第12話 メイド覚醒!?

 「おい、お前ら! そんなとこでへばってていいのか!」


 戦意を失った冒険者達に向かって、オレは突然大声を挙げる。


 「町を守るのが冒険者の仕事だろ!」


 妹を守ってくれればそれでいいが。


 「それにオレ達が力を合わせれば、守れない町はない!」


 自分で言ってて寒い。とても恥ずかしい。

 でもこれで皆がやる気になるのなら……。サエが助かるというのなら。


 「そんな寒いこと言ってんじゃねーぞガキ!」

 「そうだ。こっちは本当にピンチなんだぞ! ガキは帰れ!」

 「そうだそうだ──」


 あれ? なんか違う。

 痛い。痛い。ものを投げるのはやめて。

 オレ、もう泣いていい?

 そんなことを思うなか、とある女性が声を上げる。


 「待って!」


 そしてオレを庇うように前に立つ。

 その女性とはカレンだった。

 今日のカレンもフードコートにマスクをしていて、顔はほとんど見えないが、その姿はとてもたくましく見えた。


 「彼の言ったことは事実よ。このまま戦意を失ったままだと皆やられてしまうかもしれない! だけど。皆が力を合わせれば、町を救うことはできる! 私が保証しよう」


 そんなことを一切の恥じらいもなく言い切る。


 「カレンさん……」

 「カレンさんが言うんだ間違いねぇよ!」

 「そうだそうだ!」


 そんな彼女に多くの者は賛同する。

 オレと彼女の違いは何なのだろう……。

 知名度か? 歳か? 歳はあまり変わらないか……。にしても説得力があるって凄いな。


 「あの子達を助けるぞー!」


 最後にそんな声を上げて先頭を切って魔物の大群に突撃していった。

 ろくに剣も持ってないオレはこれに続くことはなく、皆の姿を眺めていた。

 ──そして。


 「お兄ちゃん、すみませんこんなことになってしまって……」

 「私とした事が、不覚だったわ」

 「大丈夫だ。それにあの人達ならなんとかしてくれるだろう」


 サエとリッカは無事にオレの所まで戻ってこれた。これもカレン達の活躍のお陰だ。


 「お兄ちゃんは戦わないんですか?」

 「オレは武器がもうないからな、戦いたくても戦えないんだよ」

 「そんなこと言って、どうせ戦いたいなんて一瞬たりとも思ってないんでしょう?」


 ……。


 そんな言い合いの中、オレは少し遠くで起こっていることに驚き、目を見開く。


 「どうしたのよ、そんな顔をし……て……」


 リッカも今起こっている状況に気づき、言葉を失う。

 接近していた魔物達、アイススライム達が先程よりも大きくなってこちらに向かってきていた。


 「お兄ちゃん、これはどういう事ですか!」

 「そ、そんなの知るか! さっさと逃げるぞ!」


 ろくに戦えないオレ達に『戦う』という選択肢はハナからないのだ。

 遠くではカレン達が暴れているはずなのにどうして……。


 「カレンやめろ! やめるんだ! ア、アイススライムに氷魔法をぶつけてどうするんだ! ほら今にもアイススライムが大きく……」


 遠くで必死に叫んでいるセントの声がこちらにまで聞こえてきた。


 「黙れ! カレンさんには何か考えがあるんだよ。そ、そうですよね?」


 どこか不安げにカシラ頭がカレンを庇っている。

 先程あんなことを言っておいて、ただアイススライムを大きくしているのか?

 それってただの戦犯じゃないか?


 「いい? 敵は強くてなんぼなのよ! 敵が強いってことは……私はとても燃えるのよ!」

 「おい、何言ってんだこの人! 誰か、この馬鹿ばかを止めてくれ!」


 言い合っているうちにカレンが氷魔法を使い続けて、アイススライムがどんどん大きくなっていく……。


 「カシラ頭! 俺達じゃあもう手に負えません!」

 「えー? 嘘だろ!」

 「ほら、言わんこっちゃない! 誰か! 炎魔法を使えるものはいるか!」


 カシラ頭もセントもお手上げのようだ。これは本当にまずいことになった。


 「──おい、サエ、リッカ早く逃げ……リッカ?」


 魔物達に背を向けて早く逃げようとしたオレの服の袖をリッカが引っ張る。

 今にも腕のいい冒険者達が巨大化した魔物達に吹っ飛ばされているというのにリッカはどうしたのだろう。


 「リッカ、どうしたんだ? 早く逃げないと皆……リッカ?」

 「サエ、その杖を少し貸してちょうだい」

 「え、ええ。それは構いませんが……」


 こいつはいきなり何をするつもりなんだ。

 残念なリッカが突然最強の魔法使いに目覚めるとか、そういう展開なのか?


