第226話 碧、また刺される!!

風に吹かれ崩れてゆくスライムの飾りがついた冠を見る。

冠の傍には姫川と小畑が跪き泣きながら


赤城君、赤城君・・・・


と二が連呼する。

この二人は分からないが栗原、篠原、高沢たちは頭を左右に振り幻術状態から覚めたようだ。

赤城が死んだ事により魔法が消えたのだろう。

何とか他のクラスメイトを傷つけずにすんだ。


西原に続いて赤城まで俺は殺してしまった。

多分、ルホストの町にいたであろう鈴木も。

赤城に火を掛けた事に後悔は無い。

あのまま赤城が逃げていたら将太が助からなかった。

あの獣人が斬らなくても赤城はあのまま焼死していただろう。

それくらいスライムは火に弱い。

それが分かっていたから俺はガソリンを掛けた。

赤城には申し訳ない事をしたとは思う。

が、あそこにいたのは赤城であって赤城ではない。

赤城の姿をした魔物だ。

西原のように魔物なる前に何とかしてやりたかった。

多分、西原のときのようにフェルナンドに呪いのアイテムを見に着けさせられたのだろう。

あのスライムの飾りがついた冠を付けさせられたのだろう。


赤城を失うこと、すなわちフェルナンドを封印することが出来ないということ。

俺たちの負けだ。

が、後悔は無い。

後悔は無い。



そして・・・・・

俺は現代世界に戻ることが出来たとしたら許されるのだろうか?

許してもらえるのだろうか・・・・・・

ハルフェルナで生き残れたとしても日本へ帰ればクラスメイトを殺した罪は免れないのではないだろうか?

過去の歴史においてクラスメイトを3人もこの手で殺す高校生がいるか?

否、いないだろう。

俺は立派な殺人者だ。

ナミラーでも500人以上を、ルホストでは町一つを。

大量虐殺者。

勇者・茜の兄は大量虐殺者としてハルフェルナの歴史に名を残すのだろう・・・・・・



将太に服を渡し立ち上がった瞬間!


「赤木君の仇!!」


グサ!!


俺は後から刺された。

光る剣が俺の腹から突き出ていた。


「「「キャーーー!」」」


女子の悲鳴が聞こえた。

その中には七海の声もあった。

ゆっくりと剣の光は消えていった。


「アオ君!!」


「碧くーーーーん!」


「碧-----!


「碧殿! 何をするでゴザルか! 小幡殿!!」


ヒール! ヒール!! ヒール!!!


と悲鳴にも似た呪文の詠唱を聞きながら俺は意識を手放し深い眠りに入った。





^-^-^-^-^-^-^-^-^-^



俺の顔に太陽の日が当たる。

そして目が覚める。

いつものベッドで俺の手を腕枕にしながらタナとロゼが仲良く揃って寝ている。

今までの事は夢だったのだろうか?


スーピースーピー


と二匹、いや二人は寝息を立てている。

二人の可愛い顔を見ながら目覚める。

時々鼻をヒクヒクさせたり、口をムニャムニャとさせる。

それがまた可愛い。

いつもと同じ変わらない日常。



「お兄ちゃん! 時間だよ! 早く起きて!!」


ドアの向こうから茜ちゃんの声が聞こえる。


「タナ、ロゼ。おはよう」


タナとロゼは目を開ける。が、起きようとはしない。

二人の頭の下から腕を抜くと、ようやく起きる。

まずは背中を伸ばし、次は後ろ足を伸ばすように『伸び』をする。

いつも二人揃って同じタイミングで。

おれがベッドから足を下ろすと二人もベッドから飛び降りる。

そしてお座りをしながら再度、体を反らせる。

服を着替えている俺の周りをそわそわと落ち着きが無く二人揃って回る。


「散歩、・・・・・・・・・行く?」


と二人に聞くと耳をピンとさせ二人は尻尾をブンブンと振り回す。



「じゃ行くか!」


と言うとダダダダダと勢い良く階段を降りていく。

二人は玄関で姿勢良くお座りをし、首輪とリードを着けるのを待っている。


「茜ちゃん、散歩、行ってくるね」


いつも返ってくる茜ちゃんの声は聞こえない。

玄関を開け外へ出るのだがタナとロゼは玄関から一歩も動かない。


「どうした?行くぞ! 散歩!」


二人は玄関でお座りをしたまま微動だにしない。


「行くよ! 行かないの!?」


二人が動く事は無かった。


その代わりタナはこう言った。


「あの子をよろしく」




「あの子を助けてあげて」


とロゼが言った。

二人の目は俺に懇願していた。





^-^-^-^-^-^-^-^-^-^-^




「うう~~ん」


「碧くん。気がついた?」

意識の遠くで七海の声がする。

目を開けると木々の隙間から日の光がこぼれてくる。

どうやら赤城と戦った森で寝かされていたようだ。


・・・・・あれは夢か。

また現代の夢を見ていたようだ。

あぁ、タナ、ロゼに会いたい。

二人を優しく撫でてあげたい。

散歩は大丈夫かな?

