第13話 ダメなやつはいらない!
突然の事で言葉も出ないオレの前にカレンという少女はまた話し始める。
「あの、私、リッカさんの凄い魔法を見て、いや、くらって。その熱さに感動してしまいました! 是非私をパーティに──」
「──却下します!」
「お兄ちゃん!?」
確かにリッカの魔法は凄かった。
実はオレはあの魔法をくらって意識を持っていかれてしまい、あとのことはほとんどわからなかったが、カレンはその熱さに感動してしまいました、と言ったのだ。
ということはカレンはあの魔法をくらっても意識があり、あの魔法に感動していた事になる。
かなりタフだ。
だがカレンは先程こんなことを言っていた気がする。
『敵は強くてなんぼなのよ! 敵が強いってことは……私はとても燃えるのよ!』と。
なんだかこれはかなり怪しい。
とてつもなくダメオーラを感じる。
「私はこう見えても大魔道士の称号と、大剣豪の称号を持っているのよ。パーティの戦力にはなるだろうし……」
「却下します」
「「「え!?」」」
オレの即答にサエとリッカ、カレンまでもが驚く。
実は世紀末戦士たちと関わりたくないだけなんだけどな……。
「オレ達は今、お金がないんだよ。カレンに迷惑はかけられない。それにカレンには世紀末戦士をまとめる大事な仕事があるだろうし」
「世紀末戦士と言うのは……あぁ、あの人達の事ね。私にはあまり関わりがない人達だし、それに迷惑ではないわ! 私が数日はお金を払ってもいいし」
「え!? 関わりないの? じゃあなんでカレンさんなんて呼ばれて親しげにしてたの?」
オレが無意識にタメ口になっている事など気にせずにカレンはそれに答える。
「私が少し、彼らに恩を売っただけなのよ。なのに、あの人達私の行く先々にいて……」
ストーキングでもされているのだろうか? 詳しく聞いてやりたいところだが今はそれどころではない。
彼女からとてつもないダメオーラを感じるのだ。これは絶対に阻止しなければ……ん? 待てよ。さっきお金貸してくれるとか大魔道士で大剣豪とか言ってなかったか?
この人もしかしてダメじゃない人なのかもしれない。
それに世紀末戦士たちとの関わりがないらしい……。
「……オレは鈴木平賀。よろしくな」
「「「え?」」」
急展開に追いつけていないのか、三人がまたもや驚く。
「みんな揃ってどうしたんだ? 今は自己紹介の時間だぞ」
「私はサエと言いまして、お兄、鈴木平賀の妹です」
「私は──」
「リッカさんね。これからよろしく。……それと、その、サエさんが抱いているのはメタルスライムの人形? とても人形には見えないのだけれど……」
「ベムは本物のメタルスライムですよ。人見知りなのか、町に入ると話さなくなるんですが」
「本物!? それはまた凄いわね……。このパーティーに入れて嬉しいわ」
オレ達は戸惑いながらも軽く自己紹介をし始めた。
■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇
「──それで、どういうことなのヒラガ? なんで急に態度を変えたの? 私達今お金がないのよ」
「リッカ、聞いてなかったのか? お金のことはカレンが何とかしてくれるし、大魔道士で大剣豪なんだぞ? 採用しないわけないだろ」
「そういうことね……。だから宿屋に……。上手い話にはすぐに乗るのはヒラガの悪い癖よ」
オレ達は今、宿屋に来ている。
この宿屋は一階が食事スペース。二階がベッドルームになっている。
今日はもう疲れたし、今から料理を食べたてから、宿屋に泊まるつもりだ。
お金はカレンが出してくれるようになっている。
お金はオレがお金持ちになったらしっかりと返すつもりだ。
「私、できるだけ頑張るので、心配しないでね?」
「心配なんてしてませんよ。むしろ勉強にさせていただきます!」
──そんな話をしている中、頼んでいた料理が届く。
「オーク肉とイチゴスライムです」
そして目の前に四人分の料理が出される。
オーク肉は見た目としてはかなりボリュームがある。そしてイチゴスライムはかなり小さく、とても甘そうだ。
この世界ではスライムなどの魔物を食べる風習があるらしい。
まずはオーク肉から恐る恐る一口食べてみる。
「「美味しい!」」
オーク肉を口に運んだ瞬間、オレとサエが同時に思わず声をあげる。
「私、こんなに美味しい肉は食べたことがありませんよ」
「あぁ、本当だ。これはいける。いけるぞ」
そう言ってオレとサエはバクバクとオーク肉をどんどん口に入れる。
「ごちそうさま!」
カレンがあのボリュームをもう食べ終えたようだ。流石は大魔道士で大剣豪。
そういえば、この料理の美味さに夢中になって、カレンの顔を見るのをすっかり忘れていた。もう仲間にもなったというのに、未だに素顔が見れない。
……まあ、焦ることはないか。仲間なんだし。
いや、それにしても本当にうまい。リッカもとても美味しそうに食べている。
そしてオレは次にとても甘そうなイチゴスライムを口に運ぼうとする。
イチゴスライムと言うくらいだから、イチゴの甘い味がするのだろう。そう思って口に運んだ。
サエも同じくイチゴスライムを口に運んだ。
「──ッ!?」
その瞬間、オレの舌に激痛が走る。
そして今まで美味しく頂いていたオーク肉の味をかき消していく。
オレとサエは体中から汗が出てくる。
……からいからいからいからいからい。
そしてオレとサエは火を吹いた。それも現実的に火を吹いた。
オレとサエが吹いた火は宿屋の天井に燃え移る。
「『マジック、クリエイティブウォーター』ッッ!」
だがなんとかカレンが火をすぐさま消してくれた。そして、オレとサエの口の中にも水を流し込んだ。
「────。……あ、ありがとうカレン」
「────。……ありがとうございます」
「え、ええ。これくらい容易いことよ」
頼りになるな……流石は大魔道士だ。
それにしてもなんだったんだあのイチゴスライムの辛さは……。リアルで火を吹いた時、オレ本当に死んだと思った。
やっぱりスライムはろくなことがない。
そんな中リッカは腹を抱えて大笑いしている。
「──それにしてもあんた達本当にバカね。イチゴスライムは一度水に付けてから食べるのよ」
「それを早く言ってくれよ……」
「これくらい常識よ。あなた達本当に常識知らずね」
オレ達はこの世界に来てまもないんだよ! なんてことはさすがに言えないのでここは一つ学習したということでいいや。
大笑いされて恥ずかしそうにしているサエのためにも、リッカにはいつか仕返しにもイチゴスライムをそのまま食べさせてやろう。
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