第4話 異世界来てまで働きます!

 ──再び飛ばされたオレは、異世界で目を覚ます。


 だがオレの視界は全く映っていない。


 あのゲス女神が不具合でも起こしたのだろうか。

 本当にオレの視界に何も──。


 ……ん? なんだか狭いな……。


 オレは少し体を動かしてみるが、あまり動けない。


 暗くて人が入れるような箱の中?


 オレはそれに思い当たるものがある。

 オレは両手を強く上にげる。

 するとオレの思った通り、視界に光が入ってくる。


 「──よっと」


 そしてオレは体を起こした。

 周りにはやはり人が多からず居る。

 そう、やはりオレは棺桶かんおけの中にいたらしい。


 「そんな……馬鹿ばかな……」


 あっ、ちょっとまずいかもな。

 死んだはずのオレが棺桶から出ちゃったらまずいよな……。


 「イヤァァァ! ゾンビよ!」


 「何あれ、なにあれー!」

 「見ちゃダメよ!」


 周りにいた人達は悲鳴をあげて一目散に逃げていった。


 たった一人を除いて。


 「──お兄ちゃん。もう、心配したんですからね?」


 そう、サエだ。

 サエは顔をクシャクシャにして泣いていた。


 「……悪かったな」


 そしてこの事件は『気絶した鈴木平賀(すずきひらが)を死んだと思い込んださえの手違い』ということで幕を閉じた。

 


 ──その後オレ達は冒険者ギルドに戻って話をしていた。


 「お金の話になるんですけど、クエスト失敗及び農家の方々からの賠償金がですね──」

 「聞きたくない、聞きたくない!」


両耳を塞いでオレは叫ぶ。


 オレ達は今後についての作戦会議中だ。

 今回のクエスト失敗はかなり痛い。

 これはゲーマーの名折れだ。

 今後はもっと慎重に装備を集めたりしなければ。


 そんな話をしている中、オレはある女性に目がいく。


 「お兄ちゃん? どこを見て──」


 そう、以前オレ達が振られたエルフ、アンリィにだ。


 「まだ諦めてなかったんですか?」

 「そう簡単に諦められるか! エルフだぞ。エ、ル、フ!」


 ていうかあの人、今日は一人で何を……。


 そんなことを考えながら眺めていると、アンリィは突然こちらに向かって手を振る。


 それを見てオレは手を振る。


だが、オレの後ろの入口から手を振りアンリィに近寄っていく男が……。


 アンリィはそんなオレの方を見てクスッと笑う。

 そう、手を振った相手はオレではないのだ。


 「やぁアンリィ、何分待った? ん? どうしたんだいそんなに笑って?」


 オレは徐々に恥ずかしくなってきて机で顔を隠すようにしてうずくまる。


 「いや、ちょっと、面白くって……。──」


 そう言ってアンリィは机をバンバンたたき出し笑う。 


 そ、そんなに笑わくてもいいだろ!


 オレはさらに恥ずかしくなり、ギルドを出た。

 


 「──お兄ちゃん! 待ってくださいよ。一体どうしたんですか?」

 「聞かないでくれぇ……」

 「……あ、はい。聞かないことにします」


 サエはオレが落ち込んでいるのを察したのか深く聞いてこなかった。

 こういう気遣いしてくれるとは、サエはなんて優しい妹なんだ。


 てか、あの男は誰だ。まさかアンリィの……有り得るな……。


 「それで、これから本当にどうするんですか? 私達ギルドに入ってから一日しか経ってないのにもう借金の額が──」

 「聞きたくない! 聞きたくない!」


 オレは耳を塞いでサエの言うことを聞こうとしない。


 「でも、これはさすがに現実逃避できる額では……」

 「なんでこうなった! オレは異世界で成功するつもりだった。思えばチートな能力もエルフもクエストも全部ダメだ。オマケに借金をゲットだ。どうすればいいんだよ!」


 そんな話の最中オレはとある男に声を掛けられる。


 「おい、君。だったらうちで働いてみないかい?」

 「へっ?」

 「楽だし、給料は弾むからさぁ。ね? 来てみないかい?」


 黒フードのおじさんだ。

 いかにも怪しい話を持ちかけてきたが、オレは楽で儲かる話に乗らないわけがない。

 通常オレは働きたくないが、こういううまい話は別である。


 「わかりました!」

 「へっ? お兄ちゃん!?」

 「そんじゃあこっちだついてきな」


 オレはそんな怪しいおじさんにノコノコとついて行く。そんなオレの後ろをとても不安げにサエがついてくる。


 「ほ、本当に大丈夫なんでしょうか……」


 サエは小声で呟く。


 「大丈夫だって心配すんなよ」

 「どこからそんな自信がきてるんでしょう……」

 


 ──そしてオレはどこか怪しげな店に連れてこられる。オレ達は恐る恐る店の裏口から店内に足を踏み入れる。


 「キミ、そこの、えっとじょうちゃん名前は……」 

 「サ、サエです」

 「そうかサエちゃんか! こっち来て!」


 ……。


 「はっ、はぁ……」


 サエは黒フードの男の後ろをついて行く。


 「あの、オレはどうすれば」

 「君はちょっとだけそこで待っててね」


 ……この人町であった時と態度がまるで別人だ。

 


 ──オレは言われるがままにそこで待つことにした。

 だがオレはサエのことがとても心配になり、サエが入っていったドアに耳を傾ける。


 「サエちゃん早速服を脱いでね」

 「えっ、ちょっと恥ずかしいですよぉ」

 「いいから、いいから」


 ──!?


 「ちょっと待った! あんたオレの妹に何やらせようとしてんだ!」


 オレは慌てて扉を開けて、サエの方を見る。


 だがオレの目の前には女子二人が着替えをしているだけだった。

 いや、だけじゃないか、これはまずい。


 「お、お、お兄ちゃんのド変態! 出て言ってください!」


 サエは顔を真っ赤にして怒鳴る。

 オレは謝り扉を閉めた。するとそこに先程のフードの男が謎の短い棒を持ってやってきた。


 「──のぞいたんだね……」

 「あの、ごめんなさい!」

 「そんなのじゃダメに決まっているだろ?」


オレは今ので、もうクビになってしまうのだろうか。


 「本当にごめんなさい」

 「ほらこうしてこれを使って……」


 男は棒をサエ達が着替え中の部屋の壁に突き刺した。

 すると壁には音も立てずに小さな穴があいた。


 「これでバレずに覗けるだろ?」


 男はそう言って方目を閉じて棒を目に当てる。


 「……あの、これは……」


 そう聞くと男は首を傾げる。


 「覗き専用の道具だよ?」


そんな心配はなかった。

 『ダメ』というのは覗きのやり方だったようだ……。

 こんなアホに謝った自分が恥ずかしい。

 

 「ですよねー……。あんた、サエがオレの妹ってこと忘れとんのか!」


 オレは男の覗いていた棒をガチャガチャといじり奪おうとした。


 「おい、コラ! まて、落ち着け! 話せばわかる」

 「わかるか!」


 「覗きは男のロマンだぜ?」


 「…………一回死んでこいや!」

 「悪い、悪かった。今度からは君だけが使ってもいい。だから……」


 「……そういうことなら許してやるよ」


……。


 ──こうしてオレ達の秘密の契約が成立した。

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