第21話 王都へ①お嬢様を迎えに行こう!

 ──リッカが王都に帰ってから十日が経った。


 それはオレが内心寂しくなり、手紙くらいくれてもいいのにとか思っていた頃だった。


 今オレ達は冒険者ギルドでクエストを探していた。

 ここ最近クエストなんかやってなかったのでお金ももう少しで底をつきそうだった。


 そしてサエがいつものように──。


 「──お兄ちゃん、これなんかどうで──」

 「──サエ、アンリィ」

 「はい、どうしたんですか?」


 「……王都に行こう!」


 「「……ええ!?」」

 

 急に王都に行くとか言い出したオレのわがままにサエとアンリィは協力してくれ、王都に行くための竜車を貸してくれるように頼みに行ってくれた。

 サエとアンリィがただ優しいというのもあるが、多分二人もリッカに会いたいのだろう。


 オレは町で今あるお金を全て使って食べ物を用意した。

 王都で泊まる時はまたアンリィにお金を借りることになるが、またいつかクエストをクリアして返すことにした。

 こういう時にはアンリィには世話になってると思う。

 次お金返す時は少し多めに返してやろう。

 

 そんなことを考えながら、オレは二人との待ち合わせ場所に来ていた。


 待ち合わせ場所にはいつもサエに抱かれているメタルスライムのベムが先に待っていた。


 「ヒラガ、王都は遠いぞ。本当に行くのか?」

 「今更何言ってるんだ? オレが行くって決めたんだし、行かないわけないだろ? ていうかベムってやたらと色々なことに詳しいよな」

 「俺はメタルスライムだぞ? そうだ、メタルスライムの出現率が低い理由は分かるか?」


 突然何を言い出したのか分からないが、オレは今までやってきたRPGゲーム感覚で答える。


 「数が少ないからじゃないのか?」

 「違う! 俺たちだって数は通常モンスターと変わらない。俺たちは倒すとかなりの経験値になるらしい、だから俺たちは日々人間に見つからないように必死に生活しているのさ」


 言われてみるとわかる気がする。

 経験値が、多いせいで命を狙われるメタルスライムも必死なんだな。

 今考えてみれば経験値が多いモンスターを倒しまくるのは相手からしたらかなり悲惨な話だ。


 「──それで、なんでベムは物知りなんだ?」

 「だから、盗み聞きってやつだよ。草の茂みに隠れてても得られる情報は多いんだ」


 なんだかオレも共感できるかもしれない。

 授業中に誰々と誰々が付き合ってるんだってぇ、みたいにヒソヒソと話しているのが隣の席だから聞こえてきたり、まぁそんな感じだろう。


 「まぁ、俺だからできることもあるんだけどな。こうやって人間と話せるとか」


 そういえば、ベムは前に気づいたら話せるようになっていたとか言っていたが、それって本当なのか?


 「ベム、なんでお前は──」

 「──お兄ちゃーん」


 オレがベムにその事を聞こうとした瞬間、リッカがオレの名を呼んで、手を振っていた。

 ──まぁいいか、また今度でも。


 「サエ、竜車はとれたのか?」

 「竜車ではないのですが、馬車ならとれましたよ! アンリィさんがバッチリと」


 一度竜車というのに乗ってみたかったのだが、わがままを言ってもしょうがないし、馬車をとってきてくれたサエとアンリィに感謝だ。


 「……そうか、ありがとうアンリィ」

 「ええ、私もリッカにはまた会いたいし、まだお別れも言ってないし」


 お別れ? 何を言ってるんだ?


 「さぁ、リッカを連れ戻しに行くぞ!」


 「「えっ!?」」


 

