第225話 赤城、死す!


「うわーーー熱い! 熱い! 焼ける! 体がーー!!」


赤城は声を上げながらも魔法を唱えた。


「このままではマズイ! 女子のみなさん、僕を守りなさい! チャーム!!」

赤城が魅了の呪文は広範囲に広がり、そこにいる全員を網羅した。


女子と言うことは俺には無力なのだろう。

が、まずい!

ここにいる全員が敵に回る事になるかもしれない。


「このスライム、チャームの呪文なぞ使いおって生意気じゃの!」


ミリアの毒舌が飛ぶ。

さすが『真祖のヴァンパイア様』だ!

ミリアには無力のようだ。

智弘、則之は何事も無かったように赤城に向けて獲物を構えている。


七海は?七海は女子だ!

まずいかも!


「ファイヤーボール!!」

七海は赤城に向けて再度、魔法を撃つ。


良かった。七海には魔法が効いていない。


栗原、篠原は意識が朦朧としながらも則之、智弘の方へ向かおうとしている。。

高沢、芦沢は素手で俺の方へ構えた。

高沢は踊り子だが芦沢は・・・・・武道家か何かなのか?


井原だけは槍を赤城に向けて構えていた。



「赤木君を助けて! お願い! 撃たないで!!」

「止めて! 赤木君に何をするのよ!」


姫川と小幡が絶叫する。

あぁぁぁ、こいつらはダメか。

予想通り過ぎる。

『赤城君ファンクラブ』には効果てきめんのようだった。


チッ!面倒な事になった。


「バカか! お前ら! もう俺たちの知っている赤城じゃないだろ!

 もう赤城は魔物になってしまったんだよ!」



「助ける方法はあるはずよ! やめなさい!」


小幡がライトセーバーを持つと


ブーン!


という音とともに発光する刀が現れ智弘に斬りかかった。


「止めろ! 小幡!」


マジカルなんちゃらを使い応戦するが智弘は小幡の剣筋を防ぐだけで攻撃を仕掛ける事はしなかった。


「赤木君、逃げて!」


コイツは何を言っているんだ!

クラスメイトが捕食されているんだぞ!


姫川もミョ~~ンニルを背中から取り出し構え七海に襲い掛かるがバックステップでかわす。


「姫川さん! 止めて!」


井原が七海の元に駆け寄りロンロンギヌの槍でミョ~~ンニルの攻撃を防ぎながら叫ぶ。


「もう魔法は撃たせないわよ!」


「姫川さん! 何をしているか分かってるの!!」


「赤木君は私が守るの!」


完全にチャームの呪文にどっぷり浸かっている!


「スライムが逃げるぞ!」

ミリアが叫ぶ。


追いかけようとすると栗原はエクズカリバーを抜き、則之に襲い掛かり、剣と剣がぶつかり合う音が響く。

逃げる赤城を追いかけようとする智弘に篠原はクナイを投げ、忍術を使い行く手を遮る。


姫川は七海と井原に対面する。

七海は姫川に魔法を撃つ事を躊躇い腰に挿してある剣を抜きミヨ~~ンニルと打ち合うが技量に差があるため一方的に押されるが井原が加わると体勢を整え見合う。


ミリアは小幡と対峙しライトセーバーで斬りつける。

ライトセーバーがミリアの左手首を跳ね上げる。

ミリアの手首が切断され宙に飛ぶ。


「うぬ! 小娘!よくもわらわの手を斬りおったな!

 碧、こやつを殺しても良いか?!」

ミリアが物騒なこと言い出す。


「ダメに決まってるだろ!

 魔法に掛かっているだけだよ!」


「この小娘は深く魔法が掛かりすぎているように感じるぞ」


「それでもダメだ! 何とかしてくれ!」


「あとで血を沢山吸わせろ! いいな」


「分かったよ。吸わせてやるから何とかしてくれ!」


ボクンッ!

という音とともに小幡が俺の目の前を転がり、木にぶつかると『うぐぐ』と言いながら蹲っていた。


ミリアは小さいくせになんと言う馬鹿力なんだ。

今の状況を考える俺がミリアに張り倒してもらった方が赤城のところますっ飛んでいけて良かったのかもしれない。


俺の前には高沢と芦沢が立ちはだかった。

芦沢の後ろに高沢が立ち、踊りを踊っている。

何らかのバフを掛けているのだろう。

芦沢が両手を鷹のように上げ


「キェー!」


と威嚇のポーズをする。


マズイな。

芦沢は武道家かもしれない。

そして、


「アチョーーー! フッ!フッ! フッ!!」


と大声を上げ拳を繰り出す。

緊張が走る。



・・・・・・が、お、お、遅い。



遅すぎる。

俺でも楽に見切れる速さだ。

一応、タナニウムの焼肉プレートを構え拳を受ける。


コン!


