第25話 王都編①〜投獄!〜
王国の王城であるリッカを連れ戻したいという気持ちから、オレ達はついに王都までやって来てしまった。
王都の巨大な城門には大きな武器を片手で持つ、明らかに強そうな門番が二人立っている。
このままゾロゾロと世紀末戦士達を連れていくわけにもいかないし、また門番と張り合ってしまうのも面倒なので、アンリィに頼んで世紀末戦士達は帰らせた。
メタルスライムのベムはここの門を通ることは出来なさそうなので、カシラ頭に頼んで保護してもらう事にしたのだが、ベムがどうしてもここに残ると言い出し口を聞かないので、門で留守番させることにした。
──オレ達三人は王都の門に並ぶ行列の最後尾に並んで待った。
「──なんだか人がとても多いですね、さすがは王都です。中はどんな感じになっているんでしょうか……」
「そうだな、でも本来の目的を忘れるなよ?」
「そうですよね、リッカさんを連れ戻す……」
「あの、リッカさんを連れ戻すのはいいのだが、ヒラガはこの王都でリッカさんをどうやって連れ戻すつもりなの?」
リッカとまた冒険がしたいとかいう思いでここまで来てしまったが、確かにどうやってこの国の王女様を連れ帰るんだ?
この国の王女様を拉致したりなんかしたら、オレ達は死刑どころじゃ済まなくないか?
「……まぁ、とりあえずあってみるしかないだろう」
「えっ? 今の聞きましたかアンリィさん! この人、何も考えてなかったようですよ!」
「う、嘘でしょ! あれだけ威勢よくリッカを連れ戻すとか言ってたくせに、何も考えてなかったの?」
「……まぁ、なんとかなるって」
「その自身はどこから来ているのでしょう……」
と、すっかりと話し込んでいると、どうやら周りが急に静かになり、周りの人達がなにかに敬意を払うように跪(ひざまず)く。
なんだなんだとオレとサエ、アンリィが呆然としていると、隣の人から声をかけられる。
「おい、何をやっている! お前たちには王女様が見えないのか!」
「王女様? そんなような人は……」
オレは周りを見渡すと、ものすごく遠くに見えている外見がとても豪華な馬車を見つける。
「いや、米粒みたいで見えねぇ……」
「──!? 何を言ってるんだ! 早く跪け! 死にたいのか!」
「えっ!? 死ぬ!?」
オレは咄嗟に死ぬという言葉に反応してすぐさま皆の真似をして跪く。
サエとアンリィも状況を把握したのか、オレが跪く前にいつの間にか皆の真似をしていた。
やっぱりこの国、凄くおっかないんじゃないか?
やっぱりケルベルトとかいうのが普通の国なんじゃないか?
てか馬車遅! まだ米粒みたいで見えないんだけど。
なんでちょっと見えたくらいでみんな跪いてるわけ? 絶対にあっちからは見えてないでしょ。
ていうか今、王女様がどうとかっていってたな。
リッカが乗ってると話は早いのだが……。
…………まだか?
あの馬車妙にゆっくりこっちに来てないか?
もしかして王女様はこの状況を楽しんでたりしないか?
──暑い暑い暑い暑い暑い。
汗が止まらなくなってきた。
馬車のあまりの遅さに皆も険しい顔をして……いや、一人だけしてなかった。
「おい、アンリィ、お前こんなに暑いのに暑そうな鎧まできて、なんでまたそんなに楽しそうなんだ?」
「そ、そんなふうに見えるか? でも確かに私は今この我慢プレイを楽しんでいるのかもしれない!」
……ダメだこいつ。
「ヒラガ、サエ、もしかしてお前たちも、とても暑いのではないか? もし良かったら私に服を預けてもいいのよ」
「いや、いいよ、もう既に鎧まで着て暑そうなアンリィにそんな仕打ちはできないよ」
「仕打ち!? ヒラガがまさかそんな言葉を使うとは……
アンリィの妙な
だがアンリィの汗でベトベトになってしまうと洗濯が面倒なのでオレはその言葉を聞き流した。
「──む、無視! 今、目の前にいるのに相手に無視をされるのは初めての感覚だ! ちょっと悲しいがこれはこれでいいかもしれない……」
……もうオレどうすればいいの?
