第26話 王都編②〜再開!〜

 「……みんな、久しぶり」


 オレ達の前に突然現れたリッカはこの牢屋の鍵だと思われるものを持っていた。


 「リッカ! リッカじゃないか! いいから早くこの牢屋の鍵をその手に持ってる鍵で開けてくれ!」

 「久しぶりに会ったのに、第一声がそれ!?」

 「リッカさん、今はそれどころじゃないんですよ!」

 「は、早く鍵を!」


 そう言われてリッカは納得いかない顔をしながら牢屋の鍵を開ける。


 「開いたわよ、それで──」

 「──ありがとう! だけどお前も早く逃げた方がいいぞ?」

 「ありがとうございます! 気をつけてください!」

 「ありがとう! 健闘を祈るわ!」


 そう言ってオレとサエ、アンリィは直ぐにこの洞窟の出口に走っていった。


 「──ちょっ、ちょっと! 待ちなさいよ! 何をそんなに慌てて…………へ?」


 オレ達が先程まで闘っていたバサバサ飛ぶ黒くて早いやつの影が、松明の光ででかでかと映し出される。

 すると、何かを察したかのようにリッカは悲鳴をあげて、洞窟の出口に向かって走り出した。

 


 「「「「──はぁ、はぁ、はぁ……」」」」


 オレ達は洞窟を無事に抜け出した。


 この洞窟がある王都の外れの場所には人気ひとけは少なかった。

 門番らしき人もいないようなので幸運なのかどうか、完全に脱獄できてしまった。


 「そ、そう言えばなんでオレ達の場所が分かったんだ? 一国の王女様にはこんな些細(ささい)な事件の話は届かないんじゃないか?」

 「まぁ、そうね、些細な事件じゃお姉様にはともかく、私に情報が入ることはまずないわね」

 「ならなんで……?」

 

 「でもそれは些細な事件ならね、最近王都中を騒がせている彼らは別よ、の盗人とやけに仲のよさそうなその妹が突然捕まったと聞いてね」


 おい。


 「さらにその仲間と思われるエルフも一緒に捕まえたって知らせが私にも届いたのよ、だからもしかしてって思ったら、案の定あんた達だった訳よ」

 「オレ達だと思って助けに来てくれたことにはありがたいが、なんでお前も目立つ要素のない若者ってだけでオレだと思ったわけ?」


 そんな激昂とはよそにサエはにやけづらでなにか呟いている。


 「えへへ、やけに仲のいい妹ですかぁ……」


 だがそんな声は激昂しているオレに聞こえることはなく。


 「そ、それは……その、なんででしょうね?」

 「誤魔化すな! アンリィも何か言ってくれ!」


 と、突然アンリィに話を振るが、アンリィはまごうことなく。


 「自覚がなかったのかヒラガ」


 と追い打ちをかけるように言ってきた。

 嘘だろ……オレそんなに目立つ要素のないやつなのか? 

 オレはそんなにつまらないやつなのか?

 と、考えている矢先、サエがオレの顔を見てニコリとし。


 「お兄ちゃんはそんな何もないところもいいですよ?」


 と、何もわかっていない子供のように言ってきた。

 泣くよオレ……。


 「──それで、あなた達はどうして王都に来たの?」

 「……決まってるだろ? リッカを連れ戻しに来たんだよ、またオレ達と一緒に来ないか?」


 アンリィとサエもオレに続いて。


 「私はまだみんなといる日が浅いけど、また全員で冒険したいわ!」

 「また、訳の分からないたわいのない事で笑いましょう!」


 皆笑顔で昔のことを思い出しながらリッカに願いを語り掛ける。


 「──ごめんなさい」


 だが、リッカが返した答えはこの一言だけだった。


 オレがなんでと聞いても、サエが涙を流しても、アンリィが必死に語りかけても、リッカの顔は暗くなる一方だった。


 「──ごめん以外の言葉を言ってくれよ!」


 オレがそう叫んだ瞬間、一人の声がこちらに聞こえてくる。

 リッカの説得に夢中なって周りを見ていなかった。


 「──おい、お前たち、何をやって……リッカお嬢様!? どうしたんですかリッカお嬢様!」


 それは不幸なことに、この国の兵士だった。

 脱獄してしまったオレ達が、王国の兵士に見つかってしまった。


 「──ん? お前たちは盗人の!」


 兵士がそう言うと笛を取りだして、それをとっさの行動で兵士は吹いた。

 甲高い笛の音は、この静かな夜に鳴り響いた。


 「まずいぞ! 今すぐ逃げないと追っ手が……」


 この兵士一人を倒してしまおうかと考えたが、まず勝てるかもわからない、あきらかに強そうな兵士が、何人も集まってきている足音がする。


 「来てます! 兵士がめっちゃ来てます!」


 オレ達の選択肢は、逃げるほかなかった。

 リッカの説得も大事だが、オレ達が捕まって、死刑になってしまえば元も子もない。


 「逃げるぞ! リッカの説得はまた今度だ!」


 オレ達は兵士が集まってきている方向とは逆方向に走って逃げた。



 ──走って走って走って走って……。

 オレ達はようやく兵士を巻いた。

 だが王都はやけに騒がしくなり、まだ兵士達はオレ達を探し回っているようだ。


 「──これからどうするんですかお兄ちゃん、私達、この王都では盗人という犯罪者に間違えられてるんですよ?」


 小声で言いながら不安でいっぱいのようなサエが、オレの服の裾(すそ)にしがみつく。


 「二人とも、イチャイチャしている暇はないわ、移動するわよ、この辺に兵士が集まってきているわ」

 「イチャッ!? そういう意図があったわけじゃないですよ。こ、こ、怖いんですよ!」


 「そ、そうだぞ、サエとオレは初めて犯罪者として逃げ回っているんだ。不安になるのも当然だ。そんな意図があったわけじゃない!」


 と、言い訳するオレ達の顔をジロジロとみて、アンリィは溜息をついた。


 「それはどうだか……あっ、そうだヒラガ、いいことを思いついた、今から私が囮に──」

 「却下」

 「なっ!? まだ最後まで私の言葉を言い切っていないのに、なぜ却下するのよ!」


 「どうせ囮になって時間を稼ぐからそのうちにこの王都から逃げろとか言い出すんだろ? まぁ、お前はそのあとのことに期待してるんだろうけどな」

 「そ、そんな……ことは…………」


 あたってたのかよ……。


 「前から思ってたのだが、なんでお前はそんなに変な性癖を持ち合わせているんだ?」

 「なんだと! 変ではないだろ! 私のロマンを馬鹿にするのは辞めてく──ッッ!?」


 大声で語り出すアンリィに対して、オレは咄嗟にアンリィの口を手で抑える。


 「それ以上大声で語るのは辞めてくれ! オレ達は今、おわれて──」

 「ぷは! いったい何をするんだ! 今のはセクハラだぞ!」


 おい、だから喋るなって……。


 「いたぞ! 盗人だ!」


 アンリィさあああん!


 兵士が笛を吹くと、甲高(かんだか)い笛の音が、王都中に鳴り響いた。

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