第22話 王都へ②魔王軍幹部いずパワフル?

 「──おい、まずいぞ、馬よりあの岩の方が圧倒的に速いじゃないか! もっと早く走れないのかこの馬は!」

 「うるせぇ! アンリィさんの連れは引っ込んでろや! 馬も必死なんだ!」

 「は、はい、そうですよねごめんなさい……」

 「お兄ちゃん! 今はそんなこと言ってる場合じゃありませんよ! あの岩、すごく速いです」


 そうだ、どうすればいいんだよこの危機的状況……考えろ、考えるんだ鈴木平賀すずきひらが


 「そうだ、アンリィ! 魔法だ、氷魔法であの岩の足止めするんだ!」

 「わかったわ! 『マジック、クリエイ──』」

 「アンリィさん、もうすぐ後ろに!」

 

 ──ッッ!

 

 気づけばオレ達のすぐ後ろまで近づいてきていた謎の岩は、オレ達の馬車の後ろから激突した。


 オレは一瞬宙を舞ったと思ったら、地面に叩きつけられていた。

 だがオレはまだ意識がある……まだ死んでない……。

 そしてオレの真横にカシラ頭もオレと同じように地面に叩きつけられ、その上にサエとアンリィも降ってきた。


 サエとアンリィは無事のようだが、カシラ頭は既に白目を向いて泡を吹いて気絶していた。


 「お兄ちゃん、大丈夫ですか!」

 「ヒラガさん、しっかり!」


 「あ、ああ、なんとかな……」


 意識はあるが体を起こすことができない。

 アニメとかで地面や壁に叩きつけられているシーンとかをよく見るが、これは痛いってものじゃない。

 ただオレが貧弱な体だからとかじゃないと思う。

 本当に手足が動かない。


 「もしかして、立てないんですか!? 待っててください、私がいる限りお兄ちゃんをあの世には行かせません!」

 「サエ、オレ本当にもうダメなのかもな、まだ吐き気がするし、しかも身体中が痛い。……まぁいいや、オレ、先にあの世に行って女神様と遊んでくるよ」


 その言葉を聞いた瞬間、オレの視界に映っていたサエの真剣な表情は一切なくなり、少し怒り気味の表情になりった。


 「この後に及んで何をいってるんですか! もう、心配していたのに、女神様と遊ぶとかいってる場合じゃないですよ、ちょと黙っててください!」

 「え!? 女神様と遊ぶ?」

 「お兄ちゃん、あの世に行く前にそんな変な夢を見てるんですか。今治してあげますから大丈夫ですよ」


 アンリィに指摘され、明らかに誤魔化したように言い直したサエは両手をオレの方に向けて、なにやら呟き出し……。


 「『マジック、ヒールリング』ッッ!」


 そうサエが魔法の詠唱をした途端、オレの下に魔法陣が出現し、オレは徐々に痛みや吐き気が引いていく。


 「凄い、全然痛くない、さっきのが夢だったみたいに!」

 「そうですか、なら良かったです。でもこれからは先にあの世に行くとか女神様と遊ぶとか言わないでくださいね……私がいるんですから……」


 最後なにか言っているように口をモゾモゾしていたが、なんて言ったのか聞こえなかった。



 「──み、みんな、もう大丈夫か! ……こいつすごい力だ……」


 アンリィはいつの間にか少し離れた所で剣を抜き、謎の手と足を生やした岩のモンスターと戦っていた。


 「ほぅ、少しはやるようだな……俺は魔王軍幹部、ロックゴーレムのガラン、ロックゴーレムのガランだ、いいか? ロックゴーレムの──」

 「うるさい、自己紹介などどうでもいい!」

 「なんだと!? オレは魔王軍幹部の──」

 「まだ言うか!」


 おいおい、なんだあいつ! あの不思議な岩、やっぱり何かのモンスターだったのか。


 ……てか今魔王軍幹部とか言ってなかったか?

 それってかなり不味いのではないか?


 「ほぅ、それにしてもなかなかやるなお前、だが今に俺の本気の力を見せてやる…………あれ、動かん、……お前なんて力してんだ? なぜ微動たりともしないんだ!?」

 「ふふふ、なぜだと? この私を甘く見てもらっては困る!」


 そう言ってアンリィは全力で力を入れる。

 だがアンリィとロックゴーレムのガランとか言うやつは衝突して引くことも押すこともなかった。


 「…………な、なんて力なのだ貴様! なぜ動かない!」

 「…………それはこっちのセリフだ、なぜ動かない!」


 こいつら、なにやってんの?