今も尚、大量の汗をかきながら何故か嬉しそうなアンリィの横顔を眺めながらオレはちょっとため息をつく。
見てくれはすごくいいんだから、この変な性癖を直してくれれば完璧なんだけどなぁ。
と思うと、アンリィが顔を真っ赤にしてこちらをチラチラと見て動揺していた。
「もしかして今、声にでてたか?」
「ええ、バッチリと聞こえてましたよ」
呆れた顔でこちらを見ているサエを見ると、なんだかとても悲しくなる。
「おいあんたら、少しは黙ったらどうだ? 王女様はもうすぐそこまで……」
「──そこ、うるさいぞ! 王女様の前では静粛にしろ!」
「す、すみません王女様!」
気づけば王女様はオレの目の前にいた。
それはリッカではない。
おそらくこの国の第一王女なのだろう。
リッカに似た髪色をしており、この国の王女に相応しい美しさを放っていた。
隣でオレ達を注意してくれた人が護衛の兵士に怒られているようだ。
「聞こえなかったのか? 黙れと言っているのだ」
隣にいた男はその言葉に何も言えず黙り込み、そのままオレ達を睨んだ。
無理もない、オレ達のせいなのだから。
すると、兵士はその様子に気づいたのか、オレ達を凝視したあと、こっちに来いと言われた。
オレ達はその言葉に従い、王女様の横を兵士と共に歩いて王国に入国した。
オレ達の隣にいた男は勝ち誇った顔をしてオレ達を見送った。
──それからしばらく歩いた後。
「──お兄ちゃん、私達どこにつれていかれるのでしょうか?」
「それは王城だろ? オレ達には知り合いがいるんだし、ほら王城の入口が見えてきた」
オレの思った通り、連れてこられた場所は王城だった。
王城の前に着くと、王女様は馬車から降りた。
そして王女様はオレ達を申し訳なさそうに見て、そのまま王城に入っていった。
オレ達もそれに続いて王城に入っていこうとしたが、兵士に引き止められた。
「おい、どうしたんだよ? そこをどいてくれ」
「貴様は罪人だろ? 王城に入れるわけがないだろうが」
罪人?
「オレ達はこの王都に始めてきたんだぞ?」
「惚けるな! お前たちはこの王都に住んでいる貴族の屋敷に夜な夜な侵入し、盗みを働いたと聞いている」
「誤解ですよ! 私達はそんなことしてません!」
「そうだ! オレ達が一度でも盗みを働こうとしたことがあるわけがないだろ! そんな光景を見たら直ぐにオレが……止め……」
言いながらふとオレの頭の中には世紀末戦士達の顔を思い浮かべる。
貴族の家に大人数で侵入しようとしていた世紀末戦士達を……。
「……どうしたんですかお兄ちゃん! まさか、思い当たる節でもあったんですか? アンリィさんどうしましょう、どうか私達の無実を……アンリィさん!?」
アンリィは何故か明後日(あさって)の方向を向いていた。
「じょ、冗談ですよね二人とも?」
「あぁ、オレは盗みの現場を見たことや、やらされそうになったことはあるが、実際にやったことはないぞ!」
「なんで今そんなこと言っちゃうんですか!?」
「よし、こっちだ、全員着いてこい!」
──薄暗い謎の洞窟の中。
あれからどれくらい歩いたのだろうか、そんなことはもう分からない。
もうあたりはすっかり夜になっていた。
そんななか、唯一のあかりは前後にいる王都の兵士が持っているろうそくだけ。
暗い、非常に暗い。電気があった前世が愛おしいと思えてくる。
「──ここだ」
王都の兵士がそう言うと、オレ達は牢の中に案内される。
今ここでかなり強そうなこの兵士を倒してもいいのだが、それではオレ達は本当に犯罪者になってしまう。
それに万が一サエが傷つくようなことにならないとは言いきれない。
──オレ達は仕方なく兵士の命令に従って、そのまま牢屋の中に入る。
「裁判は至急行われることになるだろう、まぁ貴族の家に盗みに入ったんだから、死刑は確実だろうがな」
「それはオレ達が本当に犯罪者だったらの話だろう?」
「そうだな、だがお前たち二人の特徴はケルベルト隊長の報告通り、目立つ要素のない若者に、やけに仲の良さそうなその妹、これはお前達に違いないだろう?」
「おい、待った! オレはその目立つ要素のない若者ってだけでここに連れてこられたのか!? オレの何処が目立たないって言うんだよ!」
「自覚がなかったのねヒラガ……」
「アンリィさん!?」
激昂するヒラガとはよそにサエは何故か照れている。
「やけに仲の良さそうな妹ですかぁ……えへへ……」
「まぁ、ケルベルト隊長が見れば直ぐに終わる裁判だ。早く死なせて貰えるように頑張るんだな」
そう言って王都の兵士はこの洞窟をでていった。
──兵士が出ていくと、あかりがなくなり辺りは真っ暗になり、本当に何も見えなくなった。
「あ、あのお兄ちゃん、今気がついたんですけど、ここ、すごく気味が悪くないですか? なんかカサカサ聞こえる気がするんですけど……」
「た、確かに聞こえなくもないな……お、おい、オレにしがみついても意味ないぞ!」
「ヒラガ、お願い! このカサカサ聞こえる原因を倒して!」
……いやいや、黒くて速いあいつがこんな暗闇の中で見えるわけないじゃん。
「お兄ちゃん、お願いします! ひぃっ、今、何かが当たりました!」
「サエ、今のは私よ大丈夫、それよりもこの音をなんとかしてくれない? とても気味が悪いのだけれど」
「わ、私に言わないでくださいよ! 大魔道士なら、何とかしてくださいよ!」
「無茶なこと言わないでくれ、私は持ち前の氷魔法を極めただけなのよ! ていうか今バサバサ聞こえない?」
「──おい! お前ら今オレのこ、こ、股間に触ったりとかしたか?」
「「さわってない」」
てことは今股間に当たったものって……。
そうこう考えているうちに、オレの顔の方にバサバサという音が近づいて……。
「ぎゃあああああ!」
「「きゃああああ!」」
「──まったく……あなた達は本当に騒がしいわね?」
そう言ってクスリと笑い、灯りを照らしてくれたのは、どこかのお嬢様と言うにふさわしい姿をしていたリッカだった。
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