第2話 エルフが欲しい!

 「──ここが最南の町スタットだ」


 俺の目の前にはそこまで大きくはないが小さくもない、普通ではない町があった。

 町の門はスタットの【ス】の字が大きくドーンと立っている。

 この町を作った人のセンスを疑う。

 この世界の言語は日本語なのだろうか……。


 そして手を振って門で出迎えてくれたのは、オレの妹サエだった。


 「もう、心配したんですよ!」


 そう言ってサエは頬を膨らませている。


 「サエ、俺はだいじょ──」

 「セントさん」


 えっ……。


 「男達の集団から助けてくれたと思ったら、ぐに大型モンスターの方に走って行ってしまったんですから」

 「ああ、ごめん。無事でよかったよサエちゃん。ていうか君たちが兄弟だったん。襲われているところとか、お似合いの兄弟


 誰だよこいつ! 口調変わりすぎだろ! 妹(さえ)の心配返せよ!


 「それじゃあ俺は先に失礼するよ」

 「はい、ありがとうございました!」


 ……。


 「お兄ちゃんもお礼くらいしたらどうです?」


 絶対に嫌だね!

 

 ──その後、オレ達は冒険者ハウスに行ってみた。


 「冒険者ギルドに参加希望ですね?」

 「はい!」


 そしてオレたちは今、受付のお姉さんに冒険者ギルドへの参加を志願した。


 「少々お待ちください」


 やっぱり異世界って言ったら、まずは冒険者ギルドだよな。ここで大金手に入れて美味いもの食べていけたら、もう文句はないよな……。

 いや待てよ。異世界って言ったら『エルフ』じゃないだろうか。『エルフ』の存在って結構大事な気がする。小さい頃のオレの夢は『エルフと一緒に旅をする』だったしな。


 「スズキヒラガさんでよろしいですね?」


 そう言われてオレはコクリと頷く。


 「えーと、サトウヒラガさんのパーティーの冒険者ランクはF《えふ》からのスタートとなります。実績を積み上げることで最高 A《えー》ランクまで到達できます。これから頑張ってくださいね」


 ほう、この世界にはそんな制度があるのか。だがオレが成り上がるのは時間の問題だがな。


 「はい! ありがとうございます!」


 こうしてオレ達の冒険者ギルドの登録が終わった。

 

 ──そしてオレ達は冒険者ハウスのすみにある椅子に座る。


 「異世界に大切なのはなんだと思う?」

 「お金、でしょうか?」


 即答でお金が出てくるとは思ってなかったな……。確かに異世界でもお金は大切なのだが。


 「違うだろ! 異世界に必要なのはエルフだ!」

 「エルフ……?」


 サエはまさか、あのエルフを知らないのか?


 「エルフの大きな特徴はとがった耳で、なんといっても可愛い! それに弓を持ってるエルフなんてのもカッコイイよな……」


 オレは手を握り熱く語り始める。


 「尖った耳?」

 「あぁ、異世界やゲームの王道の種族で、大抵の場合あまり姿を見せずに森で密かに暮らしてたりしてて、その世界の主人公くらいしか縁がない種族で──」


 「尖った耳の方は先程居ましたよ」


 「それでな……ん? 今なんて?」

 「あっ、ほら今ギルドに入ってきた」


 サエの指差す方向をオレは咄嗟とっさに見る。そしてそこには耳が尖っていて、顔立ちが整った、緑髪のロングヘアの美少女が。


 「エルフ!」


 オレは興奮を隠しきれずに机をバンと叩いて、甲高い声を上げ立ち上がる。エルフはオレのことなんて全く気にしていないようだ。受付嬢の方に優雅に歩いていく。


 「おっ、あの子か最近の噂のエルフってのは」

 「そうそう、噂では一人でAランク冒険者の実力があるらしい」

 「あれがかぁ……」


 ギルド内は彼女の話で持ちきりだ。

 そんなに強い冒険者の人は是非ともオレ達のパーティに入って欲しい。なにせ、今オレ達のパーティに足りないものは『戦力』なのだ。


 「よし、あの人に声掛けてくる」

 「お兄ちゃん!?」


 そう言うとオレはエルフの女性の方に、声を掛けにいこうと歩きだす。


 「おい、にいちゃんやめときな。あんた新入りなんだろ? 悪いことは言わねぇよ。兄ちゃんじゃあついていけねぇぞ?」


 オレはそのアドバイスなど気にせずに、エルフの少女に声をかける。


 「あの、良かったらオレ達とパーティ──」

 「いいわよ!」

 「「「「えっ!?」」」」


 即答するエルフに、冒険者ギルドの人達が一斉に驚く。そしてオレの顔を見てくる。その視線を無視してオレは軽く自己紹介を始める。


 「オレは鈴木平賀すずきひらが。それでこっちが──」

 「あ、私はサエと言います。これからよろしくお願いします!」

 「私はアンリィよ。よろしくね」


 オレは今日とてもついてるのではないだろうか。異世界の珍しい種族エルフに会えたし、パーティも組んでくれた。

 今日はとてもいい日だな。オレが引き籠ってたついこないだまでは、こんなことになるなんて考えてもなかったよ。

 ありがとう女神様!

 そんなことを考えていると、ギルド内の一人が立ち上がる。


 「エルフの姉ちゃん、本当にそいつでいいのか? そいつは今、冒険者になったばかりの新入りだぞ? 姉ちゃんがパーティ募集したらもっと腕のいいやつでも入ってくれるだろうし……」


 このおっさんは突然何を言い出すんだ。嫉妬か? 嫉妬なんだろ! 可愛いエルフを取られて嫉妬してんだろ? だが残念だったなおっさん。オレはもう子のことパーティを──。


 「スズキさん、ごめんなさい!」


 「えっ──」

 「「「「えー!」」」」


 オレと同時にその場にいた皆が驚いた。


 「少し用事を思い出してしまいました。それでは」


 アンリィさぁぁん? えっ? ちょっと待って! こんなことある?

 

 ──こうしてオレの夢は終わった。

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