第3話 もう辞めてくれ、トラウマなんだよ!

 「お兄ちゃん、いつまでねてるんですか?」


 オレはあれからずっと冒険者ギルド内の椅子に座って不貞腐ふてくされていた。


 「だってエルフがよぉ……」

 「エルフエルフって……。──それにあの女は最低ですよ。自己紹介までしたのに、私達が新人と聞いた瞬間、急に態度を変えて逃げたんですもの」


 そう言われてみればそうかもしれないけど……。でもエルフは……。

 オレはサエの目を見つめる。


 「もういいですから。さっさと【クエスト】というのを受けに行きますよ」


 そう言うとサエは椅子から立ち上がり、クエストボードの方に歩いていった。


 「ちょ、ちょっと待ってくれよ……エルフ……」

 

 ──そしてオレとサエはクエストボードに並んで立つ。


 「お兄ちゃん、これなんてどうですか? Fランクの魔物ベビィの──」


 「絶対に嫌だ!」


 「ならこっちのメタルスラ──」

 「無理無理無理無理! スライムってのは強いの! 怖いの! あれはオレの中でこの世界のAランクの魔物ばけものだよ!」


 オレはに反応して即座に拒否した。

オレはスライムが苦手なんだよ!


 「でも今は、スライムの駆除くじょのクエストしかないですし……」

 「なんでよりによってスライムしかないんだよ!」

 「今、この町に被害をもたらすのはスライムしかいないからですよ。ほら、ここを見てください」


 そう言うとサエはクエストボードに貼ってある一枚の紙に指をさす。


 『主人が畑に侵入したスライムの討伐をしようとしたところ、スライムの毒で体の一部を失ってしまい。主人は見るも絶えない姿になってしまい……』


 「──やっぱスライム怖ーよ!」

 「でも農家の人が困ってるんですよ? それに報酬金はなかなか高いですし……」


 「──賞金? やろう!」


 「──ッ!? お兄ちゃんは急に態度が変わることがありますよね……」


 サエはオレの顔を見ながら驚いたあと、小声で呟いた。

 

 ──オレ達はクエストを受けて、農家の主人の家に来ている。


 そして家の扉をノックをすると『入ってもいいわ』という声が聞こえたので扉を開けたのだが。


 「──あの、これはどういう……」

 「やぁ、ようこそ私の家へ。上がってくださいな」


 オレの目の前には見るも絶えない姿になったはずの主人がいる。


 女装をした主人が……。


 「──こらっ! あなた、勘違いされるじゃない」


 そこにお袋さんらしき人が現れ、主人にゲンコツを入れる。


 「あ、冒険者さん、ごめんなさいね。私の主人がスライムのせいで……」

 「聞いてくれよ冒険者さん! 私の夢がスライムのおかげでかなったのよ」


 この主人はいわゆるオネエなのだろうか……。


 ──オレは静かに扉を閉めた。


 「──待って! ちょっと待って!」


 お袋さんが慌てて扉を開けた。


 「冒険者さん、お願い! 主人をこんなふうにしたスライムを討伐して! すぐそこの庭に住み着いているから!」

 「でもそこの主人、今夢が叶ったって──」

 「そんなわけないじゃないの! 主人は仮装パーティー中なのよ、ね? そうよねあなた?」


 そう言ってお袋さんは主人の首を絞める。

 そうすると主人は苦しそうにもがきながらうんうんと頷く。


 「わ、わかりましたよ……。いくぞサエ」

 「……はい」

 


 ──オレ達は農家の庭(畑)に来ていた。


 畑の野菜は半分以上が荒らされ、その畑の中心に青いスライムの姿があった。

 確かセントとかいうやつはこいつを水で倒してたな……。

 ……よし。


 「──アクアショット! ……。あれ?」


 オレの手から水が出る。だがスライムには聞いていない。というか先程より元気になってる気がする。


 「お兄ちゃん、それ非常用の水ですよね? なんでスライムにかけてるんですか!」


 オレは後ろにいたサエの方を見る。


 「えっ? 非常用の水? でもセントってやつはこれで……」

「お、お兄ちゃ……」


サエは震えた声を出して、呆然としている。

……一体どうしたんだろうか。


 「あんた、何やってんだい! アクアスライムに水をかけたら大きくなるんだよ!」


 言いながら農家のお袋さんが慌てて家から飛び出してくる。


 大きく……?


 オレは恐る恐る後ろを振り返る。

 

 「ぷにー!」

 

 スライムは先程とは比べられないほど、大きくなっていた。


これはやばい。本当にやばい。

そもそも水が効かないのならオレの手には負えない。


 「──スライムさん、オレの仲間になりませんか?」


 ……。

 


◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□


 ──オレは目が覚め周りを見渡すと、黒い世界。白い柱が十二本立っているだけの謎の建物(?)の中にいた。


 前にも来たことがある場所だ。 


 「性懲しょうこりもなくもう帰ってきたのね……」


 そう、オレを転生させ、学校を忘れさせてくれた女神様がいる場所だ。


 「別にきたくてきてるわけじゃないですから……」

 「それもまた巨大スライムを見てショック死とは……。先が思いやられるわ」


 先? まさかオレには託された使命とかがあったりするのか?


 「まさか、妹に聞いておらんのか? まぁいい私から説明しよう。お前達には魔王を倒す使命を与えて転生させたんだ」

 「……オレがですか? スライム相手にショック死したオレがですか?」

 「そうよ」


 無茶振りにも程があるが、まぁ転生された理由の王道だ。

 オレは魔王を倒すほどのチートを貰っていない。

 貰い忘れたのだ。

 チート特典さえあればオレだって異世界無双が……。


 「ならオレにチート能力をくださいよ!」

 「何を言っているの? そんなのあるわけないじゃない」


 えっ? ないの?


 「だったらどうやって魔王を……」

 「努力するしかないでしょ?」


 おい嘘だろ……。

 チート能力ないのかよ……。

 本当にどうやって魔王を倒すんだよ。


 「そんなの無茶苦茶だ!」

 「これが転生の条件なのよ? さぁ、魔王を倒す?」


 なんて女神だ。

 だったら自分で倒せばいいじゃないか。

 あぁでもどうせ人間に加担してはいけないとかいうのあるんだろうな……。

 でもスライム相手に死んだオレが魔王を倒すなんて……。


 オレはしばらく沈黙を続ける。


 「あら、いけない。あなたの妹さん、あなたを見て泣き崩れちゃってるわよ」


 なんてゲス女神だ、妹の泣いてるところなんてオレは見たくないぞ。

 でも……。


 「生き返れるんだな?」

 「えぇ」


ゲス女神はオレの言葉を聞いてニヤリと笑う。

 

 「だったら、オレが魔王をぶっ倒してやるよ!」

 

 「いい意気込み、契約成立ね!」


 ──そしてオレは女神の作り出した魔法陣を潜り、再び異世界に飛ばされた。

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