第16話 大ピンチ、オーク討伐戦其の二!

 ──謎の臭さがオレ達を襲った直ぐに、オレ達はオーク四頭に囲まれていた。


 クエストの達成条件はオーク五頭の討伐。

 残りの討伐数は四頭。そして今見えているのが四頭。

 四頭同時に相手するのは普通かなり厳しいと思う。

 だが今は大魔道士で大剣豪のカレンがいる。

 ここは初心者のオレ達が出る膜ではない。カレンに任せるとしよう。


 「カレン、今こそ大魔道士で大剣豪の力を見せてくれ! ……カレン? おい、どうしたカレン?」

 「これが全てオスの……。あっ、いやすまない。ここは私に任せてもらおう!」


 なんだか集中を切らしていたようだが、今ならまだ問題はない。さぁ今こそ見せてくれ大魔道士で大剣豪!


 「『マジック、クリエイティブウォーター』ッッ!」


 カレンは渾身の力を込めて水魔法を唱えて水を作り出し、それをそのままオーク達にぶつけた。


 「ぐあぁ…………あれ? 俺生きてるぞ」

 「俺も生きてる。なんだったんだ今のは?」

 「ぐぅぐぅぐぐぐぅ」

 「……なんだかさっぱりした気分だ」


 あれ? 確かに水魔法はオークに直撃したはずだ。なぜ平然と立っていられるんだ?

 ていうか、さっきよりもオーク達がやる気になっている気がする。


 「あれではダメですよ。あれではただの、水浴びではないですか!」


 …………確かに。


 「カレン、違う魔法を使うんだ!」

 「『マジック、クリエイティブアイス』ッッ!」


 オレの合図に頷いて、カレンは氷魔法をオークに当てる。


 「やっ、やめてくれよ! 寒いだろうが、あれ? なんだか力が湧いてきたぞ」


 次はオークがなんだか嬉しそうにしてるんだけど。


 「おい、あんたなにやってんだ! オークは氷に強いんだよ! ましてオークは氷魔法を受けると筋肉が活性化して強くなるんだよ!」


 メタルスライムのベムが突然そんなことを言い出すが、もう遅い。どうやらオークの筋肉は活性化し、やる気に充ちているようだ。


 「見てみろよ俺の筋肉半端ないだろ?」

 「何言ってるんだ。オレの筋肉の方が十倍魅力的だ」

 「ぐぅぐぅぐぐぐぅぐぅ?」

 

 ……。

 

 「……ちっ、ちょっとトイレに行きたくなってきた。あとはみんなに任せるとしようかな」

 「おい、あんた何言ってるんだよ!」


 大魔道士で大剣豪が何言ってるんだよ!


 「仕方ないわね、ここは私が……」


 そう言ってリッカが弓を引いて矢を放つ。

 しかしリッカの放った矢は当たらなかった。

 いや、一応当たったのだが筋肉で弾き返された。


 「なんなのよあのオーク! 矢が効かないなんて反則よ! 反則!」


 リッカはあまりの理不尽さにオークに対して激昂し始めた。

 飛んできた矢を筋肉で弾くとか、確かに反則だ。

 そんなことを思っていたオレの横で顔を赤くしているカレンの姿。


 「も、もう我慢できない! いや、ここは私に任せてくれ。オークの筋肉を堪能、いや、オーク達を必ずや打ち倒してやる!」

 「ん? 何言ってるんだよ。おい、待て! 行くな! おい!」


 ……突然何を言い出したのかと思うと、カレンはそのままオーク達に突撃していった。

 そしてカレンはそのまま袋叩きに……。


 「こ、ここは私に任せて早く逃げるんだ!

 ああっ! でっ、できるだけ時間を稼いであそっ!……あげるから早く逃げて!」


 今、『あそっ』て聞こえた気がしたのはオレだけか?

 筋肉を堪能とかも聞こえた気がするのだけれど……。


 カレンってもしかしてダメなやつなのか? あった最初からとてつもなくダメオーラを放っていたが、オレの感は当たっていたのか?


 このままクエスト達成できるのか? ていうか、オレ達生きて帰れるのだろうか。

 そんな不安がオレを襲ってくる。

 隣を見るとサエもどことなく震えている気がする。


 オレがこんな気持ちでどうするんだ。

 鈴木平賀、自信を持つんだ。妹の助けになるのは兄としての役目だろう?