 アンリィはもはや剣を捨てて、両手を使い、ロックゴーレムのガランと張り合っていた。

 はたから見るとあれは今、プロレスの真っ最中にしか見えない。

 二人はしばらく全力で両手を握り合いいがみ合う。

 だが勝敗は決まらない。


 「サエ、追い討ちだ! 今しかない!」

 「わ、分かりました。私に任せてください、『マジック、クリエイティブウォーター』ッッ!」


 サエの放った水魔法は勢いよくロックゴーレムに直撃し、手を握りあっていたアンリィすらも、その勢いで吹き飛んだ。


 「──げほっ! げほっ! み、水が鼻の中に……」

 「アンリィさん、ごめんなさい!」

 「だ、大丈夫大丈夫!」


 ……どうやらアンリィは無事のようだ。

 そして、ロックゴーレムの方は……。


 「げほっ! げほっ! げほっ! はぁ……はぁ……。やっぱり、やっぱりお前だったのか……」


 明らかに衰退していた。

 確かこのロックゴーレムは魔王軍幹部とか言っていた。その魔王軍幹部が今、衰弱している。

 もしかして、これはいけるんじゃないのか?

 こいつを倒して異世界での夢の生活とかが始まるのではないか?


 「いつも、いつも……オレに向かって氷魔法やら炎魔法やら、昨日には水魔法まで打ちやがって! 燃やして凍らせて燃やして凍らせて燃やして凍らせて燃やして凍らせて────俺は魔法の練習用のオモチャじゃないんだよ!」


 勢いよく追ってきたのは、やっぱりそのことでしたか……。


 「オレの気持ちのいい睡眠時間だったんだよ! なんでみんなオレ目掛けて魔法放つんだよ! 岩ならどこにでもあるだろ! なんで俺なんだよ! おかしいだろ!」


 「そ、それは災難でしたね……」

 「やったのお前らだろ! 同情なんていらないからな! それに、あの場所には立ち入り禁止の看板まで立てといたんだぞ、なんでそれが見えない!」


 かなり怒ってるな……てかそんなのあったっけ……。


 「看板は私が破壊しました……ごめんなさい……」


 ──お前か…………。


 「やはりお前なんだな! 全ての元凶はお前だ! もう許さん! 魔王様に教えて貰った究極奥義、自爆をお見舞してくれる」

 「なんだと!?」


 その言葉を聞いて、今まで倒れ込んで体力の回復を待っていた世紀末戦士達が一斉に逃げていった。


 「人が多くいる所で、私は爆弾ですと唱えるなさいというこの教え、今こそ使っ──ッッ!?」


 それって、町の人を巻き込んで捨て駒になれと命令されたんじゃ……。

 ん? なんだかガランとかいう不思議な岩、膨らんできてないか?

 そういえば……。


 「……今、自爆魔法を発動させやがったぞ! みんな逃げろ!」

 「ふふ、ふはははは。もう遅い! 恐怖に満ちた顔で逃げていくその姿、俺が待ち望んでいたこの光景。魔王様、深く感謝致します。我が名はロックゴーレムのガラン! ロックゴーレムのガラン! ロックゴーレムの──」


 ロックゴーレムのガランは最初とは比べ物にならないくらいに、風船のようにどんどん大きくなっていく。

 これは流石にまずいかもしれない。


 「ふふふふふふふははははは! ロックゴーレムのガラン! ロックゴーレムのガラン! ロックゴーレムの──」

 「そうだ、もっと俺の名前を、俺の名前を……」


 気づけば、カシラ頭がロックゴーレムのガランとコールをしていた。

 ついに頭がおかしくなってしまったのだろうか。

 それに反応してガランのテンションが高くなってきている。


 「うるさい! 『マジック、クリエイティブアイス』ッッ!」

 「『マジック、クリエイティブウォーター』ッッ!」

 「ガラン! ガラン! ガラン! ガラ──ッッ!?」

 「ふはははは、は? ──ッッ!?」


 アンリィの氷魔法とサエの水魔法によって、カシラ頭とガランは氷漬けにされた。


 「──よ、よくやったな二人とも……カシラ頭は助けとけよ……」


 ──その後、オレ達は凍ったカシラ頭を助けて残りの馬車を使い、再び王都に向かった。

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