは氷の中で途方に暮れていた。


 「──ガラン様! どこですか!」


 王都に向かって消息を絶った、ロックゴーレムのガランを大勢の仲間の魔物たちが探していた。

 その中でも俺の直属の部下が都合よく目の前に来ていた。


 俺ならここだよ、ほら目の前にいるじゃないか。


 ほら目の前に!


 ──おい、なぜわからんのだ!


 「ふひふひへひひ!」


 俺ならここだ、と言ったつもりなのだが、今俺の目の前にいるやつには聞こえてないらしい。


 「ふひふひひふひひ! ふひ! ふひ! ふひひ!」


 俺ならここだ、と二回も分かりやすく言ったつもりなのだが、まだ聞こえてないのか、そっぽを向いている。


 「ふひひふふふひひ!」


 俺が必死になってるってのに、俺の直属の部下はどこかクスクスと笑っているように見える。

 そして、俺の方をガン見して、またクスクスと笑う。


 「ふひ! ふひひふふひひ!」


 おい、絶対見えてるだろ!

 そう思った矢先に、俺の直属の部下は口を開き、聞き捨てならないことを言い出す。


 「──いい見ものですね、ふふふ」


 おい、あとでぶっ殺してやる!

 

 ──いつの間にか大勢の仲間の魔物たちがガランの目の前に集まっていた。


 「──助けて貰った感想はどうですか?」

 「ふざけるな! 俺を見てクスクス笑いやがって!」

 「あっ、バレてました?」


 なんてやつだ、なんでこんなのが俺の直属の部下に……。


 「まぁいい、俺はこれから城に帰るとする、お前達も一緒に着いてくるといい」

 「ガラン様、今城に帰るのは色々とよろしくないかと、敗北したガラン様は今帰ると魔王様に消されかねませんので」


 そんなことを笑顔で言ってくる俺の直属の部下に恐怖を覚えるが。


 「そ、それもそうだな、なら…………どうすればいいんだ?」


 なんだか他の魔物たちの視線が痛い気がする。


 「ガラン様、こういう時は仕返しにいくのが良いかと思います」

 「そ、そうか……えっ!? 仕返し!? あんなおっかない連中にか?」

 「はい!」

 「嫌だよ! 怖いよ! 無理無理無理!」


 ガランがそう言うと、他の魔物たちの視線がさらに痛くなってきた……。


 「い、今のはなしだ! 行くぞ仕返し! で……どこにいるんだ?」

 「王都です」

 「王都!? この世界の精鋭が集まるとも言われてる、あの王都にか!?」

 「はい、そうです」

 「なんでこの俺が王都に行かなきゃならんのだ! 俺、死にたくないんだよ! ねぇ、わかる? この気持ち?」


 ………………。


 「今のもなしだ! 行こう! 今すぐ王都に行こう!」

 「……オー!」

 「「「…………オー!」」」


 その言葉に応えて他の魔物たちはやっと声を上げてくれた。


 こうして、王都に魔王軍幹部が進行し始めたことは、ヒラガ達には知る由もない。



 ──走り走り走り走り。


 「はぁ、はぁ、もうオレ、限界かもしれん……」


 なんだかこの世界に来て、走ってばかりな気がする。


 「ヒラガ、ここは私に任せて──おいっ! 何をする!」

 「そんなことを言うな!」

 「でも、このままでは皆が、せめて拷問は私だけでも──」

 「だからそれはダメって言ってるだろ!」


 なんなんだこの危機感のないアホは。

 どうしてそんなに拷問されたいんだよ変態が。


 「はぁ、はぁ、お兄ちゃん、左です!」

 「おう!」


 

 ──なんとか再び兵士をまいたオレ達は息を切らして壁にもたれ掛かる。


 「──はぁ、はぁ、はぁ、なんでこんなにも追われなきゃ行けないんだよ……」

 「本当に死にそうに息を切らしているわね……」

 「し、死なないでくださいよ! もうシャレになりませんからね?」

 「変な性癖とか言われたくらいで途中で大声で叫び出したり、なんか楽しくなってきて石ころを投げつけたりしなかったら、もうちょっと簡単に事が収まったのかもしれないのに……」


