第20話 これはただの魔法特訓じゃない!
──冒険者ギルドに向かう途中、オレは今後のことを考えていた。
リッカ、そろそろ王都に着いた頃かな?
リッカからの手紙はまだかな?
リッカからの……。
あれ? オレは気づいたらリッカのことしか頭になかったのか?
リッカとは一ヶ月間のバイト仲間であり、少しの時間の冒険者メンバーという関係だっただけ。
だがなぜかオレはリッカの事ばかり考えていた。
やっぱりオレから会いに行くべきなのだろうか?
でもまだ一日しか経ってないしな……。
そんなことを考えていたオレの脳内はアンリィの言葉によって破壊された。
「──付き合って貰ってもいい?」
え?
何今の言葉、もしかしてオレ、ついにモテ期なのか!?
じ、人生にモテ期は三回あるとか風のうわさで聞いたことはあったし、オレのモテ期まだかなぁとか思ってたけど、だ、だけどそんな急に!?
だが待て
そうだ、ここは冷静になって……。
「お願い!」
「……まぁ、いいんじゃないかな」
何言っちゃってるんだよオレ! しかも変に格好つけちゃったよ! どうしたオレ! オレは本当にチョロい男だったのか?
そんなことを思っているオレとはよそにアンリィはニコリと笑い。
「そう、なら私に着いてきて、今夜は寝かせないからね?」
こ、今夜は寝かせない!?
ちょっと積極的過ぎないかアンリィ。
いや、確かあの時セントに胸を押し付けていたような……。そうだ、アンリィは確かくそビッチだった気がする。
オレは今日、アンリィにくわれてしまうのだろうか……。
──オレ達が向かって来たのはとある森の中。
──まぁ、そんなことだろうとは思ってたよ!
「それでは、今日は一日、私の魔法練習に付き合って貰います!」
「おー!」
何故か乗り気なサエが返事をする中、オレは全く乗り気にはなれない。
「ここが私が使っているいつもの練習スポット。ここの岩はとても頑丈でもうたまらない」
オレは丸まり体操座りをして、その光景を一人つまらなそうにして見ている。
「あれ? 今日は特になにもないのね……いつもはでかくなったり燃えていたり、声をあげていたりするのに」
声?
「そうですよね、私も以前リッカさんと通っていたのですが、たまに凍っていたり、雄叫びをあげたり、なんだか変わった岩ですよね。アンリィさんもこの岩で修行していたんですね」
「雄叫び? てかいつ通ってたんだ?」
「たしかバイト終わりのすぐでしたね。リッカさんはいつもこの岩に炎魔法をぶつけて楽しんでいましたよ」
オレが雑用している時に、顔をだして手伝ってくれるのを一人待ってたのに、サエが来なかったのはそのせいか。
ていうか岩が燃えてたり凍ってたりするのはその二人のせいなんじゃあ……。
でも声を出すってどういう事だ? 近くに人でもいたのか?
「おい、サエ──」
「『マジック、クリエイティブアイス』ッッ!」
アンリィの氷魔法は、不思議な岩目掛けて放たれ、岩は一瞬で氷漬けになった。
流石は大魔道士で大剣豪。
だがこんな魔法が使えるのなら本当はオレ達がオークにやられかけることはなかっただろう。
このエルフはドMというところを除けば結構完璧だと思う。
「わ、私もやってみます! 見ててくださいお兄ちゃん!」
「おう、頑張れ!」
「『マジック、クリエイティブウォーター』ッッ!」
サエが少し恥じらいながら詠唱し、サエの放った水魔法は不意にオレの方に放たれ、オレはずぶ濡れになった。
「ご、ごめんなさい!」
「ああ、オレは大丈夫だよサエ」
「──最初は皆そんな感じさ、魔法の制御にはコツが必要なんだ。だがサエ、ヒラガに見事に命中させるとは凄いな。その、私もそのずぶ濡れプレイというのを体験してみたいのだが……」
「プレイ?」
純粋にサエは首を傾げて困った顔をする。
「アンリィ、サエに変なこと吹き込むな! サエ、今のはなんでもないんだ」
──それから少し時間が経ち昼をこした頃。
「サエ、結構上達してきたわね。もう方向とかは制御できるのではない?」
「『マジック、クリエイティブウォーター』ッッ!」
サエの放った魔法は今度こそオレではなく、不思議な岩に命中した。
「はい! アンリィさんが教えてくれたおかげです。もう一度やってみます!」
「そう、MP切れには気をつけるのよ」
──それからさらに時間が経ち、夕方になる頃。
「はぁはぁはぁ、そろそろMPがやばくなってきたわね……」
だがサエは一切疲れた様子を見せず、懸命に魔法の練習をしている。
「大魔道士の私が負けるわけにはいかないわよね」
それはサエの魔法の練習を数時間眺めていたオレは遂に昼寝をしていた頃だった。
「『マジック、クリエイティブアイス』ッッ!」
──それから何時間かしたあと、オレが目を覚ますとあたりはすっかり夜になっていた。あたりは少し冷えてきている時間帯だった。
「──お、おい、大丈夫か?」
魔法を使い続けたことでかなり疲れているようなアンリィに声をかける。
「だ、大丈夫よ、ははは……今夜はもうちょっとだけ……」
「その様子じゃあ無理があるだろ、ほら、もう宿屋に帰ってまた今度にしよう?」
「でも、私が負けるわけにはいかないじゃない?」
隣ではアンリィと同じ数の魔法を放ち、今も尚使い続けるサエの姿があった。
……そういえばアンリィはまだあのことを知らなかったな。
「『マジッ……ク、クリエイティブ……アイス……』……」
アンリィは魔法の詠唱をまた唱えたが、氷魔法が放たれることはなかった。
MPが遂に切れたのだろう。
「無念……」
そうとだけ言ってアンリィはバタッと倒れた。
「アンリィさん!? どうしたんですか、しっかりしてください!」
今も尚MPが有り余っていて元気なサエがアンリィの心配をする。
「まだ……そんなに元気なのか……」
「元気? ええ、それは……」
アンリィが可哀想だから辞めてあげて……。
「サエ、アンリィはおそらくMPが切れて疲れきっているんだ。サエに張り合ってずっと使ってたからな。もうアンリィもこんな状態だし、今日は帰ろう」
「ええ、長い間、付き合ってくれてありがとうございます。ですがあの、もう一発だけ打ってもいいですか?」
最後はドカーンとやりたい気分なのかな、しょうがない。
「ああ、でも一発打ったらもう帰るからな」
「はい!」
サエは嬉しそうな顔をして返事をし、岩に構えた。
やっぱり出来ないことができるようになると、誰でも嬉しくなるものだ。
「『マジック、クリエイティブウォーター』ッッ!」
サエの魔法は綺麗な水を精製し、見事に不思議な岩に当たった。
オレは妹の成長を嬉しく思う。
「サエ、おめ──」
『──ぎいぃゃゃゃやや!』
サエの魔法が放たれた数秒後、岩の方から声が聞こえてくる。それも、悲鳴のような声が……。
──オレ達はその悲鳴を聞いて驚き、顔を見合わせた後怖くなり、アンリィを抱えて咄嗟に町へ逃げた。
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