 「オレがカレンと時間を稼ぐから、サエとリッカは逃げてくれ!」

 「あ、あなた突然何言い出すのよ。いつもはとてつもなくヘタレで今にも逃げ出すというのに、本当にどうしたの?」

 「そ、そ、そうですよお兄ちゃん。それに私がお兄ちゃんを残して逃げれるわけがないじゃないですか」


 その言葉はなにげにオレの心に突き刺さるが、確かにオレはヘタレかもしれないけど。


 「オレがここで仲間を死なせる訳にはいかないだろ! 仲間はとても大事なものなんだよ、頼むから逃げてくれ!」

 「ヒラガ……」


 と、かっこいいことを言ってみたオレだが、本当は怖い。とてつもなく怖い。い、今にも足が震えそうになってるから、早く行ってくれ……。

 それにオレはもしかしたら復活できるから。


 「さぁお前たち、どっからでもかかってこいや!」


 どっか行って。頼むからどっか行って! 見逃してください神様、コスプーレ様。

 こっ、こっち向いてる。

 来ないで、来ないでえぇ。


 ……あれ?

 オーク達はオレを知らんぷりして通り越して行った。


 そして、標的はサエとリッカ。

 まずい、迂闊うかつだった。一応オレが時間を稼ぐつもりではあったが、オーク達はオレを無視してしまった。


 「逃げてくれ、サエ! リッカ!」


 ……あれ?

 オーク達はサエとリッカをも無視していった。

 どうなってるんだ? 神様コスプーレ様がオレ達に幸運でも分けてくれたのか?

 だがオレのその考えは一瞬で消し飛んだ。


 「つ、追加で二頭!? 凄い、凄いぞこの魔道具! 持っているだけで魔物が近寄って、ああっ!」

 「おい、今聞き流しちゃいけないことが聞こえた気がするぞ。なんてもの持ってきてるんだよ!」


 あの謎の臭いがした瞬間に囲まれていたので、何かおかしいとは思っていた。

 ……オレの仲間はどうしてこんなのばかりなんだよ。


 「あ、あの! たす、助けて! そろそろやばい。ちょっとやばい!」


 流石のカレンのこうも袋叩きにされていてはまずいか。自業自得だがしょうがないから手をかそう。


 「……トイレが」


 ……もう知らんほかっとこう。

 オレは後ろを振り向いてサエとリッカの方を叩いて帰ろうと言った。


 「待ってくれ! ほ、本当にまずい! これは本当にまずいぞ!」

 「おいおい、こんな美少女置いて逃げるのは流石に酷いんじゃないのか?」

 「そうですよベムさんの言う通りです。私は力になれないですが、助けてあげてください」


 こうも言われて帰るとサエとリッカにまた人でなしとか言われそうだし……。しょうがないか。

 そう思ってまた後ろを振り向いてカレンの方を見た。


 「──ッッ!?」


 するとオレの目にはとんでもないものが映されていた。

 それはフードとマスクを取られ必死にもがいているカレンの、いや。

 エルフ、アンリィの姿。


 「アンリィさん!?」

 「へっ? ……あれ? あっ……」


………………。


 「──話は後でするから! た、助けてぇ!」


 本当になんだか苦しそうな表情で言う。

 オレは咄嗟にカレンいや、アンリィからもらった剣を抜く。

 これ結構すごいやつなんだろうし、なんとかなるだろう。

 カレンいや、アンリィが四体のオークの注意を引いているのでオレの攻撃は確実に決まる。


 「ちょっと、ちょっとだけ待ってくれ!」


 四頭のオークに体を引きちぎられそうなカレンいや、アンリィが言い出した。


 「これも、悪くないかっ! もしれなっ! いっ!」


 荒い息をたてながら突然そんなことを言い出した。

 ……もう本当にほかっとこうかな。


 こいつはいわゆるドMというやつなのかもしれない。

 アンリィにそんなあれがあったなんて……。

 

 

 「──いや、それにしてもすごいなあの剣」


 振った瞬間にとてつもない斬撃が飛び、オーク達を一掃してしまい、そのまま壊れてしまった


 「え、ええ。それはエルフの国の秘宝『イッカイキーリー』よ」

 「今なんて?」

 「イッカイキーリーです」

 「それ本当に国の秘宝なんだよね?」

 「そうよ」


 国の秘宝のネーミングセンスがそのまますぎるのはさておき。


 「そ、それにしても驚いたよ。まさかカレンがアンリィだったとはな……」


 エルフと冒険するという一つの夢がかなってしまっていたわけだ。


 「ええ、あんな断り方をしたので、少し正体(しょうたい)を言い出せなくて……」


 そう、オレとサエは以前、パーティを組もうという話になって、自己紹介までしたのにオレ達が新米冒険者だと知った瞬間『ごめんなさい』といわれたのだ。

 ゲームとかでは強者は強者とやるものなので、よくある話なのかもしれないが、現実でやられると結構悲しかった。


 「それで、今回はどうするんだアンリィさん。またオレ達のパーティから抜けるのか?」

 「今回はパーティに残して欲しいの。こんなにも面白いパーティは初めてだから」


 そう言ってカレンいや、アンリィはニコリと笑った。

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