第11話 スライム討伐はもう嫌だ!
「はくしょん!」
静かな夜にオレの声が響く。
暗い空に日が昇る。そしてあたりが照らされる。
そんな景色を眺めながら、オレは夜を越した。
異世界の夜明けはとても綺麗だ。サエにも見せてやりたい。
サエとリッカは今頃カシラ頭の家に泊めてもらっているのだろう。
オレは昨日、カシラ頭にあっち系だのこっち系だの言ってしまったので流石に泊めてもらう勇気はなかった。
この世界の夜は非常に寒い。
確かアイススライムが活発になっているからだったと思う。だから風邪をひいてしまった。
でもこんなに寒いのは今日で終わりだ。確か今日はスライム討伐戦の日だ。
もちろんオレは討伐に参加しない。
そもそも戦う道具なんて持ってないし、スライムと戦うとろくなことがないからだ。
頑張ってくれよ他の冒険者達。
そんな事を思いながらオレはギルドに向かった。そろそろギルドが開く時間だ。まだ少し寒いしギルトで休もう……。
──ギルドの扉を開けると、中には既に数人の冒険者達が集まっていた。
その中にはエルフのアンリィや女たらしのセント、他にもちらちらと見たことのあるような人がいる。
「おっ……、確か……。ヒラガも来たのか」
そんな中、セントがオレの名前を忘れていたかのように話しかけてきた。
……オレは覚えてるのに相手は名前を忘れてている。こんな事ってちょっと傷つくよな。
「平賀もアイススライム討伐に来るんだろ?」
「オレはアイススライムの討伐に出るつもりはないぞ」
「えっ!? ヒラガ出ないのか? 報酬も沢山出るのに。サエちゃんとリッカちゃんは朝イチに出ていったぞ」
「報酬が沢山か……ん? 今なんて言った?」
聞き捨てならないことが聞こえた気がしたんだが。
「だから、サエちゃんとリッカちゃんは朝イチに出て──」
「ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"」
「どうした?」
何やってるんだ。ろくに戦えもしないだろうに、朝イチに出ていった? おかしいだろ。
頭を抱えて倒れ込んだオレはそんなことを思う。
「お、おい。本当にどうした?」
ギルド内の視線がオレに集まっていたことに気づきオレは我に返る。
「──す、すまない。妹が心配になってな。気にしないでくれ」
「そ、そうか。ならいいんだ……」
『緊急避難警報! 緊急避難警報! ただいま町に大量の魔物が接近中。町の住民は速やかに避難して、冒険者の方々は接近中の魔物に備えて、至急町の門まで来てください! 繰り返します──』
「な、なんだこれ。おい、どうしたんだよ」
ギルド内がこの放送の影響で突然慌て出す。そんな中オレはいまいち状況が理解できない。
「放送の通りだ。この町に大量の魔物が接近中なんだよ」
「え、サエは大丈夫なのか?」
「そんなの、行ってみないとわからんぞ!」
突然のことにオレの頭はパニックに。
どうせ接近中の魔物はスライムなんだろうが、サエの状況が心配だ。オレは戦力にはなれないが、行くしかないだろ。
「ヒラガ、来るのか? 戦闘は厳しくなるぞ」
「妹がピンチなのに行かない訳がないだろ!」
「そういうところ、嫌いじゃないよ」
黙れ女たらし!
──オレ達は急いで町の門の所までやってきた。
セントやカシラ頭、他の世紀末戦士達、そのリーダーと思われるカレンも町の門に来ている。
町の英雄と言われるくらいなのだから、見た目通りの強さは保証できるだろうし、オレが死ぬ事はないだろう。
だがエルフのアンリィの姿がどこにもない。アンリィは結構な実力者なのだろうし、町の危機に駆けつけていると思っていた。
だがそれでも多分大丈夫だろうと思っていた時だった。
門の外から大量の砂埃を立てて何かがこちらに向かってくる。
あれが恐らく、今町に接近中の大量の魔物なのだろう。
オレは若干セントの後ろに隠れながら砂埃を眺めていると、ふとこんな声が聞こえてくる。
「──あそこ、なにか見えないか?」
「どこだよ?」
「ほら、砂埃の下の……」
……オレは砂埃をじっと眺めていると確かにそこには二人の人影が……。
「あれって、サエちゃんとリッカちゃんじゃないか? また前みたいに追われてるぞ」
そんなことをセントが。
オレにははっきりと二人の姿が見えないが、確かにこの光景には見覚えがある……。
あっ、サエとリッカだ……。
……今思えば、最初に地上に召喚された時に見た光景は、世紀末戦士達に追われていたリッカだったんだな……。
徐々に近づいてくる二人を見てオレは呑気にもそんなことを思う。
ていうか、なんで追われてるんだよ。リッカはなにかに追われる性質でも持ってるのか?
もしかしてリッカのせいでこの町に魔物が接近中なんじゃないのか?
あの光景を見て、こんなことを言い出す冒険者も現れる。
「あの量の魔物をどう相手すればいいんだ!」
「終わりだ、スタット村の終わりだ……」
「母ちゃん。今までありがとう! 産んでくれて、ここまで育ててくれて……」
時々親に今までのお礼を言い出す冒険者も。
なんだかスタット村の人達にとても申し訳ない。
他の冒険者達を見るに、本当にこの状況はまずいらしい。
オレはさっさと町に帰って避難してしまおうか……。
そんなことを思うなか、遠くから声が聞こえてくる。
「助けてー!」
知るか。
「あっ、お兄ちゃーん。助けてくださーい!」
……よし、頑張ろう。オレ頑張るよ。
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