妹と面白い(無能な)仲間達

第1話 波乱だらけの一日目!

 「──ここは、どこだ?」


 今、オレの目の前には広大な草原のド真ん中に木が二三本立っているような場所にいる。

 オレの妹、サエと共に。


 「……そういえば女神に異世界召喚いせかいしょうかんされたんだったな」


 今あった出来事なのに少し昔のことのように思えてきた。


 「サエ、起きろサエ。……おはようサエ」

 「……お兄ちゃん……ッ!? も、もしかして私に何かしましたか?」

 「誤解だ、オレが何かするようなやつだと思うのか?」

 「それはだって……」


 さっきのことをまだ誤解してるのか。オレはただもしものときのために前もって『学校に行きたくない』という願いをしたかっただけなのにな。

 そして起き上がったサエは周りを見渡す。


 「……ここはどこですか?」

 「異世界だ」

 「本当に異世界なんですか? 私てっきり悪い夢でも見ているのではと──」


 オレもそう思いたいよ。妹に殺されかけたんだからな。


 「──で、あれは何ですか?」


 サエの指さす方向に大量の砂埃すなぼこりが舞っている。


 「これはあれだな。異世界行った時のイベントみたいなやつだよ。大量のモンスターに襲われる所をチートで倒す的な」

 「でもなんだかモンスターには見えないんですけど。てかこっちに来てる気がするんですけど!」


 砂埃をたてながら、こっちに何かが大量に押し寄せてくる。


 「──女だー!」

 「俺のもんだ、俺のもんだ!」

 「こっちこいやオイ!」

 「助けてー!」


 上半身裸の男達がこちらに迫ってくる。

 もう距離はわずか百メートル程だ。


 「やばい、やばいやばい。早く逃げるぞサエ!」

 「はい!」


 てか今助けてって聞こえた気が……。

 後ろを振り向くと、腕を全力で振って逃げる少女の姿が。


 「──しゃーねーな!」


 オレは立ち止まり大量に迫り来る男達の方を見る。


 「サエ、先行っててくれ、オレはあとから追いつくから」

 「お兄ちゃん!?」

 「気にすんなって」

 「わっ、分かりました」


 サエはそう言うとオレを置いて一目散に逃げる。


 「サエは行ったな。よしオレの異世界チート見せてやる!」


 サエに先に行ってもらったのは、オレのチート能力でサエに被害が及ぶのを防ぐためだ。

 そしてオレは片手を前に出して男達の方に向ける。


 「くらえ! アクアショット!」

 

 ……あれ? おかしいな……。


 オレの手から魔法は出ない。それから何度もアクアショットを打とうとするが魔法が出ることはない。

 この世界は魔法がないのか?

 そうこうしているうちに、男達との距離はもう二十メートルほどしかない。


 「オイッ! 出ろよ魔法! 出ろよ水! 出ろって言ってるだろ!」


 その時オレの手の前に魔法陣ができあがる。

 そして出来上がった魔法陣にオレは興奮して……。


 「よっしゃくらえ! アクアショット!」


 そしてついに魔法陣から水がでる。


「わー出たー…………ははは……」


 ジョウロから出る水のように。


 「なんだてめぇ!」


 そんな水で男達を倒せるわけもなく、オレは男達に投げ飛ばされ、道中の踏みつけにされる。


 ごめんなサエ、こんなお兄ちゃんで……。


◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□


 ──あれからどれくらいの時が経ったのだろう。

 踏みつけにされたオレはボロボロの状態で、未だに高原で倒れている。


 サエ達は無事なのだろうか……。


 オレは体を起こしてサエ達の向かっていった方向を眺める。

 もう男達の姿もない。


 オレはボロボロの状態でサエの逃げていった方向に歩き始めた。

 

 道中大量の魔物らしきやつらがウロウロとしていた。

 こんな状態でも、魔物を見るとなんだかゲーマー魂が疼く。


 「さっきの奴らは人間だった。だから手加減したんだよ」


 そんなことを言ってオレは魔物の方に向かっていく。


 ゲームの攻略はレベル上げが肝心なのだ。


 そしてオレはよく見る紫色のスライムみたいなやつに狙いをつける。

 出現率が多いのでこいつが狙い目だと思ったのだ。


 「くらえ!」


 オレはスライムに殴りかかった。

 

 ぷにっ!

 

 ぷにぷにぷにぷにぷにっ!


◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□

 

 「──はぁはぁはぁ……。なんだこいつ全然攻撃が効いてない」


 そうかこいつを倒すのは打撃では無理なのか。オレのゲーマーとしての感がそう言つている。

 オレはスライムを倒すのを諦めてまた歩き出した。

 

 『ぷにっぷにっぷにっ!』

 

 だけどなんだか後ろが凄くうるさいんだが。

 

 『ぷにっぷにっぷにっぷにっぷにっ!』

 

 「静かにしろよ、うるせーよ! ……?」


 オレが後ろを向いてそう言ったが、スライム達はどうやら怒っていたようだ。

 どんどんスライム達か合体していき大きくなっていく。


 「あの、すみません。もう少しお静かにしていただけると幸いなのですが……」


 『ぷにー!』


 ……ですよね。


 「ごめんなさーい!」


 オレは一目散に逃げた。


 オレは今日何度逃げればいいのだろうか。

 こんなのでいいのか? 

 真のゲーマーが逃げてもいいのか? 

 そう、これはゲームだ。

 オレはこのゲームを攻略しなければならんのだ。

 オレはそう言い聞かせて後ろを振り向く。

 ……だが。


 「ちょっと! さっきよりもでかくなってないですか?」


 『ぷにー!』


 そしてスライムは紫の液体を吐き出した。

 オレは咄嗟とっさにその液体を避ける。

 あの色は本当にやばい、誰でもそう思えるくらいにやばい。

 紫の液体が落ちた地面の草がやはり溶けていた。


 「やばいやばいやばい」


 オレは死ぬのか?

 オレはスライムに殺されるのか?

 そんなバカな……。


 そんなことを思ったそのときだった。


 「──よく粘ったな少年! 俺が来たからにはもう大丈夫だ」


 オレの目の前に一人の男が現れた。

 男は大きな大剣を持っていて、短髪でオレよりも十は歳が上に見える。

 オレが女だったらこの絶体絶命に現れてくれるヒーローに惚れていただろう。

 男は大剣を片手で振り上げて肩に乗せ、大剣を持っていない方の手をスライムの方に向ける。


 「アクアショット!」


 男の手からジョウロから流れるような水が出る。


 「……ん?」


 するとスライムはだんだん小さくなっていく。

 そしてスライムの姿はなくなった。


 「大丈夫だったか?」

 「あっ、はい……」


 ……あの水で倒せるのかよ、てか大剣使わないのかよ!


 「──それで、君はここで何をしているんだ?」 

 「えっと、あっちの方に逃げていった妹を探してます」


 そう言ってオレはサエが逃げていった方向を指差す。


 「あっちは町の方だな、君の妹はおそらく無事だろう。町の方は冒険者も多い」

 「本当ですか!?」

 「あぁ、本当だ」


 オレはそれを聞いて心底安心した。

 サエが無事ならオレはこの世界で生きていける。


 「町に向かうのなら俺が一緒について行くよ、クエストも終わったしな。俺はセント、よろしくな」

 「オレは鈴木ヒラガ、よろしくな」


 ──こうしてオレ達は安全に町に向かった。

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