と軽い音がする。


「痛----い」


芦沢が大声を上げる。


何なんだよ、コイツは!


「碧! 芦沢は錬金術師だったはずだ!」

智弘が篠原の攻撃をかわしながら教えてくれる。


「へ?」

高沢は錬金術師に何かしらのバフを掛けたのかよ!

それにしても地味で目立たない芦沢の職業まで記憶している智弘に驚きながらもタナニウムの焼肉プレートで芦沢をブッ飛ばす。


「痛----い!」


高沢にも悪いと思いながらもプレートでブッ飛ばし赤城の後を追いかける。


「痛い!」


と二人は吹っ飛び座りながら騒ぐ。


マズイ!

相当、距離を離された。

森の100m前方を赤城が燃えながらも飛び跳ねる様に逃げていく。


クソ!!

追いつけない。


距離はどんどん離されていく。


将太!将太!!将太!!!

追いつけないのか!

将太を助けることが出来ないのか! 情けない。



歯を食いしばり走り続ける。

が、差は開く一方だった。

ダメなのか!

俺はヤッパリ駄目な男なのか!





そのとき、燃えながら逃げる赤城の前方に黒いコートを着た人影が見えた。

あの時の獣人の女だ!と俺の中の何かが知らせてくれた。

そして、それは一瞬のことだった。


巨大な透き通った赤い大剣が空を斬ったと思った瞬間、赤城の上半身とスライムの下半身が切断されたのが見えた。

則之のくじら君でも斬るそばから切断部がくっついていったスライムのボディーが二つに分かれた。



「うぐっ」


赤城の短い叫び声が聞こえる。

上半身は宙に飛び、下半身は地面を転がり、その拍子に球体の下半身に取り込まれていた将太も地面に投げ出された。


「将太!!」


走る! 走る! 全力で将太の元へ走った。

将太は裸体のまま動くことは無かった。

黒いコートを着た獣人は将太の側に跪き、ヒールを唱えていた。


「息道が詰まっています。早く、人工呼吸をしてあげてください」


その獣人の声はどこか懐かしく優しい声をしていた。

将太の胸を数回押し肺の中の空気を出した後、俺は大きく息を吸い将太の口へ息を入れた。

もう一回。

まだ、将太の呼吸も意識も戻らない。

もう一度、大きく呼吸をし将太の口から肺へ息を入れた。


「うぶ!」


と将太が言うと口から多量の液体を吐き出した。


「ぶふっ、ぶふっ!」


咽ながらも意識を取り戻した将太の背中を叩き肺に残っているスライム汁を全部吐き出させた。


「アオ君! うわーーーーー!!」


意識を取り戻した泣きながら将太が飛びついてきた。

昔と何も変わっていない。

将太は泣き虫で弱虫だった。

だけど誰よりも優しく思いやりがあった。


「大丈夫か? どこも溶けてないか?」


と将太を見ると・・・・・

綺麗な形の双丘が目の前に!

露になった下半身が・・・・・・


「見ちゃダメーーー!」


将太は慌てて両手で裸体を隠しながら身を縮ませた。

このまましばらく堪能していたい気もするがマジックランドセルからとりあえずの服を取り出し将太に渡した。


顔を上げ、側に立っている獣人の女剣士に礼を言おうと顔をあげると、そこにいるはずの剣士はいなかった。

辺りを見回してもいなかった。



「ウグ! 熱い! 熱い!」


俺と将太の側で赤城だったスライムの上半身が地面を転がりまわりながら叫ぶ。


「赤城君!」

「赤城君! 今、助けてあげる」


小幡は脇腹を押さえながら走ってきた。

その後を姫川も追いかけてきた。


「熱い! 溶ける! 溶ける!!」


赤城が叫ぶと姫川と小幡は着ていた制服の上着を脱ぎ、制服で赤城を叩き一生懸命、火を消そうとするのであった。


「水! 水は無いの!!」


姫川の叫び声が響く。

なおも、姫川と小幡は赤城についた火を消そうと制服で叩くが制服にも火が燃え広がり制服を投げ捨てた。


「「赤城く~~~ん」」


二人は燃え上がり黒焦げになった赤城を見て泣き声を上げた。


風が吹くと、かつて赤城だった黒い塊は崩れ落ち、スライムの飾りがついた冠だけが残った。

その冠も砂のように崩れ、風に吹かれ砂塵となっていった。


そのとき、俺たちはフェルナンドに対する切り札を失ってしまった。


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