 ──しばらくすると、世紀末戦士のカシラ頭が馬車を運んできた。

 世紀末戦士を久しぶりに見た気がする、怖い顔にいつもの服装は健在のようだ。


 「──カレンさん、どうぞ使ってください」


 軽々しくカシラ頭がそう言って馬車の手綱をカレン、いやアンリィに渡した。


 「ええっ? バレてたのか?」

 「それは勿論、フードをとっただけじゃあ誰だってわかりますよ。町の皆だって多分……」

 「…………そんな。私、もう皆に顔を合わせれない……」


 カレンは町の危機を悪化させた人物として悪名らしいからな。まぁ自業自得だ。


 「そんなのはどうでもいいから早く行くぞ!」

 「どうでもいいわけがあるか! 私はもう皆と……」

 「アンリィにはオレ達がいるだろう? いいから行くぞ」


 そんなオレのちょっとだけ優しく、ちょっと変わった言葉にアンリィはクスリと笑い、一足先に馬車に乗ったオレに続いて馬車に乗った。


 馬車は中が四人乗り程の大きさになっており、二頭の馬がそれを引いている。


 「──あの、私馬車を引いたことなんてないのだけれど……」

 「す、すみませんカレンさん! 俺が王都まで馬車を引きますよ」

 「ええ、ありがとう。それと、これからは私のことをアンリィって呼んでくれない?」

 「わ、わかりました。アンリィさん! それと、馬車に護衛はいりませんか? 万が一のことがあるかもですし」


 あのカシラ頭を思うがままにできるなんて、アンリィは凄いな。


 「なら、お願いしよう」

 「はい、今呼んできます」

 

◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□


 「──馬車酔いは大丈夫ですか?」

 「ええ、大丈夫よ」

 「問題ないです!」

 「オレは色んな意味でもうダメかもしれない……」


 車にもバスにも飛行機にさえもオレは酔うからなのか、オレはどうやら馬車に弱いらしい。

 それと、この世紀末戦士の数のせいで変に緊張してしまう。

 まさかオレ達の馬車の護衛だけに二十台の馬車が同行するなんて、誰がわかるものか。

 やばい、吐き気がする……。


 「──よし、全員大丈夫だな。少し飛ばすぞ」


 オレの話聞こえてた? てか今の聞いた意味あった?


 「お前ら! 少し飛ばすぞ! 今日中に中間の休憩所まで行くんだ!」


 その声に世紀末戦士達は声を上げて馬の尻を叩く。

 その光景を見ていたアンリィが私も馬になりたい、とか訳のわからんことを言っていた気がしたが、オレはそれどころじゃない。


 「早い! ちょっと早い! オレもうダメかもしれない! 本当にダメかもしれない!」

 「さ、流石の私もお前の中のそれなんてかけられたくはないからな!?」

 「──お兄ちゃん、頑張って下さい。私は応援しています!」


 サエ……。

 オレは馬車の外に顔をやり……。

 

◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□


 「──『マジック、クリエイティブウォーター』ッッ!」


 サエの魔法で作った水がオレの口の中に入ってくる。


 「もう、お兄ちゃんったら。頑張ってと言った瞬間に……」

 「本当にすまない、でも今ので少しは楽になったよ」

 「そうですか。──あれ、なんだか外が騒がしくなってきていませんか?」


 そういえばさっきから世紀末戦士達がうるさい。何かあったのかもしれない。


 「──なんだあれは……。この馬車にはアンリィさんがいるんだ、近づくな! ぐわっ!」


 馬車酔いのせいでとても気分が良くないが、外を覗いてみる。


 すると、外には何かがこちらに向かってきているような砂埃がたっていた。

 世紀末戦士達の何人かはその砂埃に向かっていった。

 しかし、接近中の何かは勢いを止めることなくこちらに近づいてくる。


 そろそろ見えてくる頃だ。

 あれは……岩?

 こちらに勢いよく向かってきているのはたった一つのでかい岩だった。

 でもどこかで見たことがある気がする……。


 「あ、あの岩って……」

 「そうよね、やっぱりあれよね……」


 その岩は先日オレ達が魔法の練習に的として使っていた、不思議な岩だった。


 たまに声を上げたり、雄叫びをあげたり、そしてオレ達の前では悲鳴をあげたりもしたあの不思議な岩。


 その岩が何故かオレ達の方に勢いよくこちらに向かってきて、今も世紀末戦士達を吹き飛ばしている。

 いや、何故かではないのかもしれない。

 オレはこの岩がこちらに勢いよく向かってきている理由が何となくわかる。


 面白がって魔法の練習の的なんかにしたからだ。

 今思えばオレはなんであんな気味の悪い岩を的として使っていたサエとアンリィを止めなかったのだろう。

 だが起こってしまったことはしょうがない。

 

 ──やっぱり何かをやらかすのはオレの仲間達らしい。

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