ご飯、大丈夫かな?

帰ったらお風呂に入れてあげないとな。

色々なことが思い出される。


「碧くんの意識が戻りました」

七海が振り向いてみんなに知らせる。



「アオ君!!」


将太が駆け寄ってきた。


「良かった! ヒールが効いたみたい」


「また、将太に助けられたな。ありがとう」


「僕だってアオ君に沢山助けられているから、お互い様だよ。

 だって、僕たち兄弟みたいなものだしね」

と将太が笑って言う。


「碧殿! 気がついたでゴザルか!」


「あぁ、今、気がついたところだ」


「命に別状無くて何よりでゴザルよ」


智弘がムッスリした顔で歩いてくるのが分った。

ミリアも一緒に渋い顔をしている。


「碧、大丈夫か!」


「あぁ、何とか生きてるよ。将太のおかげだ」


「お主!大丈夫か?」


「おおミリアも心配してくれるのか!」


「当たり前じゃろ! お主は妾の大切な食料じゃからな!」


「おいおい、食料かよ!」


「で、あの馬鹿者の処分はどうするのじゃ!」


「それは」と言おうとした瞬間、智弘が


「あんなのと一緒に行動できるわけ無いだろ!

 碧を刺したんだぞ!

 則之がいなかったら俺があいつを殺しているところだったよ!

 状況を考えれば碧が好き好んで赤城にガソリンをぶっ掛けるわけ無いだろ!

 ちょっと考えれば分るだろ!」


なんでも智弘が怒り狂って報復したそうだ。

殴り飛ばし倒れている小幡の顔を踏みつけたそうだ。

栗原や井原では止める事ができず則之が脇を抱え高い高いをし小幡から引き離したそうだ。

その時も抱え上げられながら離せ! 離せ! と言って大暴れをしたそうだ。


「ホントにあいつは許せん!

 とにかく俺はお断りだ! 

 また碧が刺されるかもしれない!

 碧だけではなく俺や則之も刺されるかもしれない!

 将太が刺されでもしたら大変だぞ!

 将太のヒールがあったから碧が助かったんだ!

 将太が刺されでもしたら、どうなるか分かったもんじゃない!

 人を後から刺すような卑怯者とは行動なんてできない!!」


明らかに智弘も冷静さを失っている。

自分の発する言葉に怒りが再度着いたようだ。


「僕もアオ君を刺すような人とは一緒に行動できないな」


「拙者は碧殿たちと一蓮托生でゴザル!」

 

「もちろん、妾は碧と共に行動するぞ」


「七海はどうする? 

 井原や栗原たちと一緒に行動した方が良いと思うけど」


俺が言うと


「私も碧くんたちと行動を共にするわ」


「いや、俺はフェルナンドと紅姫に落とし前をつけるつもりでいる。

 危険だから井原たちと行動した方がいいと思う。

 ジーコさんかロッシさんを頼って保護してもらう方がいいと思うのだが」


「藍や凛たちには悪いけど私も碧くんたちと一緒に行動します」


「いや、俺としては安全なところにいてもらったほうが安心できる」


「もう、今さらでしょ。

 一緒に苦楽を共にして・・・・・・

 碧くんだけではなく水原君も緑山君も黒木君も私にとって大切な人たちだし、この旅の結末がどうなるのかも知りたいわ。

 それに碧くんがいないと人間に戻れないでしょ。

 だからみんなと別れる事は出来ません」


と手を後ろに回しハニカミながら言うのであった。


「そうだよね。今さら七海さんだけ仲間ハズレには出来ないでしょ」


「そうでゴザルな。

 七海殿は誰よりも強いから心配ないでゴザルよ」


「う~~~~ん」


俺は腕組みをしながら考えてしまった。


「まぁ~ 一緒に風呂にも入った仲だしな!」


「やーーそれは言わないで~」


七海が恥ずかしそうに顔を隠しながら言う。


「なになに! 紫音は何時から、そんなふしだらな子になったんだ!」


声の主の方向を見るとちびっ子忍者・篠原がいた。


「お前たちは、この豊満な裸体を堪能したのか?」

と七海の後ろに回り大きな双丘を揉みながら言った。


あぁ~~痴女・忍者! その胸は俺のもんだぞ!!