 「こういう時は、私に任せてもらおう!」


 突然そんなことを声を張っていいだした。

 そしてサエから杖を受け取り、オレ達から少し距離を置いて、手を魔物達の方向に向けてアニメに出てくるような詠唱のようなものを唱え始める。

 おいおい、本当に目覚めちゃったのか? 残念なリッカが本当に魔法を? それはそれでとても嬉しいことだ……。

 じゃなくて、オレ達はもう今から放たれるだろうリッカの魔法に頼ることしか出来ないのだ。


 「なぁリッカ、今だけリッカのことが輝いて見えるぞ。頼んだぞ、リッカ」


 そんなことを言ってオレはすぐさま町の門に走っていった。


 「お兄ちゃん!?」


 リッカに頼ることしか出来ない。……それはつまり死を意味する。うん、さっさと逃げよう。


「サエ、お前も早くこっちにこい」

 「えっ?」


 そんなオレの声が聞こえてサエは戸惑う。


 「……ヒラガのやつ……。あいつどんだけ私に信用ないのよ。いいわ、見返してやるんだから! 見てなさいよ! 日々、森の奥の氷山目掛けて練習していた私の魔法を!」

 

 「『マジック、ブレイジングボール』ッッ!」

 

 「おい! やめろその魔法は──」


 と誰かの声が聞こえた瞬間、辺り一面が光りだし。


 「なんだあれは! 炎が、でかい炎が近づいて──ッ!」

 「──ッ!」

 「──ッ!」


 ……。


 リッカの炎はアイススライムを飲み込んでいき、アイススライムと戦っていた他の冒険者も炎の巻き添えになってしまった。もちろんオレとサエも巻き添えになり……。


 「──誰か、回復魔法を……」

 


 ──黒焦げになったオレ達はスライム討伐戦後直ぐにギルドに呼び出しをくらった。

 リッカの活躍(?)もあり、アイススライムを多く討伐することができたオレ達に多額の賞金でもくれるのかなと期待していた。


 「それで、これが今回の報酬金額となります」


 そう言って冒険者ギルドの受付娘が渡してきたのは一枚の紙だった。


 『今回のご活躍おめでとうございます! 今回のご活躍でスズキヒラガ様のパーティに多額のお金が動くことになるでしょう。これからも頑張って下さい。期待しています。ギルド長』


 オレ達は紙に書かれていることを、声に出して読みながらテンションを上げていた。


 「リッカさん、凄いです!」

 「リッカ、今回だけはよくやったな。これでオレ達も金持ちの仲間入りかもしれないぞ」

 「今回だけはってのが少し痛むけれど、そうよ、少しは私を褒めてもいいんだからね?」


 そんなふうにオレ達だけで盛り上がっていると、受付娘が詳細を話し始める。


 「あの、盛り上がっているところすみませんが……」

 「何がすまないんだ! 盛り上がって何が悪い!」


 そんなことを言うオレに対して受付娘は気の毒そうに話し始める。


 「その、今回の報酬金額は百万金貨となります……そんなに喜ばないでくださいまだ続きがあります」


 まだ続きの報酬金があるのか。本当によくやったなリッカは。


 「ただし、今回の報酬金額から以下のものを差し引きます。数々の冒険者の慰謝料、さらに町の塀の破壊修理費、また……」

 「あ、あのそれで報酬金額の方は……」

 「ゼロです」


 え? ゼロ? 聞き違いか?


 「もう一度言ってください」

 「ゼロです」


 受付娘は即答した。

 オレにはそんな受付娘がどこか微笑んでいるように見える。

 本当によくやってくれたなリッカ……。

 オレは横に並んでいるリッカの顔を見ようとするが、リッカは顔を逸らして知らんぷりしている。

 

 ──疲れきったオレ達は冒険者ギルドの奥の机でぐったりとしていた。


 「リッカさん、こういう時もありますよ。次は気をつけましょうよ」


 やけに落ち込んでいたリッカをサエが慰めている。

 リッカも深く反省しているようだ。


 「それでリッカ、なんであんな派手な炎魔法を放ったんだ?」

 「そ、それは……」


 リッカは答えようとしないで黙り込む。

 言えない事情でもあるのだろうか。そう言えばオレはまだリッカのことを全然知らない。この際だし色々と聞いてみることにするか。


 「最初にオレ達とあった時のことを覚えてるか?」

 「……最初? ああ! あのセントさんと初めてあった時の少し前、男の大群に手を向けて叫んでた恥ずかしい人ね!」


 なんだかんだで最近オレの心が傷ついていくのは気のせいだろうか。


 「そ、そうかもしれん。その時なんで追われてたんだ? リッカはなにかに追われる性質でもあるのか?」 

 「そんなのないわよ! でも、それは秘密よ。時が来たら話すことにするわ」


 なんだ? よほど重要なことなのだろうか。魔法のことと言い、女子は秘密が多いのが普通なのか? なんだかんだでサエも秘密が多いし。

 そんなことを思っていた時だった。


 「あのぅ……」


 オレは背後から声をかけられ振り向いた。

 そこには先程のスライム討伐戦で大戦犯をかましたカレンの姿があった。


 「どうしたんですか?」


 と、オレが敬語で話す。この人は一様あの世紀末戦士のリーダーなのかもしれないのだ。

 下手にタメ口を使えば面倒なことになるかもしれない。

 そんなことを思っていたオレの心境は次のカレンの一言でパニックになった。


 「私を、パーティに入れてください!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る