第10話 こんな理不尽は嫌だ!

 ──昨日は世紀末戦士のカシラ頭になんとかタダ泊めてもらい、朝になり目が覚める。

 ぼんやりと見えるサエの綺麗な髪と、可愛い寝顔が……ん?

 だがオレの目に映ったのは綺麗な筋肉、可愛いさの欠片もない男。世紀末戦士のカシラ頭。

 オレはカシラ頭を見て悲鳴を上げて飛び起きる。

 ……その寝顔は軽くトラウマになりそうだ。


 「──なんだ、うるせえなぁ」


 オレの悲鳴で起きたカシラ頭はとても不機嫌そうにする。


 ──そうだ、オレは昨日、サエと寝ようとしてたらリッカが入ってきて……。



 「──サエ、こんな変態と同じ部屋で寝ちゃダメよ! 変態がうつるわ!」

 「で、でも、部屋は一部屋しか借りてないですし……」

 「そんなのもう一部屋貸してくれるようち頼めばいいわ。この家、無駄にでかいのだし」

 「え、えぇ……」


 その時オレは酷くショックを受けて、そのまま寝込んで……。


 「でもその時このカシラ頭は居なかったはずだ。なぜオレの寝床で寝てるんだ。……もしかしてこの人、あっち系なのか……」

 「誰があっち系だ! 出てけ、今すぐ出ていけ!」


 無意識に声に出していたオレに、マジギレしたカシラ頭がオレを怒鳴りつけた。


 「ご、ごめんなさい!」


 言ってオレは猛スピードで家を出た。


 「……ヒラガ!?」

 「……お兄ちゃん!?」


 猛スピードで家から出ていくオレを見て、サエとリッカは同時に声を上げる。

 だがオレはそんな二人を無視して一目散に逃げた。そう、世紀末のような人が怖いのだ。

 


 ──ギルドに逃げ込んだオレは受付娘の所に駆け込んだ。

 オレは息を切らして、受付の机に両手をついて、今にも死にそうな顔をしていた。


 「ど、どうしたんです?」

 「はぁはぁはぁ……。す、すみません。オレを癒してください……」

 「えっ!? 本当にどうしたんですか? ついに頭がおかしくなったんですか?」

 「いえ、そんなことじゃないですよ。実は──」


 オレが事情を話そうとした瞬間、バンッ! と大きな音を立てて扉が開き、サエとリッカが堂々と入ってきた。


 「やっぱりここに居たのね。カシラ頭に怒鳴られたからってすぐ逃げ出して……」


 言いながらオレの方に二人は近寄ってくる。


 「お兄ちゃん、あの人見た目はかなりアレですけど根はとてもいい人なんですよ」


 サエ、リッカ……。

 こいつらなんだかんだ言ってオレのことを心配してぐに追いかけてくれたようだ。


 「しょうがないだろ! 怖いもんは怖いんだよ!」

 「あなたって本当にヘタレなのね……」


 あきれた顔をしてリッカが言う。

 逆になぜリッカはカシラ頭を見て怖がらないのだろう。暗い夜道でオレの手を握っていたのはなんだったんだ。怖いものなどないじゃないか。


 「そうですよヒラガさん。カシラ頭はあれでもBランク冒険者ですし、腕が立ちます。いつもはこの時期にはスライム討伐をして町を守ってくれますし」


 受付娘までもがそんなことを言い出す。


 「だったら今はなんで自堕落に家で子犬と遊んでんだよ。英雄なんだろ? オレにはそうは見えないがな」

 「「「「子犬!?」」」」


 受付娘だけでなく、オレの話を聞いていた冒険者ギルドの皆が一斉に驚いた。

 ……あれ、これ言ったらまずかったのかな。またカシラ頭に怒鳴られやしないだろうか。


 「あのカシラ頭が子犬を飼っているんですか?」

 「すみません、またオレ怒鳴られるのは嫌なんで……」

 「そ、そうですよね。今のは深く聞かないことにします。でも、話したくなったらいつでも来てくださいね」


 とても知りたそうだが深く聞かないのは、受付娘の規則でもあるのだろう。


 「あと、明日はスライム駆除のゲリラクエストがありますので、そちらの方もよろしくお願いしますね」

 


 ──オレは『行く訳ないだろ』と答えてギルドを出た。

 オレの中でスライムは最強の魔物認定されているのだ。

 そんなスライムを最前線で駆除とか死ぬに決まっている。やたら報酬金が高くても、今回だけは乗る気になれない。

 ──そして今オレ達は武具屋の前に来ている。

 そう、オレが偽物の鉄の剣を買った武具屋だ。

 オレはメタルスライムのベムを仲間にした後、怒りのままに捨てた偽物の鉄の剣を拾っておいたのだ。

 ……証拠にするために。

 そしてオレ達は武具屋の扉を開いて、中に居る店長の所まですぐさま歩いていく。


 「あ、あの、一体どうしたんです?」


 オレの気迫に驚き戸惑いながら聞いてくる。


 「オレのこと、覚えてるか? 覚えてるよな、客に偽造品を売ったんだからなあ?」


 ここ最近世紀末の連中とやけに絡んでいたオレの言葉は怖さに磨きがかかっていると思う。

 そして、ほらと言うばかりに壊れた木の剣をオレと店長の前のある机に置いた。

 すると店長は一瞬目を逸らした後に、首を傾げる。


 「これが証拠だ。これがどういうことか説明してもらおうか」


 この世界にも警察はいる。ということは法やなんやらはあるはずだ。

 偽物だと知りながら売ったとすればオレに多額の補償金が入ってくるはずだ。

 ……オレの勝ちだ。もう働かなくてもいいし、クエストなんて行かなくてもいいかもしれないぞ。


 「それが、どうかしたんですか?」


 おっと、認めたととも開き直ったな。


 「どうかしてますよ! 警察呼びますよ!」

 「なぜ警察を? それは元々【木の剣】として売ったはずでは?」


 そう言って店長はオレの目をじっと睨(にら)んだ。

 あれ、とぼけ始めた。だがそれは無駄だ目の前に証拠品を突き出しているのだから。


 「おいおい、何言ってるんだ? これを見て見ろよ。どう見たって……鉄の……」


 オレの突き出した証拠品がない。

 嘘だろ? どうやって消した? そんなのありか?


 「おい! あんた証拠品を何処やった? ……惚けるな! ここに置いた証拠品だよ!」


 だが、店員は首を傾げて惚け続けた。

 この人もしかしてこういう事に慣れてるんじゃないだろうか。

 オレが目を離したのはほんの一瞬。惚け始めたことと睨まれたことに驚いて、店長の目を睨み返したほんの一瞬。

 この証拠隠滅速度はもはやプロとも言える。

 だがオレは今日一人で来ている訳ではない。


 「おいサエ、リッカ。オレの剣知らないか? ……ってサエ!」


 だがサエとリッカはオレの事などお構いなしに、装備を試着したりして遊んでいた。


 「──? お兄ちゃん、どうかしたんですか?」


 本当にこいつらは、こいつらは……。

 肝心な時に限って役に立たない。だが……。


 「いいや、なんでもない。もう帰ろう。それとこんなとこもう二度と来ないからな」


 何も知らないように驚くサエとリッカだが、今回だけは今着ている可愛い装備姿に免じて許してやろう……。


 「いいものも見つけたし、それじゃあ帰るわよ!」


 そう言ってリッカとサエは店を出て……。


 「おい待て! その装備を置いていけ! 買うお金なんてないからな!?」


そのあとオレはリッカの弓の矢を武具屋のサービスという事でタダで貰って帰った。

……口止め料みたいで怖い。

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