 オレがそう言うと、サエとアンリィはオレからの視線を逸らす。

 本当になんで……。


 「おい、私は変な性癖などではないぞ! これはだな、その……」

 「もういいから喋らないでくれ」

 「なっ!? ……そう言われると、流石の私もなんだか腹が立ってきたわ」

 「おい、だから静かに──」


 

 「──そこに、誰かいるのか?」


 まずい、またバレた。


 もうオレにはこれ以上走る体力は残ってないぞ。


 仕方ない、ここで負けを認めて牢獄生活を頑張ろうかな、オレ、無実なんだけどな。


 と人生を諦めた瞬間、オレたちの後ろのドアがそおっと開き、誰かがオレ達に向かって話かけてくる。


 「こっちだ、いいからこい、捕まりたくないんだろ?」


 どうやら助けてくれるらしい。

 だが罠という可能性もある、オレ達がノコノコとその声の場所に行ってもいいのだろうか。


 そうこう考えているうちに、兵士の足音が徐々に近づいてくる。

 オレ達が助かるためにはここで助けてもらう以外の選択肢はなかった。

 

 「──あれ、気のせいか……?」

 


 ──オレ達は開いたドアに走り込み、なんとか兵士から逃れた。


 「──助けて頂き、ありがとうございます」


 少し疑っていたオレは、お礼を言わずに少し警戒していたが、なんだかこの人の顔、どこかで見たことがある気がする。


 確か、この人は……。


 「久しぶり、サエちゃんとえーと、うん」

 「おい、なんでオレの名前は忘れてんだよ!」


 以前、オレとサエが働いていたメイド喫茶の店長だ。

 リッカと会ったのもこの店長のおかげと言ってもいいくらいだ。

 確かスタット村から王都に行くとか言っていた気はする。

 まさかこんな所で会うなんて思ってもいなかった。


 「あんたは雑用でしょ? 覚えてるわけないじゃん」

 なんだこいつ、助けてくれた事はいいが、やはりなんだかムカつく。

 「それで、もしかしてだけど、この騒ぎはあなた達のせいなわけか?」

 「はい、そうです、すみません……」

 「いいんだよ、昔の仲なんだし、でも……本当にお前が犯罪者なら潔く王女様に差し出すけどね」


 とオレの顔を見ながら言ってくる。

 なぜこの人はオレに対してこんなに厳しいのかわからないが、この人なら信用できそうだ。


 「やってないですよ、そんなこと、オレ達は完全に濡れ衣を着させられたんですよ」

 「ならいいんだけど……。そうだ、そういえば新しくそこにいる嬢ちゃんはなんて名前だい?」


 どうやら店長が目に着けたのはアンリィらしい。

 やはり、見てくれはとてもいいアンリィは店長に好評らしい。


 「ひぃ、わ、私はその、アンリィです」

 「どうしたんだ? なんだかやけに緊張してないか?」

 「アン……ああ、前にバイトで雇っていた子か! へぇ、懐かしいな」


 バイトで雇っていた?

 アンリィを?


 「聞いてないぞアンリィ、まさかメイド喫茶でバイトしてたなんて」

 「話す必要がなかったのでね……だけどあまりにもひどい仕打ちをされたので直ぐにやめたのよ」

 「ひどい仕打ち?」


 アンリィがひどい仕打ちを?


 普段なら喜びそうなのに……どんなひどい仕打ちをしたんだろう……。

 そう思いながらオレは店長を見ると、店長は視線を逸らしてどきまぎする。


 「おいおい、俺はそんなひどい仕打ちなんてしてないぞ!」


 いや、なんか怪しいんですけど……。

 アンリィが本当に嫌がる仕打ちか……。

 後でどんな仕打ちをしたのか店長に聞いておくことにしよう。

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