第18話 初めての経験
──お嬢様と呼んでこちらに一人の勇ましき男がこちらに歩いてくる。
それは
それは男がこちらの誰かをお嬢様と呼んだ時、リッカが酷く動揺しているので人違いではないことは直ぐにわかった。
「──やはり、お嬢様ではないですか。家出したと聞かされた時はとてもヒヤッとしましたが、無事で何よりです。ささ、みなが心配しています、早く帰りましょう」
いきなりそんなことを言い出す見ず知らずの男に対してオレはリッカを庇うようにして前に出る。
「あんた何者だ? リッカの知り合いなのか?」
そんな些細な言葉を言う。
「無礼者、そこを退け、お嬢様を呼び捨てにするとは! なんて汚らわしいんだ」
「なんだと! お前が誰だか知らないが、オレはリッカの仲間なんだし、呼び捨てで何がおかしい?」
オレがそう言うと勇ましき男は鼻で笑い、そのあと苦笑する。
「仲間? お嬢様とこの下民(げみん)が仲間だと、ふふっ、ふはははははは! 笑わせるのも大概にしてくれ、腹筋が痛いではないか」
……勝手に笑いだしたんじゃないか。
ていうかさっきからリッカのことをお嬢様お嬢様と呼んでいるこいつは一体何者なんだ? どう見てもひつじには見えないし……。
「おいあんた、さっきからリッカをお嬢様と呼んでいるが、あんたは一体何者なんだ?」
「下民に名乗る筋はないが、我の名をしらんとは無礼極まりない。仕方がないから教えてやろう、そして
……ああ、教えてくれるのね。
あとオレが跪くわけがないだろ。
「我が名はケルベルト。この国の第二王女・リッカお嬢様の直属の騎士長である」
へぇ、この国の第二王女の…………え?
「だだだだ、第二王女!? リッカが? あの残念メンバーのリッカが?」
オレが後ろにいるリッカに視線をやると、リッカは目を背けて下を向く。
もしかしてこれ本当なの? そろそろドッキリ大成功の看板持ってる人がでてきてもいい頃合だよ?
「お嬢様を残念扱いとはけしからん! 死罪だ、お前を今、死罪に処す!」
ケルベルトが放った物騒な言葉に反応してオレは即座に跪いてそのまま土下座をし、ごめんなさいと謝った。
「お兄ちゃん! こ、これはきっと嫌な夢ですよ。リッカさんが一国の王女だなんてリッカさんが言っている訳ではないですし……」
「ほぅ、女、お前も死にたいようだな。死刑だ」
「そんな!」
おいおい、理不尽にも程がないか。何でもかんでも死刑にするとかどうかしてるぞ。
いざと言う時はオレがサエを……。
「やめてくれませんか!」
今まで何かに怯えていたようなリッカが、普段オレ達の聞き慣れない敬語を使いだし話し始める。
「い、一応仲間としてこれまで数日の間だけでしたけれど、一緒に過ごしてきたので」
「ほう、お嬢様がわがままを言うとは……、これは失礼、本当にお嬢様の仲間だったのでしたか。先程のことはお嬢様に免じて許してやろう。お嬢様に感謝するんだな」
なんだか最後の別れの言葉みたいに聞こえてくるのは気のせいだろうか。
「お嬢様、ささ、竜車の用意は既に出来ています。お嬢様が見つからなかったら直ぐに町を出る予定でしたので」
「ええ、わかりましたわ」
そう言ってリッカはオレの前にでて、ケルベルトとかいう
オレはリッカを呼び止めようとするが。
「──私を呼び止めないでね。呼び止められたら私、帰りづらくなってしまうから」
そう言って涙をなが──。
「──行かないでくれ! 行かないでくれよ。リッカはオレの仲間なんだからさ」
これまで悲惨な毎日だったが、心のどこかでその日常もどこか悪くないと思っていたのだろう。
「も、もう、そういう所、ヒラガらしいわね。今までなんだかんだ言って楽しかったわ、ありがとう」
そう言いながら涙を拭い、そのまま涙目でニコリと笑った。
その笑顔はどこか寂しげで、見栄を張ったような笑顔。
──そのままリッカはケルベルトと共に歩いていった。
「──お兄ちゃん、いつまでもそんな顔をしていてはいけませんよ。リッカさんは一国の王女様なので、本当は色々と忙しい立場の人なのですから」
──なんだかんだギルドに帰ってきたオレは今、自分がどんな顔をしているのかわからないが、そんなにひどい顔をしているだろうか。
まぁ、確かにリッカはどっかの国の王女様で、本当はオレ達なんかと関わっていい人間ではなかったわけなのだが。
いつか助けて欲しいと手紙でも来たら王国に顔を出してやるか。
「──まぁ、それもそうだな。オレは気晴らしにでも一旦どこかの武具屋にでも行って来るとするよ」
オレは武器を未だ持ってはいない。
リッカが王国から助けてという手紙が来たとしても、リッカの助けになることが出来ないのなら意味がないし、まずは武器を買わなきゃだ。
そんなことを思っていると、ギルドの扉が開き、かなり上機嫌なカレン、いやアンリィがこちらに走ってきた。
「ヒラガさんヒラガさん。今、あなたは武器を欲していませんか? 仲間になった記念として、私がいい店を教えてあげよう!」
そう言って丁度いい話を持ってくるアンリィいや、カレン? やはりエルフは違うなと思う。
「そうだな、今丁度そんな話をしていたとこだ、前の店はとんでもない店だったからな。いい店を紹介してくれ」
「うんうん、それでは
「──あとさ」
「ん?」
「お前のことをこれからなんて呼んだらいい? アンリィか? それとも──」
「──アンリィでいいよ、アンリィで」
そう言ったあと、アンリィはオレの耳元で小声でカレンは結構評判良くないから、と。
それはアイススライム討伐戦のとき、この町の危機を悪化させた元凶だからな。
リッカがいなければ町はもう、……リッカがいなければ……。
寂しい人生を送ってきたオレにとって、友達が遠くに行ってしまうのは初めての経験だった。
──まだ何も知らないアンリィは上機嫌にギルドの扉を開けて出ていった。
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