第7話 喋るスライムがうるさい!

 「──はっはっはっはっ!」


 オレの目の前でメタルスライムが大声で笑っている。

 そう、目の前のメタルスライムはオレの仲間の無能さに笑いが止まらないのだ。


 「そこの剣使いは偽造された木の剣を買うし、そこの子は杖をギルドに置いてくるわ。弓を持った子は肝心の矢を買ってないのかよ」


 そう言ってまた大声で笑い出す。


 「はっ、はらが、腹痛い。ははっはっはっはっ!」

 「ちょっと黙ろうか!」


 オレはそんなことを言うスライムに怒鳴り込む。てか、このスライムの『腹』というのがどこにあるのか教えてもらいたい。


 「わ、悪いな。はっはっはっはっ。つい」


 そしてオレはある疑問をメタルスライムにぶつける。


 「てかお前メタルスライムなのに、なんでそんなに喋れるんだよ」

 「お、俺か? そんなのわかるかよ! 気がついたら喋れるようになってたんだよ」


 はたしてそんなことはあるのだろうか。

 それはつまり、猫が急に人語を話し出したのと同じだ。


 ん? 待てよ。もしかしたらオレはこいつを上手く使えば、商売繁盛はんじょう出来るかもしれない。そしたらオレは……。


 「よし、スライム、オレの仲間にならないか?」

 「なんでそうなるのよ! スライムを仲間に誘う冒険者なんて聞いたことがないわよ!」


 当たり前のことをリッカが言う。

だがオレはその当たり前を変えるのだ。ゲームでもオレは、流行していた武器を変えてしまうまでのプレイを魅せたのだ。

 大丈夫、オレならやれる! 頑張ろう鈴木平賀(すずきひらが)!


 「そうですよお兄ちゃん! なんでよりにもよって喋るスライムなんですか? なんだか夜が怖いですよ……」

 「お、おいそこまで言わないでくれよ。俺はスライムでもちゃんとした心はあるんだぞ」


 先程まで可愛いと言われていたが、女子陣に猛反対されてしょんぼりとするスライムを見て、オレはメタルスライムに手招きする。

そしてノコノコと寄ってきたメタルスライムと、オレは腰を落として小声で話し始める。


 「おい、オレの仲間になればこいつらと毎日一緒なんだぞ。ちょっと残念なとこはあるが、見てれはいいし料理は上手い。どうだ? 仲間にならないか?」

 「……わかった! その交渉乗った! 俺からしてもそれは上手い話だ。それと俺はベムって言うんだ」

 「よし、交渉成立だ。オレは鈴木平賀(すずきひらが)だ。これからよろしくな」


案外簡単に受け入れてくれたな……。


こうしてオレとメタルスライムの交渉が成立した。

今日からこのスライムも仲間になるのだ。

ほら、やったら出来ただろ? オレは昔からやればできる子なんだよ。

そんなことを思いながらサエ達の方を見ると。


 「ちょっとあなた達、何をこそこそと話してるのよ?」

 「いや、なんでもない。それよりこいつは今日からオレの仲間になった」


 そう言ってオレはメタルスライムを手に乗せる。意外と軽くて可愛い……。


 「はー? 私は嫌だって言ったわよね?」


 どことなく自然なことを言い出すリッカにオレは鎌をかけてみる。


 「何勘違いしてんの? リッカはまだ仲間になってないじゃん。自分から『私はあなたの仲間になったわけじゃないからね!』って言っただろう?」


そう、リッカはただ着いてきただけ。オレが仲間だろうと言ったことも否定したのだ。


 「そ、それは……つまり、その……」

 「ん?」

 「私だって気を張ることはあるのよ! あなたギルド内でやけに注目されてたし……」


 あぁ、それはオレのエルフ事件のせいだろう。そう考えるとオレはサエに無意識に気を使わせていたのだろうか。


 「なら、リッカはオレの仲間ってことでいいんだな?」


 オレがそう言うとリッカは少し恥ずかしそうにして。


 「え、ええ、まぁそういうことになるわね。えと、これからもよろしくね」


リッカは少し下を向いて、右手の人差し指で頬をかき、照れながらそんなことを言い出す。

 オレは素直なことを言い出したリッカのことが初めて可愛く見えた。そうか、この子はツンデレなのか。


 「そ、それじゃ、クエストは達成したってことで、もう行くわよ」

 「おう!」

 「ちょっと二人とも待ってくださいよぉ」

 「三人だ!」

 「二人と一匹よね?」

 「……」

 