「キャーー琥珀! 止めて! 違うの、違うの!

 まだ私が骸骨だった頃の話よ!」


「骸骨って酷い自虐ね」


声の方を見ると井原が立っていた。


「白田、傷は大丈夫?」


「あぁ、将太のヒールのおかげで傷一つ無いよ!


「さすが聖女さまってところかしら。

 白田まで大事にならなくて良かったわ」


「お前には赤城の魔法が効かなかったようだけど」


「多分、それはスーツのおかげだと思う。

 魔法や物理攻撃に対する耐性が付いているの」


「なかなかのチートだな。

 エロっぽいし!」


「それは言うな! 恥ずかしいんだから」


「チャームの魔法は効果てきめんだったな。

 井原以外、完全に掛かっていたからな」


「紫音は掛からなかったけど、どうして?

 リッチには魔法は効かないから?」

井原が七海へ問いかけた。


「それは私の心の中に大切な人がいるからよ」

と少し恥ずかしそうに答えた。


「「え!?」」


井原と篠原が声を上げて驚く。


「誰よ!誰!」

「紫音! 誰!?」

七海は俺の方を恥ずかしそうにチラッと見た。


「え!?俺? 俺ですか?」


「えーーーーー!! 白田!?」

「白田は無いワー!!!」


井原と篠原の罵声が飛ぶ。

好意は持ってくれているのは分かったが、大切な人と言われるとは思ってもいなかった。


「お父さんは許しませんよ!!」

と篠原が言う。


「お母さんも認めませんよ!!」

と井原が言う。


お前たちは、いつから七海の親御さんになったんだよ!!


「白田君が告白してくれたから・・・・・私も・・・・・・答えました」

モジモジと身を捩りながら恥ずかしそうに答えた。


七海の急な告白に驚きいた。

いやいや、俺には七海に告白した記憶は無い。

こんな命の危険がある世界で告白した記憶は無いぞ!

何時? どこで? どんな状況で?

俺の頭の中で七海と出会いから今までの記憶が巡る。

分からん。分からない。


「あの~七海さん。何時、俺が告白しました?」


「え!? 酷い! 忘れたの?

 ルホストの町に屋根を掛けたときにナミラーの草原で『君の心が知りたい』って尋ねてきたのに。

 ・・・・・・私も勇気を出して答えたのに!」


へ!?

ルホストの町に屋根を掛けて火の魔法を撃ったときだよな。

住人が窒息するかもしれないって智弘が言ったときだよな。

で、草原で月を見たときだよな・・・・・・

お、俺、そんなこと言ったっけ?

記憶が無い。


「あの時、碧くんが『夕日が綺麗だね』って、私に尋ねてきたじゃない。

 私の心が知りたいって。

 勇気を出して『月も綺麗なのでしょうね』って答えたのに・・・・・・」


へ?

なして?なぜそれが告白になるの?

俺の頭の中は?????????の大群が踊った。


「ハハハハハハハ!

 それは紫音が悪い!

 白田が文学少女&乙女心を理解しているわけないだろ!

 紫音、白田が純文学なんて読んでいると思う?

 こいつが読むのはエロ本だけよ!」


「ブワハハハハハ!

 そうか、そうか、そういうことか!」


幼女・智弘が腹を抱えて笑い出した。


「どういうことなんだよ!!」


「元ネタは夏目漱石だろ。

 夏目漱石が日本人はそんな事は言わないとか言って『I LOVE YOU』を『月が綺麗ですね』と訳したという話しがあってだな、『月が綺麗ですね』は『あなたが好きです』という意味なんだよ。

 そんな感じで『夕日が綺麗だね』もそんな暗喩があるんだろ。

 で、それに七海も勇気を持って『月も綺麗なのでしょうね』答えたということだろ」


「え??よく分からないのだけど」


「あのね!白田!『夕日が綺麗だね』っていうのは『あなたの気持ちを知りたい』って言う意味なの。

 紫音の言った『月も綺麗なのでしょうね』は、早い話、『OK』って意味なの。分かった?」



「あぁ~~はい」


でも俺に罪は無いよな!

無理! 俺に純文学とか無理!

学の無い俺に、ガサツな俺がそんなことするわけ無いじゃん!


「俺は・・・・・七海の事を」

と言い隣にいた七海の手を握る。

そして七海は黙ってコクンと頷いてくれた。



「リア充、死ね!!」


俺たちのやり取りを聞いた篠原がボソリと言った。


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