第14話 ちょっと変な仲間たち

 ──今、オレ達四人は冒険者ギルドに来ている。

 サエとリッカはいつもよりやる気に満ちているが、何もしてくれないことを祈ろう。

 なにかやらかすのがオチだ。

 カレンは相変わらず顔を隠そうとしているのか、頑丈で重そうな鎧の上にパーカーを付けマスクをしている。

 どんだけ顔を見られたくないんだと思う気持ちもあるが、まぁいいか。今回はそんなカレンがいる。大魔道士で大剣豪のカレンが。

 オレ達にとって、これ以上の戦力はない。

 リッカの放った炎魔法もなかなか高威力だが、あれはオレ達の命が危ないので使うのは禁止ということにしておいた。

 『私の唯一無二の炎魔法を使用禁止とはどういうこと!』と言って怒鳴り散らしていたが、これはしょうがないだろう。


 「──あの、これなんてどうですか? 巨大蟹の討伐っていう」


 昨日のスライム討伐戦以来、急に他の魔物達が大量発生したらしい。やはりスライムの力って膨大なんじゃないのか……。


 「オレはスライムじゃないならなんでもいいぞ。スライムは何をしてくるかわからないSランクの魔物だからな」

 「お兄ちゃん、スライムはEランクの魔物ですし、この世界にはAランクまでの魔物しかいませんよ?」

 「そういえばそうだったな」


 リッカがそんな些細(ささい)な会話に首を傾げている。


 「Sランク? ていうかこの世界って──」

 「──なっ、なんでもないぞ。こっちの話だ」

 「そ、そうです。すみませんこっちの話です」

 「そ、そう……」


 リッカは納得いかないような返事をして考えた顔をする。

 うっかりいつものゲーム感覚でSランクとか、まずいことを言ってしまった。これからは気をつけなければな。


 「──あ、あのぅ。私はもう少し敵が沢山いるようなクエストがいいのだけれど……」


 申し訳なさそうな顔をしながらカレンが自分の意見を言った。

 ……カレンは大魔道士で大剣豪だし、もっとレベルの高いクエストが良かったのかな。


 「なら、これなんてどうだ? オークの──」

 「嫌よ!」


 オレのクエスト説明はまだ終わっていないのに、リッカが即答する。


 「……どうしたんだ? リッカはオークにトラウマでもあるのか?」


 それともツンデレ発動中で全てのクエストを猛反対するつもりなのだろうか。


 「いい? オークっていうのはね、ただの魔物じゃないのよ。……女の子を見た瞬間、その子を死ぬまで追いかけ回す獣なのよ!」

 「行こう!」


 ……。


 カレンが突然声を上げた。

 どこがカレンの琴線に触れたのかは全く分からないが、大魔道士で大剣豪のカレンが行きたいと言いだした。

 そして、謎の沈黙が始まった。


 「──かっ、カレンが行きたいらしいが、みんなはどうだ?」

 「私の話を聞いてたの? 私は絶対に無理だからね!」

 「あの、私は行ってもいいかなって思います」

 「ちょ、サエそれ本気!? あなた、それはもう自分の身を投げ出す覚悟があるって言っているようなものよ」


 リッカが声をだんだん小さくしながら顔を赤くしていく。

 それに影響されたのかサエまでも顔を赤くしながら。


 「わ、わ、わ、私はそんな覚悟ないですよ! た、た、た、だだ、カレンさんにお金を借りっぱなしなのは良くないと思って──」

 「そ、そ、そうよね。サエがそんな覚悟があるとは思えないし……」


 こいつらは一体なんの話しをしているんだ。なんだかオレまで恥ずかしくなってくるじゃないか。


 「それで、みんなは行くようだが、リッカは行きたいか?」

 「そ、そうね……私も借りを作るのはあまり好きではないし、言ってあげてもいいわよ」

 「オレは行きたいかどうかを聞いたんだぞ、はっきり答えてくれよ」


 オレはツンデレはあまり好きじゃない。こんな反応をされるとオレはからかいたくなる。

 リッカはオレの反応に思はず驚いたあと、耳まで赤くして……。


 「──たいです」


 異世界っていいな。こんなに典型的なツンデレは見たことがない。


 「……なんていった? もう少し大きな声で言ってくれ」


 オレはからかいながら、聞こえている言葉が分かりかねているにも聞いてみる。


 「──行きたいです!」

 「そうか、わかった。早速行こうか」


 そう言いながらオレはクエストボートに貼られている紙を一枚剥がし、受付娘の所に持っていった。


 「ていうか、なんで私、ヒラガにお願いを……」


 悔しそうなリッカを見て、オレはクスリと笑った。

 そんなオレを受付娘が引き気味にオレの顔を見て。


 「うわ、変態がなぜか笑っています。警察を呼びますよ?」

 「卑猥なことはないぞ! ていうかなぜオレに対してそんなにも辛口なんだよ!」

 「なぜって……以前、あんなことをしようとしたではないですか! まさか、あんなことをしようとしたのに忘れているんですかこの変態は!」

 「あんなこととはなんだ! おいカレン、そんな目で見ないでくれ。これは誤解だ!」

 「誤解な訳がないでしょうが! そこのスライムで私の服を……」

 「違う! 違うんだ。本当に誤解なんだ! 信じてくれカレン……!」


 そんなオレと受付娘のやり取りを見て、カレンはクスリと笑う。


 「……ヒラガさん、こんなに賑やかなパーティに入れてくれてありがとうございます。あらためてよろしくお願いしますね」

 「あ、ああ。よろしくな」


 よくわからないがカレンが喜んでいるのならそれでいいか。


 「ただこの人が変態なだけですからね? 本当に注意してくださいね!」


 ……。


 この受付娘、本当に失礼だな……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る