 ──オレはこの日、愉快なメタルスライムの仲間ベムと、メイドのツンデレ少女リッカと仲間になった。


◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□


 「──えっと、これはどういう……」


 目の前にいる女性がオレから距離を取って震えながら言う。

 オレ達はクエストの報酬を貰うため、冒険者ギルドに帰ってきた。そして現在、オレは新しく仲間に入れたメタルスライムを手に持っている。そしてなぜだか分からないが受付のお姉さんを困らせている。


 「メタルスライムです」


 メタルスライムのベムはいつになく静かだ。町に入ってからまだ一言も口にしない。……もしかして人見知りなのだろうか。


 「ええ、だからなぜあなたはメタルスライムを持ってるんですか!」

 「仲間だからですよ?」

 「な、仲間!? そんなの聞いたことありませんよ! もしかして、私の服を溶かすつもりですか?」


 受付のお姉さんは歯を震わせて胸を隠すように手で覆う。


 「なんでそうなるんですか! そんなことするわけ……しないよな?」


 オレは手に持っているメタルスライムのベムをちらっと見てから再び話し始める。


 「そんなことより報酬を!」

 「そんなことじゃないですよ! クエスト内容はメタルスライムの討伐ですよ? そんなのクエスト達成とは言えませんよ」

 「えっ……」


 クエスト達成にならない。メタルスライムの討伐が達成条件……。


 「お、おいヒラガ。なんで俺をそんな目で見るんだ? や、やめろよ? 仲間だよな? 俺達仲間なんだよな?」


 「すまないなぁベム。オレ達、明日の食料がないんだよー。だからさ、な?」


 「お兄ちゃん、本気なんですか! 嘘だと、嘘だと言ってください! お兄ちゃんはそんな人でなしだとは思っていませんでしたよ!」

 「そ、そうよ。いくらなんでも酷い。酷いわ!」


 サエやリッカはオレに猛反対する。


 「なんなんだ、仲間にしたいと言ったら嫌だと反対し。金にすると言っても猛反対しやがって!」

 「そ、それは同情くらいしますよ、いくら服を溶かすで有名なスライムでも!」

 「そうよ。少し可愛いだけで大した取り柄もないスライムでも、同情くらいするわよ!」

 「おい、待った! 俺の扱い酷くないか!? それに俺はメタルスライムだぞ! 可愛いし硬い。経験値も豊富だ。これが取り柄だろうが!」


 「サエさん。サエさん。このスライム、今自分で何か言いましたよ」

 「リッカさん。リッカさん。このスライム、倒されてから取られていく経験値が取り柄だと思ってますよ」


 クスクスと笑う二人を見てオレは思う。


 女子って怖い。


 「お兄ちゃん、女子は怖くないですよ。まぁ、ベムさんのことで後でじっくりとお話は聞きますが」

 「そうね、仲間を金にしようとした人に時間はあまり使いたくないけどね」


 思わず声に出ていたらしい。でも今の話を聞いたらわかるだろう? ……女子って怖い。


 「うるさい、うるさい! てかお前ら明日の食料がなくていいのか! オレは毎日美味いもん食って生きていければそれでいいんだよ!」


 「なっ、とうとう正体を表したわね。ダメ人間! こいつ、仲間を金にして裕福になろうとしてるわ!」

 「酷すぎます! お兄ちゃんの人でなし!」


 「……そ、そんなに言わなくてもいいだろう」


 サエとリッカはいつの間にかこれ程仲良くなっていたとは……。

 オレは驚きつつも、自分の意見を変えないで受付娘にメタルスライムのベムを預けようとする。


 「やっ、辞めてくださいよ! 本当に服を溶かす気ですか。この変態!」

 「何が変態だ! ふざけるな! オレはただ……へ?」


 今の受付娘の声に反応して周りの空気は静まり返る。

 そしてオレは何人かの男たちに囲まれる。そして一人の男がオレの胸ぐらをつかみあげる。男の力でオレは体ごと持ち上がる。


 「──あ、あの。話を聞けば……わかりますって……」

 「話なんか聞くか! 俺達のアイドルに何変態なことしようとしてんだ!」

 「だっ、だからこれには深い事情が……」

 「知るか、ちょっとこっちこいや!」


 オレはそのまま男に担がれて、ギルドハウスの外に連れていかれた。


 「あ、あれって、少しまずいのでは……」

 「……だ、大丈夫よ多分」


 

 ──そして人気のない謎の場所でオレは地面に落とされる。


 「──痛! おい、何すんだよもっと優しく……」


 オレの目の前にものすごく怖い男、いわゆる世紀末な奴らが多くいた。そしてそこのリーダーらしき人はオレの顔をガン見している。


 「いえ、なんでもないですごめんなさい!」


 そのあとオレは縄で手足を締め付けられて拘束される。

どうなっちゃうんだオレ……。


 「話を聞こうか坊主」

 「……はい! なんなりと!」

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