第224話 スライム


「やぁ~みんな元気だった? 逃げ足が速いから追いかけるのに苦労したよ。ハハハハハ」


そこには俺たちのクラス委員で勇者を選んだ変な冠を被った赤城がいた。

その冠は七つの尖った突起の先端に泣いたり笑ったり怒った表情のスライムが一つ一つ付いていた。


「「「赤城君!」」」

「キャー―!赤城君!無事だったのね!」

「良かった!赤城君が無事で良かった」


姫川の取り巻きの赤城大好き女子たちが振り向き赤城の下へ駆け寄った。


「みんな無事だったみたいだね。良かった。良かった」


赤城が両手を広げ女子たちを招く。


何かおかしい。赤城はそんな事をする性格ではないはず。

誰にでも優しい男だが馴れ馴れしいスキンシップなどする事は無かった。

智弘と顔を見合わせると智弘の顔にも不信感が浮かび上がっていた。


「赤城君」

「赤城君」


姫川と小幡も赤城に駆け寄ろうとしたが他の3人に比べ明らかに出遅れていた。

一人、芦沢だけは俺と智弘の方へ歩いてきた。

芦沢真由美、この子もあまり目立つことはなくメガネを掛けた地味キャラで、クラスでも浮いている存在の子だった。


「芦沢、お前は赤城のとこへ行かないのか?」


「私がいっても迷惑になるだけだし・・・・姫川さんに疎まれたくないから」

とボソリ話した。


最初の三人が赤城に飛びつき、赤城は3人を抱きしめた。


「良かった。良かった。みんな無事で・・・・・・・」


赤城が柔らかく笑うと


「みんながいなくなったら僕の食事がこまっちゃうからね」


というと赤城の下半身はは巨大な球体状になり飛びついた3人を取り込む。

球体の上には腰から上の赤城いた。


「キャーー」

「何なのこれは!」

「気持ち悪い」


「う~~~ん、いい声だね」

赤城が言うと液体となった下半身がが3人の女子を包み込む。


「うぷ、うぷ」

「苦しい!」

「息が出来ない!」


透明な液体の中で女子たちが吐き出す空気の泡がブクブクと浮き上がる。


「うん、もっといい声になったね~ 美味しく頂こうか」


一瞬、目の前で起きたことが理解できなかった。


「赤城! 止めろ! お前、どうしたんだ!」


「やぁ~白田か! 元気だったかい? 今、食事中なので後にしてくれ!」


あっ!という間に女子たちの服が溶かされ裸体になっていく。


「スライム!?」


智弘の呟きがかすかに聞こえた。


「お前の知り合いにはスライムもいるのか?」

とミリアが尋ねてくる。


「んな分けないだろう!

 普通の人間だったよ!」


「呪いのアイテムでも使ったのか?」


何故、こんな事に。

俺は西原の事を思い出した。

西原がアイテムによって魔物化しようとしていたように、赤城もまたアイテムによって魔物になってしまった。

西原のときと違い赤城は完全に魔物化ししいるようだ。

西原は自我を持っていたが今の赤城には人としての欠片を感じることができなかった。


赤城が自ら魔物になるなんて考えずらい。

フェルナンドの仕業か!?

フェルナンドの冷たい目を思い出した。



「あのスライム、消化が速いぞ!」


ミリアの言葉どおり、捕食された女子たちの皮膚が溶けていく。

女子たちに当たらないようにマシンガンを赤城に向けて撃つ。


ダダーン! ダダーン!


「おいおい、止めろよ! クラスメートだろ! 痛いじゃないか!」


マシンガンを撃っても赤城はなんとも無かったように答える。


「赤城! 女子たちを離せ!」

智弘も叫びマジカルなんちゃらを伸ばし赤城に向けて突き刺すが水に棒を差したようにダメージを与えることはできなかった。


「赤城君、止めてよ! どうしたんだい?」

将太が叫ぶ。


「おやおや、僕を知っているようだけど君は誰だい? 美少女だね。次は君を食べてあげよう」

と言うと赤城は両手を伸ばし将太の体に絡みつき自分の下に引きずり寄せようとした。


「止めてー 赤城君! 止めてよ! 助けて、アオ君!」


「将太殿!!」

則之が躊躇することなく長く伸びた触手に斬りかかり切断に成功する。

ここは格好良く俺が触手を切断したかったのだが・・・・則之の方が圧倒的に速かった。


「赤城殿!どうしたでゴザルか!!」


「誰だい?君は? 君も美人だね。体が大きいから食べ甲斐がありそうだね。 

 うん、緑の髪の子より君にしよう」


赤城は触手を次々と則之に狙いを定め伸ばすが片っ端から切断する。

が、切断された触手は下に落ちると球状になったかと思うと赤城の足元へ転がり、再度赤城と合体した。

キリがないが則之は果敢に斬りかかる


「女子を解放するでゴザルよ!」



もう女子たちは巨大な球体の中で動く事ことはなかった。

則之が駆け寄り、下半身に捕食された女子たちを切り離そうと赤城の上半身と球体のスライムの境目を斬りつけるが斬ったそばから切り口が塞がってゆく。


「金髪の君は手ごわいね。やはり、緑髪の子にしよう」


と言うと球体の下半身から触手を伸ばし将太を捕食した。

触手が将太に絡みついたかと思うと球体の下半身に取り込まれる。



「アオ君!助けて! ウブウブウブ!」


スライムの体液を飲み込み苦しそうに声をあげ、俺に助けを求めてきた。



「しゃべるな! 息を止めろ!」


将太が飲み込まれたときには先に飲み込まれた女子たちは骨になっていた。


「あのスライム、消化力、異常だぞ!」

とミリアが言う。


「ファイヤーボール!」

七海が魔法を唱え命中する。


「止めろ! 犬女!」


「赤城君! どうしたの? 私たちを思い出して」


「僕は犬の仮面を被っている人に知り合いはいないんだけど」


「七海紫音です!」


「うん? 七海さん?・・・・・確か亡くなったはずだよね。

 僕に遭いたくなって生き返ったのかな?ハハハハハ」




赤城はけっしてそんな事を言う男では無い。

奢ることなどなく、誰にも優しく心配りが出来る男だ。

こいつは、もう赤城では無いんだ!

俺の知っている赤城はそこにはいなかった。

そこにいたのは赤城の姿をした魔物だった。


魔物だった! 魔物! 魔物!

赤城・・・・・赤城・・・・・


「クソッ」

思わず声に出してしまった。



「ファイヤーボール!」

智弘も呪文を唱える命中すると


「ウワーーー!」

と叫ぶ。

明らかに赤城は嫌がっている素振りを見せる。


「ミリア! お前もファイヤーボールを唱えろ!」

智弘が指示を出す。


智弘、七海、ミリアがファイヤーボールを唱える。

命中するたびに『ウグッ!』という呻き声を赤城だったスライムが発する。

将太の服は鎔け始め肌が露になっていく。

早く、早く、何とかしなくては!


火が苦手ならあれを使うか。

マジックランドセルから小分けにしたガソリンの瓶を取り出し、蓋を開け赤城に向け投げつけた。

瓶は見事に上半身の赤城に命中し体全体にガソリンを被った。



西原がイフリートになりかけたときの事を思い出した。

あの時も西原を救うことは出来なかった。

ナミラーの女冒険者パーティーの魔法使い、ライムさんが言っていた話しを思い出した。


「身につけたら最後、道具に体や魂を乗っ取られる。

 助ける方法は倒すしか無い。

 倒すということ、即ち殺すということ」


すまん、赤城。お前も助けてやる事は出来なさそうだ。


バシュンッ!


俺はマシンガンを照明弾モードにして逃げる赤城に向け撃った。

照明弾の火花が気化したガソリンに引火し赤城が一気に燃え上がる。



「うわーーー熱い! 熱い! 焼ける! 体がーー!!」


赤城は絶叫が周りに響いた。


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